Project/Area Number |
23K11375
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 62030:Learning support system-related
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
阿原 一志 明治大学, 総合数理学部, 専任教授 (80247147)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,600,000 (Direct Cost: ¥2,000,000、Indirect Cost: ¥600,000)
Fiscal Year 2025: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2023: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
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Keywords | 数学ソフトウエア / 動的幾何ソフトウエア / マルコフ過程 / 数学教材 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、Dynamic Geometry Software (以下、DGS) のアーキテクチャと応用に関するものである。DGS は、マウス操作によって平面や空間に図を構築するソフトウェアの総称であり、ユーザー操作とソフトウェアの相互作用性が特徴である。2019年に研究代表者は、マルコフ過程に基づいた非決定論的アルゴリズムによるDGSである PointLine を開発・発表した。本研究では、その安定的な動作のための数理的考察を行い、マルコフ過程を用いた独自性を生かした教育利用について研究する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究はDGS(動的幾何ソフトウエア、以下DGSと略記する)のアーキテクチャと応用に関する研究である。DGSとはマウス操作によって平面や空間に図を構築するソフトウェアの総称で、ユーザ操作とソフトウェアとの相互作用性がその特徴である。申請者は2019年にGeoGebraとは異なるアーキテクチャを持つようなDGSを新たに開発した。ソフトウェア名称はPointLineである。このソフトウェアは、マルコフ過程に基づいた非決定論的アルゴリズムを用いているのがその特徴である。この特徴のことを「双方向性」と呼んでいる。一方で、図の決定が非決定論的であることから、作図が安定的に成立するかどうかという数理的な検証を要する。 PointLineにおいては幾何要素の関係性をマルコフ過程を用いたモジュールとして双方向性を組み込み、これを繰り返し適用することによって図を収束させて、動的ソフトウエアを成立させている。ソフトウエアの成立要件として、「成立しうる作図リクエストに対しては直ちに(収束した)図を提示する」「提示された図は微動に対しては安定状態にある」ことが必須であるが、そのことを担保する数学理論は得られていない。研究の一つの切り口として、中点モジュールのみで成立する作図について考察を行っている。中点モジュールはアフィン型マルコフ過程を想定しているため、図の安定収束について完全解析が可能である。実際に「さんすくみ」と呼ばれる図における収束条件を求めることにより、モジュールの適正さの一端を検証することが可能と考えている。 成立しうる作図リクエストのすべてを羅列することは論理的に不可能であるが、例えば平面幾何学の学習・研究に用いる範囲ととらえ、これをできる限りリストアップする作業は必要であろう。そのうえで、安定的収束についての数理的な性質について広く解析を行うことが目標である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PointLineは申請者によって2019年に開発が開始された。PointLineの基本アーキテクチャは、ユーザが与えた条件を満たすような図に収束するようなマルコフ過程を用いることである。DGSでは幾何図形を「要素=点・線分・円」と「モジュール=中点、点が線の上にある、点が円の上にある、円と線分が接するなど」に分解して考える。 PointLineの「中点モジュール」に話題を絞ろう。三点A,B,Cの間に定常マルコフ過程を設置する。この定常マルコフ過程は「A,B,Cを大きく動かさない」「CがABの中点である状態すべてが安定不動点になっている」ようなものである。DGSの仕様として、任意の要素を固定することを許容する必要があるため、中点モジュールにおいてはたとえば、Aのみを固定してマルコフ過程の書き換え対象から外したとしてもCがABの中点である状態へと安定的に収束することが要求される。 このような要件を満たす中点モジュールはアファイン過程にしぼれば、3つのパラメータをもつ空間に限定される。そこで問題になるのが「さんすくみ」と呼ばれる図で、三角形ABCに対して、3点D,E,Fがそれぞれ線分CF,AD,BEの中点となっているような図である。6点A,B,C,D,E,Fすべてを固定しない場合と、A,B,Cの3点を固定した場合について、アファイン過程に仕様を満たすモジュールが存在するかという問題について、肯定的に解決できた。ただし、さんすくみの発展形である「nすくみ」を考えると、すべてのnについて条件を満たす解が存在しないことも証明された。この結果については近日中に論文として発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
PointLineにおいてモジュールごとに小さなマルコフ過程を定義し、複数のマルコフ過程が同時に安定不動点になる状況を探索する作業を行っている。ただし、その場合のモジュールのマルコフ過程には複数の選択の余地があり、いかなる場合に安定不動点を得ることができるかの数理的な証明が必要である。裏を返せば、いくつか知られている、PointLineの動作の安定性が破れる局面がいかなるメカニズムによって発生するかを数理的に研究する必要がある。 PointLineで現状搭載されているマルコフ過程によるモジュールは、工学的にはおおむね我々の要求を満たすものへと改良されている。このモジュールたちを用いた新しい研究の方向性として、PointLineへの「言語による入力」の可能性について議論を開始した。2023年度は大規模言語モデル(LLM)が大きく発展した年であった。このことから、英文または和文により説明された幾何図形の作図(たとえば、「三角形ABCに対して、3点D,E,Fがそれぞれ線分CF,AD,BEの中点となっているような図」)について、その文章を満たすような図をAIにより生成することが、近い将来にできるものと考えられる。ここで、作図をマルコフ過程により実現するというアーキテクチャがよりよくいかされるものと考えている。 そのうえで、作図を言葉で説明するときのあいまいさも研究対象となることに気が付いた。容易な例としては「三角形ABC」と言っただけで、我々の多くは辺BCが下側水平であるような図を思い浮かべるし、我々の多くは不等辺の鋭角三角形を思い浮かべる。このような我々が暗黙の裡に共通に持つような幾何図形の形についての認知科学的な研究も行われるべきであろう。
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