Project/Area Number |
23K12054
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 01060:History of arts-related
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
杉山 美耶子 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (50962932)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2027: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2026: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2025: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2024: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
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Keywords | ヤン・ファン・エイク / 工房における美術製作 / 美術批評 / 受容史 / 初期ネーデルラント絵画 / 批評史 |
Outline of Research at the Start |
本研究は初期ネーデルラント絵画の15世紀から18世紀末までの資料を体系的に整理するとともに、芸術作品の記述と評価に影響を及ぼしていると思われる要素、例えば16世紀にイタリアとネーデルラントにおいて数多く編纂された画家列伝から伺える芸術観や、17・18世紀に美術を牽引した王立アカデミーにおける美術理論、芸術を利用した都市のプロモーション活動など、テクストの記述者=批評者を取り巻く環境を考慮する点で独自性を有している。多様な作品にかかわるテクスト分析を通し、記述方法や内容における共通点と差異を見出すことが可能となり、他の時代・地域の美術に対する批評研究との比較分析を促すことを目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、近代的美術批評が確立する以前、15世紀から18世紀末までの初期ネーデルラント絵画に対する批評の変遷をたどるとともに、時代・地域ごとの批評態度に影響を与えている文化的・社会的因子の解明を目指している。本年度は、初期ネーデルラント絵画の創設者であるヤン・ファン・エイクの、生涯と作品に関する広範な史料を収集・分析した。史料収集と分析に際しては、ベルギー王立美術研究所が現在も刊行を続けている初期ネーデルラント絵画の全作品集に収録された記録を中心に参照し、徹底したテクスト分析と比較を行った。これにより、時代・地域におけるファン・エイク作品に対する批評の差異が明らかとなった。 ヤン・ファン・エイクについては以前より批評史に関する整理を行っていたが、真筆作品だけでなく、工房や追随者による作品にも調査対象を広げ、15世紀半ばから18世紀末の西欧における評価の変遷を調査した。批評の文言だけでなく、作品目録や売買記録にみられる価格表記も精査し、美術史的価値ならびに金銭的価値も考慮し、時代・地域においてヤン・ファン・エイクの評価が一定ではなく、当代地域の趣味や流行に左右されていることが、具体的史料の分析により明らかとなった。 本研究成果の一端は、申請者がかねてより携わっている、ヤン・ファン・エイク史料編纂事業・共著刊行プロジェクトにおいて発表される。本書は、ヤン・ファン・エイクの生涯に関する史料、個別作品に関する史料、後世に執筆された伝記や批評にみられる記述、以上三部から構成される。加えてヤン・ファン・エイク作品における機能に関するエッセイも寄稿し、史料から読み取れる作品成立背景と元来の設置場所における宗教的・社会的機能に関して体系的に論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査対象がヤン・ファン・エイク(及び工房と追随者)にとどまったが、ヤン・ファン・エイクの受容史及び批評史に関する共著の原稿が完成し、2024年末までに刊行の目途がたった。同書はヤン・ファン・エイクの生涯と作品に関わる15世紀から18世紀末までの史料を網羅的に収集し、原文と邦訳、解説を加えたものである。ファン・エイクに関わる史料を体系化した国内外においても初の試みであり、ファン・エイク研究のみならず初期ネーデルラント美術の批評と受容史において多大な貢献を成すものである。申請者の初期ネーデルラント絵画の批評と受容に関する研究の一成果は、「フランドルの三大都市は彼の芸術で飾られている(マルクス・ファン・ファールネウェイク)―史料が語る画家像と作品―」と題されたエッセイとして同書に収録される。 また、ファン・エイクの追随者たち、特に15世紀後半から16世紀初頭にブリュッヘで活動したハンス・メムリンク、ヘラルト・ダフィットの批評に関する事例研究に着手し、研究を進めている。特に彼らがブリュッヘに残した作品群と設置空間の特性に注目し、特定の空間に一定期間設置されていた作品が、時代の変遷の中でどのような批評と評価を集めたのか、史料をもとに分析を進めている。同作業の過程で、特定の記録者がある一定の影響力を持ち、彼/彼女に端を発する同様の作品記述・批評が複数の後世の記録に繰り返し現れるという点である。特定の言い回しが他者の記録の中で用いられるにいたった経緯については、今後の調査課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
*各作品と史料の比較:本年度は史料の収集と分析を中心に行ったため、今後は作品自体とテクストの記述の整合性を検証する。ファン・エイク史料編纂時、実際の作品には認められないモティーフや描写に関する記述が一部の記録に認められた。これは、実際の観察ではなく、口承によって誤って伝えられた情報が関係していると考えられる。ヤン・ファン・エイクだけでなく、同時代及び後世のネーデルラントの画家たちの作品にも同様の外的要素が介在していないか、実際の作品と照合し、テクストの信憑性や成立状況を見極める。 *史料再分類と比較:現在収集中である、ヤン・ファン・エイク以降の画家たちの史料を整理する。申請者が使用しているベルギー王立美術研究所刊行のCorpusにおいては、史料が美術館ごとで分類されているため、画家ごとに再分類し、各作品にかかわる記録を時代・地域ごとに整理する。資料の内容や記述方法、画家と作品に対する評価に、差異や共通点が存在するか分析する。 *批評の変化に影響を与えた要素の分析:画家同士の記録を比較検証する。作品記述における言い回し、着眼点における共通点と差異を特定する。称賛や非難されている対象や理由など、各時代・地域の記述方法に一定の共通点が認められた場合、その背後にある影響要素を検証する。特に当時の美術を牽引していた各国美術アカデミーにおける美術批評や芸術観、過去の作品の再評価が関係している可能性を、当該時代・地域で刊行された芸術理論書等をもとに検証する。更に作品の称賛が設置されている都市の称賛につながっている場合、当時の都市の文化的・社会的情勢も検証する。
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