Project/Area Number |
23K02145
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 09010:Education-related
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
佐藤 英二 明治大学, 文学部, 専任教授 (20339534)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡野 勉 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (30233357)
田中 義久 弘前大学, 教育学部, 教授 (80610633)
大下 卓司 神戸松蔭女子学院大学, 教育学部, 准教授 (80713578)
砂田 大樹 日本女子大学, 人間社会学部, 助教 (50973947)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,380,000 (Direct Cost: ¥2,600,000、Indirect Cost: ¥780,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
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Keywords | 生活算術 / 郷土教育 / 尋常小学算術 / 塩野直道 / 理数科算数 / 生活教育 / 戦間期 / 遠山啓 |
Outline of Research at the Start |
本研究は,1920年代から30年代にかけて子どもの生活を算術の学びとつなげようとした「生活算術」の諸系譜を叙述することを通して,生活の観点から戦間期の教育改革を構造的に把握しようとするものである。「生活算術」は,教室の中での算術の学びを子どもの日常生活に結びつけ,子どもの素朴な思いつきを学習過程に織り込む積極性を持ちつつ,算術における真偽の知と生活指導における是非の判断との境界を曖昧にする困難さを持っている。本研究では,「生活算術」の先駆的な実践に取り組んだ教師が認識した当時の教育の課題を再構成しつつ,当時の実践者と研究者が抱えていた実践上の,あるいは理論上の困難と可能性を明らかにする。
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Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度は,「生活算術」の歴史的位置の再検討と「生活算術」の観点による現代の教育の構造的把握の2点から研究を推進した。 「生活算術」の歴史的位置の再検討では四つの研究を行った。第一に,教育雑誌の分析を通して「生活算術」の実践を支えた文脈を検討した。その結果「生活」や「郷土」を掲げる論文は1930年以降増え,1935年頃減ることがわかった。ここには師範学校への郷土研究費の補助が関わっていたと考えられる。第二に,静岡県への現地調査を通して「生活算術」の公立小学校の系譜を検討した(桜井,2023)。これによって『尋常小学算術』を編纂した塩野直道が批判した「生活算術」の系譜に光が当てられた。第三に,『尋常小学算術』を分析する準備として,教科書分析の方法論の先行研究を調査した。その結果,Gert Schubringの研究において認識論の変化等が「文脈」の変化として挙げられている点が確認された。第四に,戦後への「生活算術」の継承を難しくした文脈の把握のため,戦後初期の学力低下説の根拠とされた学力調査を検討した。その結果,学力調査には東京府と東京都の学力の同一視等の問題があることが確認された(佐藤,2023,2024)。 次に,「生活算術」の観点による現代の教育の構造的把握では二つの研究を行った。第一に,分数の内容を複数の学年に分ける「細切れ・分散主義」カリキュラムの形成過程を分析するため,第3期版・同改訂版の国定教科書の使用時期の言説を調査した。その結果,それの形成においては,長期的に分数理解の素地を作るという子どもの生活への関心と同質の思想があることが確認された。第二に,教科の連関の点から国民学校国民科・芸能科の教科書と理数科の教科書との関連を分析した。その結果,「村」に関する教材が時期が重なるように配列されることなどが明らかとなった(砂田・田中,2023)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は三段階を経て実施されることが計画された。すなわち,「生活算術」に関する基礎的な情報の共有,仮説的な定義の確定,および予備調査の実施を行う第一段階(2023年4月~2023年9月),各自の設定した課題に沿った調査研究と学会等での報告を行う第二段階(2023年10月~2025年7月),および個別の研究を統合し,日本教育方法学会のラウンドテーブルにおいて研究を総括する第三段階(2025年8月~2026年3月)である。このうち令和5年度は第一段階の全過程と第二段階の前半に当る。 「研究実績の概要」で示した通り,個別の研究は予定通り進捗しており,来年10月のラウンドテーブルの準備が進んでいる。一点,計画段階と異なっているのは,「生活算術」に関する仮説的な定義を確定する作業である。計画段階では最初に「生活算術」の定義の確定した後,個別の研究に着手する予定であった。しかし,個別研究の予備的作業を行った結果,「生活算術」そのものが実態として多様な潮流から構成されており,必ずしも「生活算術」という名称を取らない実践においても子どもの生活への注目が認められるものがあり,それを「生活算術」から除外することのデメリットが認識された。そこで,第二段階の段階では,「生活算術」を子どもの生活に注目して算術教育を改善しようとする運動として広く捉えたうえで,第三段階において改めて「生活算術」の包括的な定義づけを試みることとした。 以上の通り,「生活算術」の定義を確定する作業が残されているものの,3年間を見渡した研究の進捗は計画通り展開していると判断する。なお,この間,2023年9月18日,2024年3月10日,3月31日の計3回,ハイブリッド方式で各自の研究の報告と今後の進め方の調整を行った。個別にも「研究発表」に示した学会発表等を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度は,引き続き「生活算術」の歴史的位置の再検討を行うとともに,「生活算術」の観点による現代の教育の構造的な把握を進め,個別に学会発表などを行うとともに,次年度の総括の準備を進める。 「生活算術」の歴史的位置の再検討では,四つの研究を行う。第一に,東京高等師範学校附属小学校内初等教育研究会発行の『教育研究』や教育審議会等の史料を通して,「生活算術」に対する実践者の思想を抽出し,『尋常小学算術』等の国定教科書の思想的基盤を検討する。第二に,公立小学校における「生活算術」の系譜に関する研究では,引き続き静岡の実践事例を調査・分析するとともに,千葉等の他地域にも調査対象を拡大する。第三に,教科書分析の研究方法論の検討を踏まえて,『尋常小学算術』の内容と形式について検討する。第四に,教育科学研究会(『教育』,1938年5月号)で行われた「生活教育座談会」を取り上げて,「生活算術」に関する教育学者の認識を再検討するとともに,和田義信が単元学習の知的性格の基礎とした中野恭一(広島高等師範学校附属小学校)の言説を分析する。 「生活算術」の観点による現代の教育の歴史的な把握に関する研究では,二つの研究を行う。第一に,「細切れ・分散主義」の形成過程に関する研究では,引き続き分数の教材の扱いに注目して史料の収集・検討を行うと同時に,「細切れ・分散主義」の優位性を主張した実践者の言説を分析する。第二に,国民学校期における「生活算術」の普及形態の研究に関しては,引き続き教材の統合的扱いの事例を研究し,生活教育全体における「生活算術」の特質を抽出する。
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