ベールとポール・ロワイヤルにおける歴史と道徳の蓋然性
Project/Area Number |
23K12145
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 02040:European literature-related
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Research Institution | Matsuyama University |
Principal Investigator |
谷川 雅子 松山大学, 経営学部, 准教授 (60897304)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,990,000 (Direct Cost: ¥2,300,000、Indirect Cost: ¥690,000)
Fiscal Year 2025: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2024: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
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Keywords | ピエール・ベール / ポール・ロワイヤル |
Outline of Research at the Start |
浩瀚な史料の厳密な分析による歴史批評を行うピエール・ベール(1647-1706)が、信憑性が高い歴史的事象に見出す「蓋然性」を手がかりに、同時代のポール・ロワイヤル(アルノー、ニコル)の議論と関連付け、歴史だけでなく、人間の行動の是非を論じる道徳論の、中世からベールに至る変遷を検分する。それにより、18世紀のヴォルテールら啓蒙思想家たちがベールに見出した、近代的批判精神の生成の内実を明らかにすることを目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的のひとつに、これまでの先行研究で支配的だった「懐疑論者ベール」という見方の相対化を図ることがある。今年度はそのために、不確かな伝承に基づく歴史に対するベールの批判を、中世からの大きな流れの中で位置付けることを試みた。中世からの「蓋然性」の変遷を、ベールの『歴史批評辞典』と、ベールの歴史批評に影響を与えたポール・ロワイヤルの『論理学』を中心に把握することを目指した。 蓋然性は、中世スコラ学で、ある出来事の確からしさを判断する基準として、確実な知でなく、不確かな個人の臆見の領域へ追いやられた。だが、アウグスティヌスやトマスの影響を受けた『論理学』では、証人や証言を通じた「心への証明」として、カエサルやローマ帝国の実在を客観的かつ確実に示す肯定的な意味を担う。ベールが依拠する、この『論理学』の議論を結節点として、中世からベールへの系譜を辿り、伝統的概念(証人の権威、蓋然性)がどのように再読されたか問い直した。 古代懐疑論を問い直すアウグスティヌスを踏まえ、ベールとポール・ロワイヤルにおいて、蓋然性の否定的側面(真実に至れない不確かなもの)が排斥され、肯定的側面(他者の証言や意見への信頼をつくる)が拡大する様子を見た。その過程が、アリストテレス以来の古代蓋然論の縮小に呼応することを明らかにした。結果としてベールは、根拠薄弱な民間伝承だけでなく、聖書などの宗教的権威にも批判的眼差しを向け、ポール・ロワイヤルのと異なる方向へ向かう。 今年度の研究では、このようなベールの議論を追うなかで、宗教や教会の権威や、信仰を前提としない、誰でも客観的に検証可能な学問としての歴史学の成立過程を明らかにした。さらに、宗教と独立した歴史学という視点が、ライプニッツにも見られることから、ベールとポール・ロワイヤルだけでなく、ライプニッツを関連させることも試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベールにおける歴史学での蓋然性の位置づけをより詳細に追うため、中世のテクストだけでなく、17世紀ヨーロッパで大きな問題となった中国の典礼問題を視野に入れて議論する必要性が出てきた。 当時、ヨーロッパ以外で発展した高度な学問体系に接したベールたちは、キリスト教を基盤としない知的営為の在り方を理解する必要に迫られた。たとえばライプニッツは、歴史だけでなく、数学や法学といった学問においても蓋然性を基準として、キリスト教を信仰しない人々の学問知を体系立てる可能性を開いた。一方、アルノーとベールもまた、神学的な論争の文脈でこの問題を論じており、三者の議論を突き合わせる視座を得た。 以上の成果から、研究は順調に発展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の主題である蓋然性の性質を掘り下げるため、来年度は、「蓋然性」と同じ語で示される「確率」の不安定な意味をテクストに即して把握することを目指す。そのために、ベール『マンブール氏への一般批判』(1682)におけるアルノーへの批判を参照する。このアルノー批判と『論理学』の読解を通じ、ベールは人間の行動の動機を蓋然性によって外面から推察する限界を見定めていることを確認する予定である。その中で、個人の内面の不可侵性と思想の自由を確立するベールの議論を追う。ここで今年度の成果を踏まえ、ライプニッツの道徳論も適宜参照し、信仰と国家、社会における個人の自由についてのベールの議論の立ち位置を明らかにしたい。
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Report
(1 results)
Research Products
(1 results)