Project/Area Number |
23K01209
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 05070:New fields of law-related
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
鈴木 雄一 信州大学, 経法学部, 特任教授 (20296312)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
玉井 克哉 信州大学, 経法学部, 教授(特定雇用) (20163660)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2023: ¥2,210,000 (Direct Cost: ¥1,700,000、Indirect Cost: ¥510,000)
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Keywords | 著作権 / 権利者不明著作物 / 拡大集中許諾制度 / 大量デジタル化 / 円滑な権利処理 |
Outline of Research at the Start |
日本政府は早くから「コンテンツ大国」を目標として掲げているが、そのためには、二次創作、即ち既存著作物を利用した創作が容易でなければならない。そこで大きな問題になっているのが、権利者不明著作物問題である。すなわち、権利者の存否または所在が明確でないために許諾を得ることができず、既存の著作物を適法に活用することが困難になるという問題である。 本研究は、権利者不明著作物問題を法的に解決することにより、二次創作の利用に関するボトル・ネックを解消するとともに、電子図書館のような新たな形態の著作物利用を円滑に発展させるための、著作権法制の改善策を提供することを目指すものである。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、今後ますます増大すると予想される権利者不明著作物(Orphan Works;権利者の所在が不明となっている著作物)に関わる著作権や著作隣接権の円滑な処理を可能とする法制度を構想することによって、社会における著作物の有効利用を促進しつつ、同時に権利者の適正な利益を確保するようなシステムを提示することである。 本研究のテーマについては、米国著作権法におけるフェアユース法理が多数の関心を呼び、研究も蓄積しているが、米国法以外の取り組みについては研究が少なく、また、独自の発展を見せる欧州諸国への関心は乏しかった。さらに、国際条約との兼ね合いをも考慮しながら解決策を検討する業績は、極めて少ないのが現状である。とりわけ、EUの法制度や、北欧諸国で発達した拡大集中許諾制度の展開について、欧米各国での動きを同時進行的にフォローする研究の構想は、ほとんど存在しない。こうした問題に対し、比較法的に着実な分析を行うのが、本研究の独自性である。 まず本研究では、今後増加が見込まれる権利者不明著作物の権利処理について、法制度によって如何に対応すべきであるかを検討する。その際、著作権法関連の国際条約が与える枠組みに注意しつつ、欧米諸国における法制を比較法的に研究するとともに、コンテンツ産業の制作現場の実態にも即した研究を行う。これにより、権利者不明著作物の権利処理が困難であるためにその有効利用ができないという問題を解決しつつ、著作者や実演家などの権利者の権利を確保し、彼らに適正な利益配分が可能となる法制度を構想する。 令和5年度は、以上のような研究目的・計画に基づき、欧米諸国における権利者不明著作物の権利処理の現況について基礎的な文献調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
利者不明著作物に関わる権利処理問題の根源は、「著作物を利用する前に利用者が権利者の許諾を取れ」という、19世紀に近代著作権法制が始まって以来の原則にある。権利者が見つからなければ、著作物を利用すべきではない。これが、もともとの考え方であった。 しかしこれは、三つの点で今の時代に合わない。第一に、デジタル化により著作物の利用が容易となり、既存著作物を活用した二次創作が容易になった。たとえばYouTube等のサイトに投稿される動画の多くが二次創作であり、それ抜きでは現代の著作活動は語れない。第二に、権利発生に関する無方式主義の下での長期にわたる保護期間について、さらなる長期化が必至である。ベルヌ条約の最低限の保護期間は著作者の死後50年であるが、それを超えて死後70年以上とするのが、欧米を含む先進国の趨勢であり、それが世界に拡大しつつある。わが国もEUとの経済連携協定(EPA)でその方向に転換し、CPTPP実施法で国内法化を果たした。そして第三に、個人情報やプライバシーの保護がますます強く意識され、著作者個人へのアクセスが困難になったため、許諾を得るのが難しい。従前の方式の下では、著作権法制が機能不全を惹起しかねない。これが、本研究の背景である。 この問題を解決するには、著作権法制の少なくとも一部を「著作物の利用を妨げたければ権利者が申し出よ」という方式に転換する必要がある。これは著作権法の基本理念からの転換であるから、ただ単に現実に必要があるというだけではなく、どの対象に対してどのようにして転換を果たすべきなのか、法的伝統を踏まえ、条件を慎重に見極める必要がある。 現在、こうした著作権法の基本理念からの転換について、基礎的な文献調査を通じて模索を続けているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(令和6年度)は、主にEU諸国における権利者不明著作物の権利処理システムについて、現地調査を実施する予定である。EUは、2012年9月に権利者不明著作物の利用に関する指令を発し、2019年4月には、「デジタル単一市場における著作権に関する指令」により、拡大集中許諾制度を加盟国が導入することを許容するとともに、その大枠を統一するに至った。 拡大集中許諾(Extended Collective Licensing; ECL)とは、多数の権利者からの委託を受けて著作権利用についての許諾(集中許諾)を行っている権利者団体(集中管理団体)が、明示的には委託していない権利者についても、許諾を行う仕組みをいう。近年、この制度が権利者不明著作物問題を法的に解決することに有用であると評価され、EUでは2024年4月時点で、上記2019年指令の国内法への反映が完了している加盟国は、ポーランド以外の26カ国となっている。 本調査では、もともと拡大集中許諾制度を導入していた北欧諸国や、比較的早い時期にDSM著作権指令を国内法に反映させたドイツ、2014年に独自に同制度を導入した英国を対象に、各国の著作権所管当局や著作権集中管理団体等への聞き取り調査を通じて、実際の運用状況を現地調査する予定である。 また、国内にも目を向け、昨年改正された著作権法により新たに創設された裁定制度が、権利者不明著作物の権利処理実務に与える影響について、著作権集中管理団体などへの聞き取り調査を実施する予定である。
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