Philsophy of Coexistence in William Blake: The Reception and Transformation by Oe Kenzaburo
Project/Area Number |
23K00353
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02030:English literature and literature in the English language-related
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 光 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (80296011)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2027: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2026: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2024: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
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Keywords | ウィリアム・ブレイク / 大江健三郎 / 寿岳文章 / 比較文学 |
Outline of Research at the Start |
本研究では、大江健三郎の小説において、ウィリアム・ブレイクの言葉と思想がどのように活用されたのか、を実証的に検証しながら、共生のための倫理を大江とブレイクから取り出すことを目指す。従来、大江による「誤訳」や「誤読」とみなされてきたものは、小説を組み立てる上で、意味のある「誤読」だったと考えられる。大江はブレイクをどのように読み替え、組み換えたのか。独自の解釈、部分的削除、他のテクストとの合成などは、どのように生じ、何をもたらしたのか。『個人的な体験』、『ピンチランナー調書』、『新しい人よ眼ざめよ』において、ブレイクとブレイク研究がどのように受容され、変容され、拒否されたのかを明らかにする。
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Outline of Annual Research Achievements |
大江健三郎『個人的な体験』でウィリアム・ブレイクの詩句が紹介される場面と、その場面について大江が二十年後に行った説明を検討し、大江がブレイクの翻訳を参照せず、原文に取り組んだ背景を探った。寿岳文章訳、土居光知訳、山宮允の注釈書を調査し、大江のブレイク理解に影響を与えた可能性が低いことを確認し、大江が参照したと考えられるブレイク全集とブレイク画集の版を特定した。また、『小説のたくらみ、知の楽しみ』に記された「人間存在の破壊されえぬことの顕現」という表現から、ミルチア・エリアーデの日記の英訳版と、エリアーデの日記で引用されたW・N・P・バーベリオン『絶望者の日記』へさかのぼり、短篇「新しい人よ眼ざめよ」において、『ジェルーサレム』第76プレートの絵と第96プレートの詩行が組み合わされた事情を明らかにした。大江のブレイクの読み方にはunlearnの実践という側面があることを、大江の『定義集』の記述と鶴見俊輔の著作を根拠として指摘した。以上の内容を「大江健三郎のウィリアム・ブレイク――まなびほぐしの過程を探る」として『ユリイカ』に発表した。 大江と同じようにブレイクの後期預言書に注目したブレイク研究者として、寿岳文章がいる。寿岳が1931年に刊行した『ブレイク論集』成立の背景を、寿岳と柳宗悦が共同で編集した月刊誌『ブレイクとホヰットマン』の「雑記」と柳の書簡をもとにたどった。また、『ブレイク論集』に収録された論考を、寿岳が関西学院に提出した卒業論文と比較し、その特徴を明らかにした。寿岳一家が健康を損なって入院した時期に、柳と橋詰光春が中心となって編集した寿岳の『ブレイク論集』は、精神的にも経済的にも寿岳を支えることになり、その購読者も含めて、寿岳の言うところの書物の共和国の象徴的存在だった。以上の内容を「寿岳文章『ブレイク論集』とは何か――著者と編者の批評眼」として『向日庵』に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大江は「四十代の初めからあらためてブレイクを読み続けていた」と記しており、これは1970年代後半から1980年代に相当する。「あらためてブレイクを読み続けていた」時期以前に、大江がブレイクにどのように接したかを解明することは、大江とブレイクとの関係を正確に把握するために必要な作業である。『個人的な体験』(1964)で「Sooner murder an infant in it's cradle than nurse unacted desires……」というブレイクの言葉が『天国と地獄の結婚』から引用された。種々のブレイク詩集と全集とを調査して、原文ではitsであるものがit'sと誤記されたことが確認できた。また、『個人的な体験』で言及されるブレイクの絵が、当時入手可能であったアンソニー・ブラントの研究書やケインズ編の聖書図版集の複製とは一致せず、既に指摘があるように柳宗玄編『ブレイク聖書画集』に由来する可能性が高いことを確認した。これらの検証作業によって、『個人的な体験』ではブレイクの作品とその世界観が「小説のたくらみ」として有機的に活用されたとは言えないことが明らかになり、1970年代から80年代に大江がブレイクをどのように読んだのか、を考えるための基盤が整った。 共生という点では、寿岳の『ブレイク論集』の意義を明らかにすることができた。寿岳は書物を通して自由な対話が保証された環境を書物の共和国と呼び、「書物の共和国で最も強い市民権をもつのは著者ではなくて、じつは読者なのだ」と述べた。『ブレイク論集』とは、寿岳がブレイクから抽出した共生思想の実践でもある。以上を踏まえて、本研究計画は順調に進捗していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
現在も継続中であり、今後も継続予定である作業は、大江健三郎『新しい人よ眼ざめよ』にちりばめられたブレイクからの引用を取り出し、引用元を特定し、原文を確定し、ブレイクの原文がどのように選び取られたかを明らかにすることである。また、大江はブレイク研究書からも情報を取捨選択しており、小説内におけるブレイク論として反映されている。ブレイクからの引用と関連して大江が参照した可能性のあるブレイク研究書を特定し、その受容、変容、拒否を検討することが必要である。この作業は2023年から2024年にかけて進めており、2024年度中にはある程度の目途がつく見込みである。
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Report
(1 results)
Research Products
(2 results)