Project/Area Number |
23K12040
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 01050:Aesthetics and art studies-related
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
東 志保 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 准教授 (00803165)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2025: ¥130,000 (Direct Cost: ¥100,000、Indirect Cost: ¥30,000)
Fiscal Year 2024: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2023: ¥130,000 (Direct Cost: ¥100,000、Indirect Cost: ¥30,000)
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Keywords | ドキュメンタリー映画 / 芸術と社会 / ヨーロッパ |
Outline of Research at the Start |
ドキュメンタリー映画には、他者をいかに表象するかという倫理的問題が常に存在するため、芸術性の問題は後回しにされがちである。しかし、映像表現が評価されているドキュメンタリー映画作家も少なからず存在している。本研究は、ヨリス・イヴェンス、アンリ・ストルク、クリス・マルケル、ジャン・ルーシュ、アニエス・ヴァルダという、ドキュメンタリー映画史を語る上で欠かすことのできない5人の映画作品を横断的に研究することで、1920年代の前衛映画運動と1960年代のドキュメンタリー映画運動との繋がりを示し、ドキュメンタリー映画における社会性と芸術性の関係性について明らかにする。
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Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、主に先行研究文献の精読、研究対象の映画作品の分析、資料調査を行なった。特に、今まで本格的に調査してこなかったアンリ・ストルクについての文献購読を中心に行ったのと同時に、具体的な映画作品の分析としては、1960年代に焦点を当てた。特に、日本では詳しく吟味されてこなかった、クリス・マルケルが労働者とともに設立した映画制作集団である「メドヴェトキン集団」について、自主管理的な映画制作と労働の実践という観点から再検討した論考を発表し、ドキュメンタリー映画の表現(芸術性)がいかに社会性と交差したか、考察を行った。 また、ジャン・ルーシュが中心的な担い手となったダイレクト・シネマについての研究も進めている。特に、後進のドキュメンタリー映画作家である、レイモン・ドゥパルドンとクロディーヌ・ヌガレや、想田和弘の映画を例に、ダイレクト・シネマの現代的意義を問い直す論考を発表したり、研究発表を行った。 いずれの場合も、ドキュメンタリー映画における社会性と芸術性の共存がテーマとなっており、更に考察を深めていくための足掛かりとなる研究成果であった。特にダイレクト・シネマにみられるような被写体の語りの重視は、脱植民地化や社会運動の顕在化といった1960年代の社会背景が出発点となっていることが浮き彫りになり、それがイヴェンス、ルーシュ、マルケル、ヴァルダの映画作品を貫く共通の特性となっていることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は、1960年代に焦点を当てて研究を行ったが、あえて時代を限定することで、より深く作品の成立過程や社会的背景を浮き彫りにすることができた。本来は、1920年代についても、同様のことを行う予定であったが、そうすると、どっちつかずに終わっていた可能性がある。また、時代を限定することで、1960年代以降の社会変化による、ドキュメンタリー映画の役割の変遷も追うことができ、ダイレクト・シネマの映画史的系譜も明確にすることができた。その結果は、3本の論考(そのうち1本は2024年4月に刊行)と2回の研究発表となって結実した。更に、2023年度の研究から、新たな課題も見えてきた。このことは、2024年度に計画している、フランス、ベルギーでの資料調査にも役に立つと考えられる。特に、これまでストルクについての研究の土台は、2023年度の先行研究精読や作品分析にて形成することができたため、今年度予定しているヨーロッパでの調査で、どのような資料にあたるべきか、目処がついてきた。以上のような理由から、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、特に1960年代初頭のダイレクト・シネマの潮流や、60年代末の政治映画に焦点を当てて調査した。というのも、この時代は、「批判的大衆」と呼ばれるような、映画観客のあり方の変化が起こった時期であり、ドキュメンタリー映画作家たちもそれと呼応するように制作活動をしており、社会性が強く意識された時代であったからである。ただ、本研究で扱おうとしているもうひとつの時代である、1920年代のドキュメンタリー映画の研究については、ストルクの資料講読と作品分析のみにとどまっている。そのため、本年度は、1920年代のドキュメンタリー映画における社会性と芸術性の共存について、イヴェンスとストルクの作品や当時の社会背景から読み解いていく予定である。 また、ストルクについては、1950年代以降、多くのアート・ドキュメンタリーを手がけていることから、マルケルと影響関係にあったアラン・レネとの共通点を見出すことができる。レネの場合は、モンタージュに社会性と芸術性の共存がみられるが、ストルクの場合にもそれがあてはまる。更なる作品分析や資料調査を通して、その点を確認していくことが今後の課題となる。2024年度はフランスとベルギーでの資料調査も計画しているため、フランス国立図書館、シネマテーク・フランセーズ、アンリ・ストルク財団(ベルギー自由大学付属図書館蔵)の資料講読を通して、以上の点を解明した上で、研究を推進していきたい。
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