有機結晶に対する純ずれ応力効果の解明とその化学結合制御法の創成
Project/Area Number |
23K04696
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 32020:Functional solid state chemistry-related
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Research Institution | Tokyo University of Science, Yamaguchi |
Principal Investigator |
井口 眞 山陽小野田市立山口東京理科大学, 工学部, 教授 (80291821)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2025: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
Fiscal Year 2023: ¥2,210,000 (Direct Cost: ¥1,700,000、Indirect Cost: ¥510,000)
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Keywords | ずれ応力・剪断応力 / 静水圧・非静水圧 / フォトクロミズム / 多環式芳香族炭化水素 / トリプチセン / ジアリールエテン / スピロピラン / メカノケミストリー / 静水圧・高圧 / ラマン・赤外スペクトル / 多感式芳香族炭化水素 |
Outline of Research at the Start |
有機結晶に対する“純ずれ応力効果”を解明し,応力を用いた化学結合を開裂・制御する方法を確立するために,実験手法の開発を行い研究を進める。純粋なずれ応力の作用機構を理解するために,熱や光の効果を除外する,または,それらの効果を理解して応力効果を抽出する。そのために,化学結合の開裂が期待されるロイコ色素類,Diels-Alder付加体,多環式芳香族炭化水素,トリプチセンの結晶に回転式高圧セルを用いてずれ応力を作用させ,ラマン・赤外スペクトルから分子構造,化学結合の変化に関する知見を得る。従来は起こらないとされる応力の力学的エネルギーを化学エネルギーに変換する新たな概念を生み出すことが目標である。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,有機結晶に対するずれ応力効果を調べ,熱や光の効果を除外する,または,それぞれの効果を理解して応力のみの効果を抽出し,「純ずれ応力効果」を解明することと,その上で純ずれ応力による化学結合の開裂ならびに,ずれ応力と光や熱を組み合わせた化学結合の制御方法を開発することを目的としている。研究は,分子内の化学結合の開裂が期待される有機化合物の結晶に回転式高圧セルsDACを用いてずれ応力を作用させ,顕微ラマンおよび赤外スペクトルなどの分光学的手法を用いて分子構造に関する知見を得る方法で進める。 ずれ応力下の赤外スペクトルを測定するために顕微分光器に設置する小型sDACを開発している。従来の小型sDACの課題であったダイヤモンドアンビルの平行と回転の中心を安定させて応力を保持できるように改良したものを新規に作製した。これを用いて、スピロピランとトリプチセン類のずれ応力下の赤外スペクトルを測定した。ずれ応力下では蛍光のためにラマンスペクトルが得られない試料の分子構造に関する知見を得られるようになった。 三環式多環式芳香族炭化水素であるアントラセンとフェナントレンに対するずれ応力効果を応力下の蛍光およびラマンスペクトルを通して調べている。いずれの試料にもずれ応力による不可逆な変化が観測され,化学結合が変換されたことを示唆している。 9-ヒドロキシトリプチセンには酸によって化学結合が開裂し、アントロン誘導体を生成するものがある。このうちのテトラメチルシリル基またはメトキシキ基を置換基にもつ化合物にずれ応力を作用させると,前者には結合開裂を示唆する赤外スペクトルの変化が見られたが,後者には見られなかった。トリプチセンの応力による結合開裂に関する置換基の条件を探索している。 スピロピラン,ジアリールエテンのずれ応力・静水圧と光の複合的な効果による化学結合の開裂・生成の詳細な条件を調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,有機結晶に対するずれ応力効果,特に熱や光の効果を除いた“純ずれ応力効果”を解明し,ずれ応力を利用した化学結合制御法を開発するものである。応力下でのその場観察ができるダイヤモンドアンビルセル (DAC)による静水圧と,独自のDAC型回転式高圧セルsDAC (Shear DAC)によるずれ応力に着目し,応力による化学結合の変化を分光測定により追跡し,ずれ応力効果を明らかにする。 研究は,物質探索 (結合が開裂する有機物),測定(応力下の顕微分光・応力印加後の質量分析),装置作製(小型sDACなど),光・熱の影響の評価で進めている。本研究の独自性は「ずれ応力」にあり,従来からsDAC (サファイアアンビル,50×50×68 mm3)を用いて,ずれ応力下の可視吸収,ラマン,および蛍光スペクトルから分子構造に関する有用な情報を得ていた。しかし,応力下のラマンは励起光による蛍光のために測定できないことが多く,赤外スペクトルを測定することが必要であった。そのために,赤外顕微鏡に入る小型sDAC (ダイアモンドアンビル,直径28 mm×高さ20 mm)を試作し改良を加えてきた。本研究で作製した新たな小型sDACによって赤外スペクトル測定が可能になった。 研究対象は,スピロピランとジアリールエテンの開環・閉環反応に伴うフォトクロミズムを励起または抑制するずれ応力と光の複合的な条件を探索した。多環式芳香族炭化水素にはずれ応力による興味深い変化が観察された。特に,トリプチセンの異なる置換基の試料についてずれ応力による結合の開裂に相違が見られており,その置換基の影響を系統的に調べることによって結合開裂の条件を明らかにできると期待される。また,応力印加後のトリプチセンの微量な試料は質量分析計で測定でき,今後の分析手法を増やすことができた。 以上のように,研究はおおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度に引き続き、物質探索 (結合が開裂する有機物),測定(ずれ応力と静水圧下の顕微分光・応力印加後の質量分析,NMR),装置作製 (小型sDAC, 合金製強ずれ応力装置など),光・熱の影響の評価で研究を進める。 1. 物質 ①トリプチセン:酸で分子内の結合が開裂するトリプチセンの結晶に対するずれ応力効果を赤外・ラマンスペクトルによって調べ,応力による開裂の可否と置換基の関係を明らかにする。メトキシ基とトリメチルシリル基をそれぞれ有するトリプチセンから研究を進める。②多環式芳香族炭化水素PAH:ずれ応力下のアントラセンとフェナントレンからの生成物の同定を進め,化学結合のsp2からsp3への変換の可能性と機構を考察する。また,四員環以上のPAH化合物についてもずれ応力効果を調べる。③ロイコ色素類・Diels-Alder付加体:結合開裂の可能性を以前に見出したクリスタルバイオレットラクトンや開裂は見られなかったDiels-Alder付加体について,応力下の赤外スペクトルを測定し,分子の受ける応力の作用を明らかにする。 2. 測定 小型sDACを用いた応力下の赤外スペクトルを利用し,ラマン測定ができない試料の分子構造に関する知見を得る。応力による生成物を質量分析計により分析する。PAHなどのずれ応力下の蛍光スペクトルを測定する。低温測定によって熱の影響を考察する。 3. 装置 小型sDACによってずれ応力下の赤外スペクトルは測定できるが,改良すべき課題は応力印加時にアンビルの平行をより安定に保つこと,および,より高い応力を保持することである。現在の小型sDACの改良と試作を行うとともに,応力保持の方法を変更した新たなsDACを試作する。現有の顕微蛍光分光器と低温でのラマンスペクトル測定用クライオスタットを利用しながら,操作性向上のための改良を加えていく。
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Report
(1 results)
Research Products
(7 results)