Project/Area Number |
23K12372
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 05030:International law-related
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
阿部 紀恵 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 助教 (30910856)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
|
Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2026: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
|
Keywords | 環境保全 / 人権保障 / 環境権 / 気候変動訴訟 / 価値調整原理 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、人権保障と環境保全という国際法規範が実現するべき2つの価値が、どのような関係にあると理解され、いかにして関連する複数の法規範の立法(改正)・解釈・適用に反映されているのかを、その多元的構造に着目しつつ検証するとともに、そこで観察される人権保障と環境保全との調和と齟齬が生じるメカニズムを解明するものである。本研究は、国際法が、人権・環境・経済など分野別に規律を発展させる一方、実現すべき多様な価値の調整(協働・対立)を担う中央立法機関を欠くとき、それが備える固有の価値調整原理の一端を明らかにするものと位置付けられる。
|
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、近年増加している気候変動訴訟のうち、気候変動の緩和をめぐり、人権侵害に基づいて提訴された訴訟、および、個人通報制度を利用した人権条約機関への通報の実行を分析した。分析の視点として、次の2点を意識した。すなわち、①いずれの主体によるどのような行為(作為のみならず不作為をも含む)が、いかなる権利の侵害として訴訟提起あるいは通報がなされており、その人権侵害の立証にはどのような障害があるのか、②従来の直接的かつ局地的な環境損害と気候変動との性質の違いが、環境保全と人権保障との関係にいかなる変化を及ぼしているのか、という点である。 ①の視点から加えた検討は、人権侵害に基づく気候変動訴訟において、国家による不十分な緩和策を原因とし、気候変動に起因する自然災害により個人に発生した損害を結果とする因果関係の立証基準はいかなるものか、という問いに帰結した。この問いに答えるべく、本研究では、民法の不法行為法における議論を参照し、因果関係の立証は、自然科学の知見に基づく事実的因果関係と、有責性を中核とする規範的評価に基づく法的因果関係の両方から評価が加えられ、これらの評価軸が相補的な関係にあることを指摘した。そのうえで、実行の分析を通じて、前者による評価は極めて緩く、後者による評価が支配的となっていることを明らかにした。 また、②の分析として、気候変動訴訟に象徴されるように、気候変動の激甚化に伴う環境損害が人権を侵害しうることが、環境権概念の拡張を促しうることを指摘した。しかし、私権としての環境権概念の拡張には様々な難点が伴うため、手続的権利としての環境権の重要性を再確認した。 これらの研究成果は、国際会議での報告および2件の学術論文にまとめて公表した(学術論文は2024年度以内に、それぞれ論文集の一章および教科書の一章として出版予定)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
気候変動訴訟における因果関係の立証をめぐる先行研究においては、その立証が裁判の結果を左右する重要な論点であることが強く意識される一方で、その立証を評価する枠組みをめぐっては混乱が生じており、その背景には、異なる前提に依拠する立場から対立する主張が提示されていたことがある。本研究が明らかにした因果関係の評価枠組みは、このような対立の構図を解き明かし、それぞれの立場を批判的に検証することを可能にした。こうした評価枠組みは、国際法平面のみならず、国内法平面における気候変動訴訟、ならびに、国際法における他分野の実行分析にも応用できるものである。このように、今後の研究の多様な方向性を見通せた点を考慮して、おおむね順調に進展している、と評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
気候変動訴訟における因果関係の立証を評価する枠組みとして本研究が示したものが、十分な実証的基盤を伴うものであるのか、現在も発展し続けている実行の分析と照合を行い、修正していく必要がある。また、初年度では、明らかにした因果関係の立証の評価枠組みという近視眼的な分析を、人権条約の保障する環境権概念にどのような変容をもたらすのか、ひいては、環境保全と人権保障との関係にどのような影響を及ぼすのか、というより大局的な視点からどのように評価できるか、という考察は手薄になっていた。これらは、今後の課題として手当てをしていく予定である。 今後の研究において注目される実行として、2024年4月9日に欧州人権裁判所大法廷によって出された、気候変動による人権侵害の申し立てを一部認容する判決がある。本報告書の作成時点で、既に一定の分析は完了しているが、本判決は、NGOの役割や手続的環境権の保障の重要性について、特に重要な意義を有しており、因果関係とは異なる切り口から、気候変動訴訟が環境保全と人権保障との関係にもたらす変化を分析する手がかりを提供している。加えて、2024年度には、将来世代の利益を代表する方法をテーマとして国際法学会での報告を予定しており、さらに異なる別の観点から、環境保全と人権保障との関係に迫る機会が与えられている。2024年度以降は、これらの様々な切り口からの個別の分析を深めるとともに、本年度得られた成果との整合性を検討し、気候変動訴訟が総じて環境保全と人権保障との関係にもたらす影響を明らかにしていく予定である。
|