Project/Area Number |
23K03471
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 17010:Space and planetary sciences-related
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鹿山 雅裕 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (30634068)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋爪 光 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (90252577)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
|
Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
|
Keywords | 月 / 太陽系 / 氷 / 揮発性成分 / 水 / 資源 |
Outline of Research at the Start |
「氷の性質は昇華温度により律速される」これは宇宙共通の根本原理である。しかし月ではH2Oの昇華温度ですら定まっていない。この問題は熱力学計算で解決できるが、計算に要する月環境に即したデータベースの開発がなされておらず、実現には至っていない。本課題は太陽系内外氷天体にも共通するため、ここでは「氷は宇宙でどのような科学原理で存在するのか?」この学術的「問い」に対して今般が提案する熱力学計算と観測データ解析の学際研究に立脚した形で、共通課題解決と氷の本質的理解に迫る。得られた知見を基に、月や太陽系天体における氷の濃集機構の時代変遷の解明や水の資源活用の検討を実施する。
|
Outline of Annual Research Achievements |
月には極域を中心に大量の氷が埋蔵することが昨今の衛星探査から示唆されている。月の氷は古くは42-33億年から現在に至るまで彗星や隕石衝突、太陽風及び過去の火山活動により供給されたと目され、故に太陽系の水惑星や氷天体における揮発性成分の変遷史を紐解く鍵と考えられている。一方、月の氷に関する研究の多くは衛星観測の成果に留まり、理論研究が乏しいことも相まって月の氷に関する本質的理解には至っていない。そこで本計画では理論・観測を統合した学際研究として、月環境に則した理論計算・衛星観測手法を確立し、氷の物性の決定を行った。本年度は、先行研究により報告されている月の環境下での物性をまとめたデータベースを構築し、衛星観測成果との統合に欠かせない日時・季節温度変化のデータ解析を実施した。氷の物性に関しては、月の温度・圧力条件である7-399 Kかつ1E-7-1E-10 Paの極低温低圧環境における様々な揮発性成分の気相・固相の物性を網羅し、その中でも精度、分析手法並びに環境条件に適した関数をデータベースとしてまとめるに至った。このデータベースにより、月において氷として存在し得る揮発性成分の種類を推定することに至り、衛星観測成果への反映が可能となる。衛星観測の検討に関しては、約10年間にわたる月の周回衛星LROによる日時温度データについて地理情報を統一化し、緯度経度情報に紐づいた日時温度変化解析を実施した。それにより得られた各地点の最高温度を表面、平均温度を地下における各揮発性成分の存在温度として解析するに至った。これにより、月極域周辺の各揮発性成分の分布域の推定の根幹となるデータの詳細化に至った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
理論計算手法の検討に関しては、その根幹となる各種揮発性成分の固相・気相における物性を先行研究から抽出し、データベースを構築する作業を今年度完了するに至った。先行研究で報告されている氷の物性の多くは常温・常圧以上の条件であることが多く、実験系に限ると月の環境である極低温・低圧のデータは極めて少ない。一方で、本年度に自身が構築した理論モデルにより、<400 Kかつ<100 Paの条件においては理想気体の物性を適用できること、固体に関してはこの条件範囲における体積変化は一定と近似でき、これにより生じる誤差は0.1 %以下であるを初めて証明するに至った。これにより、月の環境に適用できる氷の物性値の適用範囲も必然的に広くなり、故に多くの理論系から得られた情報をデータベースに包括するに至った。これに関しては、データベースの信頼性・精度・汎用性が高いことを意味する。また、衛星観測手法に関しては、各宇宙機関の公開情報を基礎データとして利用する計画であり、その障壁として地理情報が無いあるいは統一されていないため緯度経度を揃えたデータ解析が実施できていないことにある。これについては、自身が創出したコードを各観測データに適用し、規格を揃えた地理情報を付加することで緯度経度情報を揃えた約10年間の表面の毎時温度解析を実現するに至った。さらにこの表面温度データに対して直下の地下温度を推定するプロトコルを実行することで、各地点の深度温度プロファイルを解明するに至り、これまでの研究ではなし得なかった地下における各種揮発性成分の氷の分布域の把握が可能となる重要な基礎データを取得するに至った。当初の予定では、理論手法の構築のためのデータベース解析が本年度の実施範囲であったが、観測手法の構築の基礎部分を着手することができたため、当初以上に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は想定以上に進捗できた衛星観測の温度データを水素濃度や高度と統合し、極域における各揮発性成分の分布を示すマップ解析を進める。さらに、これに必要な月の氷の成分や温度物性に関するデータの理論解析を行う。現状、月の氷成分について得られている最も信頼性の高い観測データはLCROSSによる赤外分光観測結果である。これにより、月の極域に位置するカベウスクレーターの氷は主にH2OやCO2、NH3等が含まれていることが明らかになっている。一方でこのデータは光が届かない永久影のカベウスクレーターの氷を人工衝突物により宙に舞い上がらせて生じたプルームを太陽光を用いて観測したものであり、衝突により1000 Kに達する高温が生じていることからプルームで観測された分子種は必ずしも氷と一致しない可能性が指摘されている。そこで本研究では、今年度に構築した理論データベースを用いて氷として存在し得る揮発性成分の種類をカベウスクレーターの該当する衝突地域のもともとの温度(30-40 K)に則した分子種を選定し、氷の成分の本質的理解に迫る。今年度に予備的に検証した限りでは、H2OやCO2などがカベウスクレーターの氷の主成分となり、N2も主成分となり得るもののプルームでは検出されておらず、一方でNH3等の高分子に関しては氷には存在し得ない結果となった。これについては、本研究の検証結果とアポロ17号の月の大気測定で検出された分子の種類が一致するものの、プルームとは一致しないことからやはり人工衝突物による高温の影響で氷に含まれるN2がNH3に変質したと考えられる。つまり、本研究の予備検証で得られた成果と大気測定の一致性から、自身が構築した理論データベースの信頼性が高く、月に応用し得ることが証明できる。今年度はこの理論・観測解析をより詳細化し実際の月の氷に含まれる揮発性成分のマップ解析を実現する予定である。
|