Project/Area Number |
23K00944
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 03060:Cultural assets study-related
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
岩田 直美 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 助手 (00911538)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲葉 政満 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 客員研究員 (50135183)
貴田 啓子 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 准教授 (20634918)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2025: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2023: ¥2,600,000 (Direct Cost: ¥2,000,000、Indirect Cost: ¥600,000)
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Keywords | TEMPO酸化 / ナノセルロース / リーフキャスティング / 修復材料 / 紙質文化財 |
Outline of Research at the Start |
石臼式湿式磨砕機を用いて作製した高度外部フィブリル化楮繊維は、紙質文化財の孔埋めや強化修理に用いるリーフキャスティング法の原料として、本紙との接着性を高めることのできる高機能材料である。しかしこの楮繊維は乾燥させることが困難で、小規模な修復現場への供給は難しい。そこで本研究では、TEMPO酸化による化学的処理を試みる。この方法では、乾燥楮シートを作製できる可能性があり、これを家庭用ミキサーで解繊することにより、高度外部フィブリル化楮繊維を簡単に得ることができると考えられる。TEMPO酸化高度外部フィブリル化楮繊維は虫害の心配もなく、虫食い紙質文化財の容易で安全な修復材料の提供が期待できる。
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Outline of Annual Research Achievements |
紙質文化財の修理では、本紙の虫食い箇所を孔埋めする手法の一つとして、リーフキャスティングが用いられる。これは紙漉きの原理を応用した方法で、修理対象の本紙の上に和紙原料である楮などの繊維懸濁液を流し込み、脱水時に虫食い孔に繊維が集まって孔を塞ぐことで、新たな補填紙が形成される仕組みである。通常の楮繊維での補修では、本紙との接着力が不足するため、澱粉糊を用いることがあるが、虫菌の原因となるため望ましくない。そこで本研究では、ナノセルロース製造法の一つであるTEMPO酸化法を楮繊維に応用し、楮繊維の外部表面を毛羽立たせて接着性を付与し、且つ、輸送や長期保存に優れた乾燥楮繊維を開発することを目的とする。本年度は、煮熟した楮繊維についてTEMPO酸化を行い、カルボキシ基量を測定することで反応の程度を確認した。TEMPO酸化に用いる次亜塩素酸ナトリウム溶液の濃度を、2.5 mmolと5.0 mmolの2種で試験したところ、5.0 mmolのほうがカルボキシ基量は大きくなり、より反応が進行していることが分かった。TEMPO酸化後に、家庭用ミル/ミキサーによる解繊を行ったところ、楮繊維では、繊維外側の薄膜と思われる部分が薄く剥けたような状態となり、細かい繊維は増えたものの、依然として繊維は形状を保持していることが分かった。一方、対照試料として用いた針葉樹晒クラフトパルプでは、解繊後に透明なゲル状となり、ナノセルロース化を確認できた。解繊は、ミルおよびミキサーを用いて、1、4、8分間処理を行った。位相差顕微鏡による繊維の観察を行った結果、ミルによる解繊では、8分間処理を行っても、繊維長に大きな変化は見られなかったが、ミキサーによる解繊では、解繊時間が長くなるにつれて繊維長が短くなった。刃当たりや刃の形状によって剪断力が異なるため、解繊方法の選択には留意する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
TEMPO酸化に用いる試薬の一つに次亜塩素酸ナトリウム溶液があり、その濃度は反応の進行に大きく影響する。経時変化により有効塩素濃度が低下するため、正確な濃度を得るためには、市販溶液の濃度を都度調べるか、あるいは次亜塩素酸ナトリウム五水和物(固体)から目的の濃度になるよう調製し、速やかに使用する必要がある。今回は、市販溶液および固体試薬から調製した溶液について、ヨウ素滴定を行い、有効塩素濃度の測定を行った。これは、当初の研究計画には入れていなかったため、全体のスケジュールに遅れが生じた。また、本年度は11月より産後復帰したため、研究期間が短く、やや遅れている状態である。
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Strategy for Future Research Activity |
<次亜塩素酸ナトリウム溶液の濃度とTEMPO酸化> 本年度は、次亜塩素酸ナトリウム溶液の濃度を2種類のみで行ったため、さらに高濃度、低濃度の溶液を用いてTEMPO酸化を行う。保存性の観点から、できるだけ低濃度でTEMPO酸化が進行する方法を模索する。また楮繊維は、作製方法の違い(煮熟剤、叩解、スクリーンなど)によって、ヘミセルロース量や分子量分布が異なるため、TEMPO酸化の程度が変わる可能性があり、これらの影響についても検討したい。 <フィブリル化の程度の確認> 解繊した楮繊維のフィブリル化の程度は、位相差顕微鏡による観察が基本であるが、繊維長分布測定やSimons染色法を用いることも検討したい。 <リーフキャスティング> 解繊したTEMPO酸化楮を用いて、模擬的に孔をあけた本紙へのリーフキャスティングを行う。接着箇所については、引張強度試験などを行い、接着性を確認する。 <乾燥シートの作製> 解繊前のTEMPO酸化楮について、2-メチル-2-プロパノールなどの有機溶剤で置換し、低温乾燥あるいは真空乾燥させて、乾燥シートの作製を試みる。これを再度水に分散させて解繊した際に、外部フィブリルが発現されるかを確認する。
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