Project/Area Number |
23K09760
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 58040:Forensics medicine-related
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
秋 利彦 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 准教授 (60304474)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,550,000 (Direct Cost: ¥3,500,000、Indirect Cost: ¥1,050,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
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Keywords | ヒ素 / カタラーゼ / 酸化ストレス / 肝臓 / 肝障害 |
Outline of Research at the Start |
酸化ストレスがヒ素の毒性の原因としてよく知られているが、DNAの酸化、脂質の酸化、いずれも何らかの標的タンパク質にヒ素が結合・変性させることで引き続き酸化ストレスが細胞に惹起される。即ちヒ素の標的・結合タンパク質を検索することが重要である。本研究ではヒ素による細胞老化の引き金となる「ヒ素が結合し、その結果変性する」タンパク質の検索に焦点を当て、それによりヒ素による細胞老化・細胞死現象の根本的な原因を明らかにする予定である。
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Outline of Annual Research Achievements |
他殺等の目的で使われることもあり、法医学的に重要であるヒ素の毒性機序について研究を行った。数あるヒ素化合物のうちで特に毒性の高い三酸化二ヒ素をラットに経口投与し、主要臓器を摘出してその障害を検討したところ、肝臓に著名な障害を見出した。プロテオミクス解析で、ペルオキシソームの抗酸化酵素であるカタラーゼの著名な減少を見出した。ヒト肝癌由来細胞であるHuh-7細胞でも同様の現象を観察した。カタラーゼタンパク質の発現減少は遺伝子発現の減少を伴い、ヒ素によるカタラーゼのダウンレギュレーションは少なくとも一部は遺伝子発現の抑制によるものであると推察された。カタラーゼの遺伝子発現はPGC-1alphaおよびPPARgammmaにより正に制御されていることが知られているが、ヒ素によりPGC-1alphaおよびPPARgammmaの両方がダウンレギュレーションされており、これらの不活化がヒ素によるカタラーゼ遺伝子発現の抑制に関与していると考えられた。実際、PARgammmaのアゴニストであるピオグリタゾンによりヒ素依存性のカタラーゼ遺伝子発現減少を抑制することができた。カタラーゼは細胞内の主要な抗酸化酵素の一つであり、カタラーゼ遺伝子発現の減少はヒ素による酸化ストレスを増大させていると考えられる。実際に抗酸化物質であるN-アセチルシステインを投与することによりヒ素による肝障害を抑制することができた。これらの実験結果から、ヒ素による肝障害の原因の一つに抗酸化酵素であるカタラーゼの発現抑制があることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
5週齢の雄性SDラットに20mg/kgのヒ素を一日一回7日間経口投与し主要臓器を検索したところ肝臓においてペルオキシソーム局在抗酸化酵素カタラーゼの著減を見出した。ヒ素によるカタラーゼのダウンレギュレーション自体は既にいくつか報告があり新規なものではないが、このダウンレギュレーションが遺伝子発現おレベルで起こっているというのは今回の研究で初めてわかったことである。更にPGC-1alphaやPPARgammmaといった、カタラーゼの遺伝子発現抑制に関与すると見られる転写制御因子も合わせて同定することができたことから、これら転写制御因子の人為的な調節を介してカタラーゼ遺伝子発現を抑制、ひいてはヒ素による肝障害の抑制を行うことができる可能性が示唆された。実際に、抗酸化物質であるN-アセチルシステインのみならずPPARgammmaの活性化剤であるピオグリタゾンの効果も証明されており、これらの分子情報伝達経路の人為的な調節の有効性を示すことができている。研究計画初年度でヒ素肝毒性の分子機構の一端を見出し、更にそれを調節することで毒性を軽減できる可能性を示唆することができたのは、本研究課題が順調に進行していることを示していると考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒ素による肝臓その他の臓器障害のメカニズムを解明するために、今後はまず培養細胞を用いた実験から分子レベルでの毒性機序解明の手がかりを探索する予定である。実際、質量分析計を用いたプロテオミクス解析により約40kDaの分子量に相当するタンパク質がヒ素処理により著減していることを見出している。また、DNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現変動の網羅的解析では、ヒ素処理によりその遺伝子発現が100倍以上上昇する遺伝子を10以上見出すことに成功した。それらの中にはヘムオキシゲナーゼや熱ショックタンパク質のような、すでにヒ素により発現誘導されることがよく知られている遺伝子が含まれていたが、それ以外にもヒ素毒性に関与していると推察される遺伝子が含まれていた。例えば、肝臓で主に発現している解毒酵素であるP-450ファミリー遺伝子のうちの一つがヒ素処理により約400倍に遺伝子発現が誘導されていた。他にも、上皮間葉転換を促進する転写因子の著名な発現誘導を認め、上皮間葉転換のような細胞の形質変化がヒ素毒性に関与している可能性が示唆されている。これらの、プロテオミクス解析やトランスクリプトーム解析で得られたヒ素毒性に関与していることが推察される候補遺伝子について、今後はその分子レベルでの制御機構についてまずは培養細胞を用いて検討を行い、その後は動物実験で検証を行う予定である。
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