非平衡定常状態近傍での量子可積分系の応答および揺らぎに現れる普遍性クラスの解明
Project/Area Number |
23K03244
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 13010:Mathematical physics and fundamental theory of condensed matter physics-related
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松井 千尋 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (60732451)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,550,000 (Direct Cost: ¥3,500,000、Indirect Cost: ¥1,050,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,950,000 (Direct Cost: ¥1,500,000、Indirect Cost: ¥450,000)
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Keywords | 部分可解模型 / 熱平衡化 / 量子傷跡状態 / 非平衡定常状態 / 量子可積分系 / 普遍性クラス |
Outline of Research at the Start |
本研究は,非平衡定常状態近傍にある量子系の応答および揺らぎに現れる普遍性を,有限な有効温度において解明することを目的とする.既存研究では,熱平衡状態近傍にある初期状態に対して応答や揺らぎの普遍性が調べられてきた.本研究では,量子可積分系では物理量の厳密な計算が可能であること,および定常状態が非平衡状態であることに着目し,初期状態が非平衡状態である効果を取り入れた場合の応答および揺らぎを明らかにする.特に,非平衡の効果が顕著である有効な有限温度の場合に焦点を当てて研究を進める.可積分系に対して得られた結果をもとに,非可積分系における量子傷跡状態でも同様の振る舞いが見られるか調べる.
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Outline of Annual Research Achievements |
可解な部分空間をもつ量子系について、その構成法および特徴的な物理現象の解明に貢献した。 近年、孤立量子系の熱平衡化メカニズムが明らかになりつつある。「ほとんど全てのエネルギー固有状態はマクロ変数によって区別できない」と主張する固有状態熱化仮説に基づく説明が有力であるが、一方で、熱平衡化するにも関わらず固有状態熱化仮説に従わないエネルギー固有状態をもつ量子系の存在が明らかになり、こうした固有状態は量子傷跡状態と呼ばれて注目を集めている。 量子系はさまざまな理由で量子傷跡状態をもち得るが、大雑把には、熱力学的極限で無視できる大きさの不変部分空間をハミルトニアンがもつことが必要条件となり、これはしばしば可解な部分空間となる。ハミルトニアンが比較的小さな不変部分空間をもつ数学的背景としては、動的対称性の一種であるスペクトル生成代数が挙げられる。スペクトル生成代数はAKLT模型やPXP模型など、代表的な量子傷跡状態をよく説明するが、一方で、不変部分空間を構成する量子状態は自由粒子からなる。本研究では、相互作用する(準)粒子で記述される、ベーテ仮設により可解な不変部分空間をもつ量子系を構成し、その特徴的な振る舞いを議論した。特に、量子傷跡状態をもつ量子系の特徴的振る舞いと認識されていた長寿命の振動が、必ずしもそれを特徴づけるものではないことを明らかにした。現実に存在する物理系の多くは相互作用する準粒子によって構成される不変部分空間をもつことが予想され、本研究成果は熱平衡化および緩和現象の理解に貢献するものと期待する。 また、同様の数理構造を開放量子系へ拡張する研究も並行して行っている。これにより、非平衡定常状態やそれへの緩和現象の解明を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画当初は、一般化ギブス状態や可積分性を用いた非平衡現象の解明を目指していたが、近年の部分可解性に関する研究の進展により、可積分性をもたない量子系にも解析的な取り扱いが可能になった。また、感染症による渡航制限が解除されたことで国内外の研究集会でさまざまな知見を得る機会が戻り、最新の研究動向を知ることができるようになった。同時に、国際共同研究により多方面の手法に触れ、孤立系での手法を開放系へ適用するという着想に至った。研究計画当初はなかった発想に基づくアプローチにより、非平衡現象解明の研究に着手し始めたという点は、予定より順調であるといえる。 一方、量子系に現れるKPZ普遍性などに関連する研究には未着手である。研究計画でも最終年度に設定した内容ではあるが、こちらも見据えて研究対象を広げていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は部分可解な量子系について、特に開放量子系に注力して研究を行う。近年、孤立量子系の量子傷跡状態に関しては多くの研究結果が報告されており、大まかな理解は達成されたと考えてよい。一方で、開放量子系に関しては未だ解析的に取り扱えるものは多くなく、また、厳密に定常状態が求まる場合でも、その可解性の背後にある数理構造は完全には解明されていない。本研究では、孤立量子系に対して明らかにされた部分可解性を拡張することにより、開放量子系における現象を解析的アプローチによって解明することを目指す。特に、孤立量子系における量子傷跡状態の非熱化現象のように、可解な状態と可解でない状態の違いが開放量子系ではどのような現象に反映されるかを明らかにする。 同時に、可解な部分空間をもつ量子系のうち、「ヒルベルト空間の断片化」によって説明できるものについて、可積分性との関連を明らかにする。「ヒルベルト空間の断片化」は熱平衡化を阻害する数理構造として提唱されたもので、ハミルトニアンがもつ非自明な保存量によって特徴づけられる。一部の模型では、ヒルベルト空間の断片化と可積分性が共存することが知られており、また、ハミルトニアンがもつ非自明な保存量によって特徴づけられる特定の部分空間にのみ可積分性を埋め込むことも可能である。ヒルベルト空間の断片化と可積分性が共存する場合の数理構造を明らかにし、ヒルベルト空間の断片化を起こす既知の模型の数理構造を再整理することで、一般化ギブス状態による緩和状態の記述や相関関数の冪的振る舞いなど、(部分)可積分性に紐づく現象を明らかにすることを目指す。
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Report
(1 results)
Research Products
(8 results)