列島中世の五山文学にみる「個人」の成立に関する研究
Project/Area Number |
23K00838
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 03020:Japanese history-related
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
斎藤 夏来 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (20456627)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,950,000 (Direct Cost: ¥1,500,000、Indirect Cost: ¥450,000)
Fiscal Year 2025: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2024: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2023: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
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Keywords | 画像賛 / 肖像 / 五山文学 / 禅宗 / 個人 / 科学史 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、列島中世の禅僧・五山僧らの著作であるいわゆる五山文学が、人という現象を社会的所産としてだけでなく自然的所産としてもみようしている特色に注目し、「個人」の成立がどのように成し遂げられているのか否かをみる。有力者層の趣味的余業だという通念的理解から脱却し、非人論にも通底するような、社会に埋没しきらない「個人」の成立という問題を考える信仰史料として、五山文学を読み直すことをめざす。
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Outline of Annual Research Achievements |
申請課題にかかわるこれまでの作業のまとめとして、『徳川のまつりごとー中世百姓の信仰的到達』(吉川弘文館、2023年10月)を刊行した。主として自治体史等で目にしてきた近世史料に関する検討であるが、申請課題である中世五山文学にも深く関連する以下の新稿二編を執筆した。 第一に、第一部第三章「三州足助紙屋鈴木家史料にみる先祖供養と個人救済」では、愛知県豊田市域であらたに見出された近世の百姓画像に著された曹洞宗僧の賛や、それをとりまく諸史料について、一般市民向けの概要版を専門的な論文に書き改め、公表した。禅僧の著賛を有する画像といえば、禅僧の自賛頂相や戦国大名、戦国女性らの事例がもっぱら注目されがちだが、近世のごく一般的な有力百姓に、こうした文化が継受されている具体的事例を示せたのは一つの成果と考えている。 第二に、第二部第二章「僧儒の詩文と近世武士の信仰」では、長崎県対馬市の現地調査もふまえ、中世から近世にかけての対馬宗氏関連の画像賛の推移を検討した。また、近世黄檗僧鉄牛道機の語録「瑞聖鉄牛禅師語録」、近世初期の三河西尾藩主に仕えた儒者井川春良の詩文集「兼山詩文」など、五山文学の近世にかけての展開を考えさせられる諸事例を検討した。鉄牛の語録については、身障者個人を主題とする作品、井川の詩文集については、儒学者が口やかましくいう「忠孝」ではなく、当時の社会情勢のなかで亡き子に対する親の思いを代弁する作品を、それぞれ見出せたことが、主要な成果と考えている。 なお、学会誌等からの依頼により、中世禅宗史に関わる髙鳥廉著と原田正俊著の二編の専門書の書評を執筆したことを付言しておく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に、研究主題である五山文学・画像賛の背景事情考察の意味をもつ論考二編を執筆ないし校正中である。具体的には、尾張妙興寺開山滅宗宗興と、尾張定光寺開山平心処斉を主題とした論考である。前者は、渡来僧明極楚俊から滅宗に与えられた詩文、後者は、平心が中世尾張を代表する町場萱津の檀越医家に与えた詩文を、それぞれ重要な検討素材としている。いずれも、今回の申請課題で中心的な検討対象としている画像賛をとりまく南北朝期五山文学の事例検討としての意味をもつ。 第二に、主題にかかわる五山文学、画像賛の収集作業を進めている。具体的には、先行研究の収集および再読、各地の展覧会等に出向いての画像原本の熟覧、図録の入手などの作業を進めている。先行研究については、田中一松、谷信一、高橋正隆らの古典的な成果の確認、宮島新一、黒田日出男、伊藤大輔、黒田智、高岸輝ら肖像画史ないし絵画史に関する近年の著作の再読を通じ、膨大な画像群がどのような視点で整理されてきたのか、研究史の把握に努めている。 現状では、①平安期祖師図群、②平安・鎌倉期の似絵群、③大織冠や天神、絵画を勢力拡大に活用した真宗などを含む特定像主の画像群、④女性画像が目立ってくる戦国期の武家周辺の画像、⑤伝源頼朝像に代表される像主確定に関する検討などが進んでいる。他方で、本研究課題の中心である禅僧の著賛画像に関する検討はかなり手薄である実情を把握しつつある。その理由と、本研究であらたに提案すべき視角とを模索している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在作業をすすめているのは、顕密諸寺に多く伝来している真言八祖図(五祖、七祖図等を含む)、三国祖師影図と、そこに記されている賛文の内容確認である。そのうえで、これら顕密諸寺に伝えられた祖師図群のなかには、禅僧・五山僧の著賛事例があるという、従来あまり指摘されていない事実に着目し、従来の祖師図賛と、五山僧の著賛との比較検討に着手しつつある。中核的な素材として想定しているのは、東大寺伝来の天境霊致著賛・鑑真図である。また、精細な図版を入手できずにいるが、同じく東大寺に、中巌円月著賛・南山律師道宣図があるという情報に接している。その存否を確認する必要がある。 なお上記では、祖師「図」、鑑真「図」、道宣「図」などと表記してきたが、筆者は、いわゆる肖像・絵像群については、像主の生死を主題としない「図」群(祖師図、似絵類)と、像主の生死を主題とする「像」群(禅僧著賛の多く)とで、全体を整理しなおせないかという、従来にない仮説を形成しつつある。妥当性があるかどうか、さしあたり2025年度において検証を進め、もし妥当性がなければ躊躇なく撤回する。 なお、さる地方自治体から、読解を依頼された新出かつ無名の戦国武士の寿像賛、つまり生前像の禅僧著賛事例がある。上級武士に偏しがちな戦国大名ないし女性の肖像論を相対化する作業も積極的に進めてゆく予定である。
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Report
(1 results)
Research Products
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