大量死と隔絶の脅威に対抗する記憶と共有の演劇に関する総合的研究
Project/Area Number |
23K00405
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02030:English literature and literature in the English language-related
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Research Institution | Yamanashi Prefectural University |
Principal Investigator |
伊藤 ゆかり 山梨県立大学, 国際政策学部, 准教授 (80223197)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀 真理子 青山学院大学, 経済学部, 教授 (50190228)
小菅 隼人 慶應義塾大学, 理工学部(日吉), 教授 (40248993)
常山 菜穂子 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (00327686)
穴澤 万里子 明治学院大学, 文学部, 教授 (50339280)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,420,000 (Direct Cost: ¥3,400,000、Indirect Cost: ¥1,020,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,950,000 (Direct Cost: ¥1,500,000、Indirect Cost: ¥450,000)
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Keywords | 英語圏演劇 / 英語圏文学 / 比較演劇 / 大量死 / 戦争 / 記憶 / 演劇 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、大量死の脅威と隔絶に対抗し記憶を共有する演劇の可能性を追究する。戦争、テロ行為や自然災害などによる大量死は、死者数を強調する一方、犠牲者の生と死の実態を覆い隠し、非人間化する。その脅威のもと、われわれは社会から隔絶されて不安の中に生きる。演劇は、本来死の脅威と孤独に苦しむ人間を描くことで、彼らの生の記憶を観客に共有させる芸術である。コロナウィルス感染拡大の影響により、演劇における共有の意義が問い直されている今、本研究は、英米演劇を中心に、フランス演劇と日本演劇を視野に入れつつ、大量死の記憶を共有させ、その脅威に対抗する演劇の力を検証する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、大量死の脅威と隔絶に対抗し記憶を共有する演劇の可能性を追究する。われわれは戦争などの暴力および自然災害や疾病による大量死に脅され、社会から隔絶されて生きている。共有の芸術である演劇すら、新型コロナウィルス感染拡大の影響により変質を余儀なくされた。このような隔絶の時代にあっても、演劇は大量死の記憶を観客と共有しようと試みる。本研究は、英米演劇およびフランス演劇作品の精緻な分析に基づき、大量死の脅威のなか、共有の可能性が限られるという困難と直面しつつ、演劇がいかに大量死を描き、それをみることで観客がいかに大量死の脅威に対抗するのかを明らかにすることを目的とする。 研究メンバーは基盤研究Cとして、2014年度から「大量死の記憶と演劇的想像力に関する総合的研究」、2017年度から「大量死の記憶と亡霊の演劇に関する総合的研究」という課題で研究を進めた。アメリカ演劇、イギリス演劇、アイルランド演劇およびフランス演劇を専門分野とし、うち2名は並行して日本文学をも研究対象とする。本研究では、10年間にわたる研究を基盤に、大量死の複雑な背景に対する理解に必要なさまざまな分野の知見と広い視野をもって、大量死の演劇の可能性を検証しつつある。 2023年度は、大量死を描く戯曲の翻訳と分析を一冊にまとめた本の執筆を主として行った。いかに劇作家が大量死という言語化が困難な出来事を劇にしているのか、一語一語分析するために翻訳と論文という形を選び、話し合いを重ねて内容を決定した。戦争をはじめとした大量虐殺を描く劇と比較すると、大量死という観点で演劇が論じられることはまだ少ないなか、出版をとおして一般読者の関心を高め、本研究における重要な成果となることをめざしている。出版社ともやりとりを行い、2025年9月完成の予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画において、2023年度を新規課題研究とそれ以前の研究を結びつける年と位置づけ、その目標を達成した。23年度に発表した論文は、22年度までの研究の延長線上にありつつ、同時に翻訳兼論文集と関連するものである。研究代表者の伊藤ゆかりはある軍人一家をとおして、ヴェトナム戦争およびアフガニスタン・イラク戦争の傷跡を追求する作品を論じた。翻訳兼論文集においても、アフガニスタンからの帰国兵を描く戯曲を人間関係、特に家族との関係の変化から分析する予定である。共著書『ベケットのことば』を出版した堀真理子は、ベケット研究を中心に、黙示録的世界における個々の人間の倫理観を検証しており、翻訳兼論文集では大量虐殺の加害者と被害者を描く戯曲を取り上げる。小菅隼人は、一貫して初期イギリス演劇における集団と個人の関係に深い関心を示してきた。23年度は『リア王』を自然という観点で検証し、翻訳集では『マクベス』の翻訳と分析を行い、為政者という視点で大量虐殺を論じる。 本研究と直接関連する論文はないものの、常山菜穂子と穴澤万里子もこれまでの研究実績を基盤としつつ翻訳兼論文集の準備を進めた。穴澤は、翻訳などをとおして演劇上演に関わってきた実績にくわえて、フランス象徴演劇と日本演劇を比較するなど、日本とヨーロッパ演劇双方に関する深い知見をもつ。翻訳・分析する戯曲はギリシア悲劇を題材としており、初演にも関わったことから、必然的な選択をしたと言える。また、19世紀アメリカ演劇を専門とする常山は、「南北戦争を惹き起こした本」とも言われた『アンクル・トムの小屋』の舞台版を翻訳・分析する。大量死以前に上演された劇を大量死という視点で論じることで独自の研究成果をあげることが期待される。 このように今までの研究成果を活用しつつ、翻訳兼論文集に直接結びつく研究を継続したことから、順調に研究が進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、2つの方向から本研究の独自性を追求したい。ひとつは、自然災害による大量死を描く演劇の検証である。戦争、テロ行為などの暴力による大量死と、自然災害などによる大量死の双方を個別かつ総合的に検証することに本研究の独自性がある。伊藤はハリケーン・カトリーナを題材とする戯曲における大量死の表象を検証する予定だが、可能な限り、疾病による大量死を取り上げた作品にも目を向けたい もう一つは、23年度にひきつづき、戦争、内戦による大量死を描く作品の分析である。堀はイギリス女性劇作家の作品における加害者と被害者との和解の困難について、タッカー・グリーン作『真実と和解』を中心に検証する。小菅は、『マクベス』について内面描写を中心に論じる予定である。常山は19世紀アメリカ最大の「大量死」の事象である南北戦争について、「内戦」をめぐる批評理論を調査・検討して、レトリックを明らかにする。穴澤はギリシア悲劇における重要な要素である埋葬について論じる予定である。 最終年度である2025年度には、大量死を描く作品群の全体像を示す。大量虐殺を描く演劇を出来事や時代によって範疇化する例はしばしば見受けられるが、自然災害および疾病という視点を加えた新たな範疇化と、それによる全体像の提示を試みたい。このように研究の集大成をめざすにあたって、パンデミックの影響による演劇の変容という視座もくわえたい。コロナ禍による隔絶を経た演劇の変容に関する研究は国内外で始まったばかりで、困難も予想されるが、新たな視座による検証をとおして本研究の発展をめざす。あわせて、大量死を描く演劇作品についての書誌的価値をもつ文献一覧を作成したい。
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Report
(1 results)
Research Products
(3 results)