株式会社の本質的目的および権能と取締役の義務規範に関する包括的研究
Project/Area Number |
23K01186
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 05060:Civil law-related
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
酒井 太郎 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (90284728)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,950,000 (Direct Cost: ¥1,500,000、Indirect Cost: ¥450,000)
Fiscal Year 2025: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2024: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2023: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
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Keywords | 株式会社の目的 / 株主至上主義 / 利害関係者主義 / 法人理論 / 法人の能力 / 取締役の義務 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、私企業である株式会社が公共善を自律的に追求することが理論的に可能であるのかという問題意識の下、①法人としての株式会社が備えている本質的要素(根本的な目的、代表的な属性と権能)を明らかにし、これらが株式会社法制の中に具体的にどのように反映されており、またはどのように取り込まれていくべきかを解明する。これを受けて、②統治主体とされる株主を意識しつつ、取締役および取締役会が義務を負う対象、義務および権限の内容、義務履行の判断基準(責任規範)を明らかにしようとするものである。
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Outline of Annual Research Achievements |
1. 本年度の実績の第一は、株式会社の意義・目的に再検討を促した社会的背景を理解する上で、分析上のいくつかのアプローチを把握した点である。会社の目的論における諸見解は、法人本質論と同じように、株主の共同事業体としての株式会社を観念するのか、それとも社会における事業活動主体として把握するのかの違いに基づいている。前者は株式会社法の基本原則(株主の会社に対する権利)とインタラクティブな関係を持ち、株主利益への考慮を当然に導く。後者は、社会的有用性を根拠に株式会社が特別な権能(法人格その他)を付与されていることを踏まえ、社会全体の利益の増進に貢献することが株式会社の存在意義および究極的目的であると理解する。法人設立が国家の認証に基づくことと、会社の設立に際して目的の記載を含む定款の作成が義務付けられていることは、会社の設立と存立が政策的な考慮の下に認められていることを示しており、後者の理解を裏付けている。 2. 実績の第二は、上記の相異なる考え方が、時代的状況から影響を受けており、相互の優位性が入れ替わる循環的傾向を持つとの知見を得られた点である。この循環的傾向をもたらす要因を挙げれば、株主の権利の実効性の程度、会社に対する規制を可能にする政治的・社会的圧力の強さ、企業間の競争環境その他となる。 3. 実績の第三は、目的論そのものは企業行動を変える力を与えず、企業行動変容を段階的に可能にする要因を知る必要があるとの理解を得られた点である。取締役の地位と行動を株主の意向に基づいたものとする法的・経済的な機構の存在、機関投資家に対するスチュワードシップ主義の考え方、国政における党派的対立の激化と無機能化が2010年代以降の株主至上主義に対する反動をもたらしているが、これらを会社法の条文または解釈に反映させるための方法と可能性が現在問われている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 検討項目の(A)、すなわち会社の意義・目的に再検討を促す社会的背景を探るため、米国の会社法学および日本の会社法学の文献を網羅的に調査し分析した。その結果、まず、展開されている主張にはいくつかの系統があることが判明した。具体的には、まず株主至上主義(株主利益を株主の厚生を含むものとして広義にとらえるものを含む。Bainbridge, Bebchukほか)が相当程度有力であり、注目すべき少数説として、株主もまた利害関係者の一人として相対化されると解するもの(Stoutほか)、株式会社が株主とは異なる独自の人格主体であることを強調するもの(Johnson, Millonほか)、定款所定の目的による企業行動の統制を目指すもの(Fisch/Solomonほか)が明らかとなった。 2. 検討項目の(B)、すなわち現代における株式会社の目的論に関し、米国会社法学の研究状況を調査した。まず、19世紀末以降、法制度と経済環境の変遷に従い株式会社(営利社団法人)の本質、法人の本質および権能、業務執行者の権限のとらえ方をめぐり、活発な議論が展開されたが、それらは時代ごとに一定の特徴または傾向を備えたものであることが指摘されている(Lund/Polmanほか)。さらに、議論は支配的見解に収斂することがなく、利害関係者に好意的な見方と株主中心主義との間の周期的な反復が観察されると指摘されている(Cheffins, Allenほか)。 3. 上記と並行して、検討項目(C)については法人の政治的行為に関する日米の憲法学上の議論(米国についてはHobby Lobby事件その他の判決、日本については八幡製鉄政治献金事件判決その他に関するもの)、(D)については法人制度、ないし団体に対する法人格の付与に関する法制史研究の文献を探索し、問題状況および主要学説の把握に努めた。
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Strategy for Future Research Activity |
近年の問題関心の高さを反映して、米国会社法学における株式会社目的論の文献は豊富であり、そこで見られるいくつかの系統およびこれを導く理論的・社会的背景を摘出しようとする試みも現れるようになっている。代表的なものとして、Lund/Polmanの研究(2023年)と、企業統治リステイトメント(2022年)が挙げられる。とりわけ、企業統治リステイトメントは、会社それ自体は利益を上げるべき存在であるとしつつ、株主利益の優先にまでは踏み込んだ規範を示さない点が注目される。これらを基礎に検討項目(A)および(B)の総括を行い、項目(C)の各論的考察に入ることとする。 Cheffinsの研究(2023年)は、目的論の変遷が時代的要因に影響を受け、循環的傾向を持つと指摘する。ただし、この循環的傾向は、企業統治に関する会社法上の制度および取締役報酬その他経営者の行動を規定することとなる企業実務に制約される形で、今後は沈静化していくと予測する。しかし、Rock(2021年)は、会社法規制の公法的側面に着目すると、私法的規制だけによらない変化が起こり得ることを示唆する。具体的には、合衆国連邦証券規制または日本の金融商品取引法上の規制を通じた、投資者保護、情報開示、内部統制整備は、企業行動を通じた社会的課題の解決の観点と結びつきを持ち得る。この点は検討項目(D)との接点となるものであり、会社の社会的存在論に関して別に着手している研究と融合させていくことを構想している。 これまでの研究成果を土台に、株式会社に対して公法・私法の両面から会社に対する統合的な規制が行われていることを理解した上で、多様な法人根拠法が法人の類型的目的・組織に対応して整備されていることと、その一つとしての株式会社法制度が提供されていることを目的論とのかかわりでどう理解すべきか、特に項目(E)との関連で考察していくこととする。
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Report
(1 results)
Research Products
(1 results)