口腔感覚を介する唾液腺機能の維持と再生における神経・内分泌機構とその分子基盤
Project/Area Number |
23K09124
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 57010:Oral biological science-related
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Research Institution | Health Sciences University of Hokkaido |
Principal Investigator |
根津 顕弘 北海道医療大学, 歯学部, 准教授 (00305913)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 茂 北海道大学, 歯学研究院, 准教授 (70241338)
佐藤 寿哉 北海道医療大学, 歯学部, 講師 (30709241)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
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Keywords | 唾液腺再生 / 餌性状変更 / 唾液腺萎縮 / 口腔感覚刺激 / 咀嚼刺激 / 唾液分泌低下による粘膜刺激 / 唾液分泌 / 機能回復 / 口腔乾燥症 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、口腔感覚を介する唾液腺機能の維持や再生のしくみと、口腔感覚を唾液腺へ伝達する神経・内分泌系機構を明らかにすることを目的とする。 本目的の達成のため、食餌性状変更による咀嚼刺激を介した耳下腺の分泌機能亢進のしくみをCa2+応答、唾液分泌と血流動態のを測定することにより明らかにする。また、網羅的遺伝子解析により食餌性状変更による機能亢進に関わる遺伝子を同定し、その機能を調べる。これらの遺伝子をマーカーとして、様々な受容体遮断薬あるいは神経切除により、食餌性状変更による機能亢進に関わる生体内シグナルを同定する。さらに、誘導シグナルやその分子基盤を利用した唾液分泌機能の回復の誘導を試みる。
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Outline of Annual Research Achievements |
唾液腺は、液状餌によって唾液腺の萎縮が起こり、固形餌に戻すことで萎縮腺が再生することが知られている。固形餌による萎縮腺の再生には「噛む刺激」が関与すると考えられる。本研究は、この唾液腺が持つ自己再生のしくみを明らかにすることを目的とする。 噛むことを必要としない液状餌で飼育したラットの耳下腺重量は正常の約40%まで低下し、この萎縮はわずか3日の固形餌飼育によって約80%まで回復した。一方、顎下腺や舌下腺では餌性状の変更による腺重量に大きな変動は認められなかった。さらに「噛む刺激」による耳下腺再生において、1日の固形餌の咀嚼時間がどの程度であれば誘導されるのか調べたところ、1日2時間の固形餌の摂餌でも耳下腺の再生が認められた。また分泌刺激による唾液分泌能を調べると、液状餌飼育では約50%まで分泌機能が低下するが、3日間の固形餌飼育によって正常群と同等まで分泌機能の回復することが確かめられた。 「噛む刺激」による耳下腺の回復に自律神経系が関与する可能性を調べるため、腺重量変化に対する受容体遮断薬や作動薬の効果を検討した。2時間の固形餌摂餌による耳下腺再生時に様々な受容体遮断薬を投与したところ、β受容体遮断薬により耳下腺重量の回復が抑制されたことから、「噛む刺激」による耳下腺再生には交感神経系を介したシグナルが主に関与する可能性が示唆された。 並行して、餌性状を変更した各実験群の耳下腺における遺伝子発現変化をバルクRNA-Seq解析により網羅的に解析した。その結果、固形餌変更後1日で状餌と比べて2倍以上変化する600以上の遺伝子を同定した。これらは細胞の増殖や分化、血管や神経の新生、分泌機能、さらに免疫系に関わる遺伝子であった。現在のこれら遺伝子群の機能やマーカー遺伝子候補となるか否かについて詳細に検討中である。(研究協力者:金久保千晶、加藤志織)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、腺萎縮と再生の指標として唾液腺重量を用いて解析を行ってきた。その結果、「噛む刺激」が伝わらない液状餌により萎縮した耳下腺が、固形餌を「噛む刺激」により腺重量と唾液分泌機能を回復させることが確かめられた。また「噛む刺激」は丸1日必要ではなく、区切られた短い時間の「噛む刺激」でも再生を誘導することが初めて明らかとなった。 この結果を元に、「噛む刺激」による耳下腺再生に対する自律神経系の影響を薬理学的に調べたところ、β受容体の遮断により「噛む刺激」による腺再生が抑制されたことから、この再生に関わる生体内シグナル候補として交感神経系の伝達物質の関与が示唆された。これらの結果は、当初計画通りに実施した薬理学解析の検討で順調に進捗している。 さらに、餌性状変更による耳下腺、顎下腺組織の遺伝子変動のバルクRNA-Seq解析を計画通り実施した。これにより1日の「噛む刺激」を与えたラットの耳下腺では、液状餌のみで飼育したラットよりも2倍以上変化する600以上の遺伝子を同定した。これらは細胞の増殖や分化だけでなく、血管や神経の新生、唾液分泌機能に関わる分子、あるいは免疫系の遺伝子であった。また、「噛む刺激」の期間が3日になると遺伝子発現は1日よりも異なる変化パターンとなり、腺房前駆細胞から腺房細胞への分化や増殖に関わる遺伝子を同定するにはさらに詳細な解析が必要である。加えて、餌性状変更による遺伝子変化は、耳下腺と顎下腺では全く変動する遺伝子数が異なっていた。現状概ね当初計画通りであるが、バルクRNA-Seq結果の適切なデータ解析にはまだ時間が必要と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、まずバルクRNA-Seqの解析を進め、得られた遺伝子変動の様式とその機能を詳細に解析するとともに、「噛む刺激」による耳下腺再生のマーカー遺伝子群を定量PCR法により同定を試みる。マーカー遺伝子群を同定後、それらを利用して「噛む刺激」による耳下腺再生の細胞内シグナル経路(ERK、MAPK、PKCやPKAなど)を調べる予定である。細胞内シグナルの解析には、遺伝子変動の結果を元に対応する酵素阻害薬などを用いて検討する。 バルクRNA-Seq解析により得られた発現変動は耳下腺組織での平均値であり、「どの細胞の遺伝子発現なのか?」がわからない。耳下腺は様々な細胞(腺房、導管、筋上皮、間葉系、血管、神経や免疫系細胞)で構成されており、「噛む刺激」による耳下腺の遺伝子変動が、どの細胞で起こり、耳下腺再生とともに分泌機能を回復させるのかを解明するには、シングルセルRNA-Seq解析が有効な実験手法であると考えられた。この解析には、より高度な遺伝子解析の専門知識と解析機器が必要であることから、それを支援することができる「先進ゲノム支援」活動を受けるための準備をしている。 さらに得られた遺伝子情報をもとに、「噛む刺激」で遺伝子が変化する耳下腺を構成する細胞におけるマーカー遺伝子の分布や唾液分泌に関わる様々な分子(受容体、水チャネル、イオンチャネルおよび共輸送体)発現変化、あるいは血管新生などを組織透明化技術による免疫組織科学的解析法により臓器の形態を維持したまま三次元的な解析を試みる。 「噛む刺激」による腺再生や機能亢進には、唾液分泌に関わる分子の発現上昇といった細胞の機能的な変化だけでなく、血管新生による腺血流の亢進などが関与する可能性もある。今後は、「噛む刺激」による腺再生と機能亢進における唾液腺血流の影響についてin vivo機能解析により検討する。
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Report
(1 results)
Research Products
(7 results)