Project/Area Number |
23K11608
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 80010:Area studies-related
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
田村 慶子 北九州市立大学, 法学部, 特別研究員 (90197575)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,730,000 (Direct Cost: ¥2,100,000、Indirect Cost: ¥630,000)
Fiscal Year 2025: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
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Keywords | シンガポール / 上からの民主化 / 市民社会 / NGO / 権威主義体制 / ジェンダー / セクシュアリティ / 民主化 |
Outline of Research at the Start |
シンガポールの政府与党は強力な権威主義体制を長期間維持してきた。しかし、誰もが個人の努力と勤勉によって成功を収めることができるという新自由主義のイデオロギーと現実との乖離が2000年代に入って暴露され、それへの怒りと反動が、与党の支持率低下と市民社会の活発化となって、東南アジア地域で最も早く起こり始めている。 本研究は、シンガポールの政治変動を新自由主義統治下で豊かになった(新興)中間層の主体性に注目して分析し、民主化の波を全く経験したことのない強固な権威主義が変容しうる可能性を明らかにする。また、同様の権威主義体制を長期間続いたマレーシアとの比較も試みる。
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Outline of Annual Research Achievements |
①刑法377A項廃止と憲法改正の分析と考察 2022年に男性どうしの性行為を違法とする刑法377A項が廃止されたが、同時に、政府与党(人民行動党)は「国会が結婚制度を定義する」と憲法に新たに明記した。これによって裁判所の司法判断で同性間の結婚が認められる可能性を閉ざし、「結婚は男女間のみで行われる」とする現状が追認されることになった。近年社会を分断し、「文化戦争」とも呼ばれた刑法377A項廃止問題を政府が強引にこのように決着させた意味と、市民社会の動きについて文献史料と現地の研究者との意見交換などの現地調査で分析・考察した。この研究成果は、台湾で開催された南島史学会での研究発表、さらに「ジェンダーとセクシュアリティをめぐるアジアの政治」(岩波世界歴史講座24)の一部となった。
②2023年9月の民選大統領選挙結果の分析と考察 シンガポールの権威主義体制の行方を考える視点の1つとして、2023年9月に実施された民選大統領選挙の争点と選挙キャンペーンの様子、有権者の反応と投票行動を現地で観察した。その上で、なぜ政府与党が推す候補者が圧倒的多数(与党支持層をはるかに上回る得票数)で当選したのか、それは与党の今後に何をもたらすのか、対立候補を推したいくつかの野党の意図は何か、さらに、当選した新大統領は権威主義体制の行方に何らかの影響を与えるのかなどについて、現地のジャーナリストや研究者、NGO関係者と意見交換を行い、その結果を基に権威主義体制の今後と変動要因を分析した。この考察の一部は、「シンガポール人民行動党権威主義体制の 強靭性と体制変容の可能性」として『法政論集』に掲載した。また、シンガポール国立大学内の研究会(インフォーマルな研究会)と、シンガポール研究会で発表することが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」でも述べたように、2023年8月末から9月初めに現地調査を実施し、権威主義体制の変容と「上からの民主化」の可能性について、刑法377Aの廃止と憲法改正、さらに民選大統領選挙結果が意味するものについて文献調査と研究者やジャーナリスト、NGO関係者などとの意見交換を行うことができた。それらを基にシンガポール研究会(全国規模の研究会、日本)での研究報告、南島史学会(台湾)での研究報告や、インフォーマルなシンガポール国立大学日本研究科での研究会での研究報告、論文として発表することも出来た。 ただ一方で、2019年に成立した「フェイクニュース情報操作対策法」とその発令頻度の多さにみられるように、政府の言論や表現の自由への抑圧は継続あるいは強化されている。これは2024年5月に就任予定の新首相を中心とする第4世代指導者を守るためではないかと考えられる。また、近年、与党と野党、さらには一部のNGOは外国人研究者との意見交換やインタビューに消極的となっているため、当初予定していた与党や野党政治家との面会は進まず、現役大学生らとの意見交換は(大学生に迷惑をかけることを恐れて)断念せざるを得なかった。またシンガポール国立大学内での研究報告はインフォーマルな形式とさせてもらった。 このような制約はあったが、学会報告、論文発表として初年度の研究成果を公表することができ、次年度の研究のさらなる進展につなげることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
①リー・シェンロン第3代首相の20年間の軌跡 「建国の父」と称されるリー・クアンユー初代首相の息子で、2004年から24年まで約20年間首相を務めたりー・シエンロン第3代首相が2024年5月に引退する。彼の首相としての20年間の軌跡、主要な政策、その効用、国民の反応、彼が率いた4回の総選挙の結果、さらにその間の社会の変容を振り返り、初代首相が作り上げた権威主義体制がどう強化され、あるいはまたどう変容したのかを市民社会の動向も視野に入れて調査・研究し、その成果を研究会や学会で報告し、論文にまとめる。
②次期総選挙の分析 シンガポールの次期総選挙は2025年11月までに実施されることになっている。新首相が2024年5月に就任し、与党人民行動党の次期党大会が2024年11月に行われることになっているため、次期総選挙は2024年12月あるいは25年早々に実施されると予想される。新首相の下で行われる初めての総選挙の争点、野党の戦略、与野党のキャンペーンの様子、有権者の反応を現地で観察し、強固な権威主義体制の変容と「上からの民主化」の可能性はあるのかを文献調査とともに分析・考察し、研究者との意見交換も踏まえて研究会や学会で成果報告を行う。
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