Project/Area Number |
23K12737
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 09020:Sociology of education-related
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
佐藤 美奈子 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 外来研究員 (20964993)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2027: ¥260,000 (Direct Cost: ¥200,000、Indirect Cost: ¥60,000)
Fiscal Year 2026: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2024: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
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Keywords | 成人識字教育 / 語り / ブータン / ナラティヴ・アプローチ / オーラル・ヒストリープロジェクト / 女性の自立 / 起業 / 自己実現 |
Outline of Research at the Start |
本研究は「言語社会化論」(Ochs & Schieffelin 2012)を理論的枠組みとし、ブータン王国の成人女性を対象としたNFE(ノンフォーマル教育)の開発と実践をアクション・リサーチの手法でおこなう社会言語学的研究である。第 1 の目的は「語り」を軸とするリテラシー教育を通して女性たちの自己肯定感を育み、その方法を「ナラティヴ・アプローチによる自己肯定感を育むリテラシー教育」として体系化することである。第 2 の目的はNFE修了者を主体とする地域ベースの「オーラル・ヒストリー・プロジェクト」を立ち上げ、NFEを共同体の活性化と民族文化継承のための生涯教育へと発展させることである。
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Outline of Annual Research Achievements |
2023年3月調査では,西部と中央部のNFE教室とコミュニティラーニングセンター15校を訪問した。しかしながら,インタビューより、NFEに通う母親たちの就学動機が、調査開始時(2015年)より変化していることが明らかになった。当初、NFEの学生は「国家アイデンティティ」として政府が明示するゾンカ語(国語)能力の不足に対するスティグマから学習に臨んでいた。2023年の調査からは、子どもの学力不振・留年・退学に対し、教育がない家庭では子どもの勉強を補助できないことについて「親として申し訳ない」「教育のある親の家庭との格差」から母親がNFEに臨んでいる状況が明らかになった。 2024年3月調査では、西部、中央部、東部、南部までブータン全域のNFE14校を訪問し、同時に地域の小学校14校を訪問し校長と現場の教師にも話を聞いた。その結果、小学校4学年の退学率30%、留年率30%を超えており、その多くが家庭に問題を抱える生徒であった。学校教育の現場は状況を把握していたが、教育省に報告され対策が取られることはなく,教育省の方針が現場の認識と食い違っている点が目立つ結果となった.NFEの調査から普通教育の子どもたちの問題が明らかになり,子どもも含めた地域での包摂的な学習環境の整備が必要な状態であることが明らかになった. その一方で,2023年には見られなかった点として,NFEを修了した女性の何人かが起業していることが分かった.政府が女性を対象とする起業セミナーを開催し,それに参加した学生が小さなテイラーの店や食品雑貨店を開いた例や,環境美化の一環としてごみ拾いの活動を開始し,集めたごみを売ることで利益を出す案を実践している例もあり,NFEが女性の自立に結びついている面も明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初,本研究は,成人を対象とした識字教育に焦点を当て,女性たちがリテラシーを得ることで自立し,さらに地域活動の担い手となることを目指す取り組みとしてスタートした.しかしながら,女性たちの学習への取り組みの目的が,自分自身の自立よりも,わが子の学習を助けたいという思いから教室に通っていることを知った.それにより,現在のブータン社会が抱える経済格差や親の教育歴の格差が子どもたちの家庭学習環境の格差となって,学齢期の子どもたちの普通教育における高い退学率や留年率を招いている状況が明らかになった.さらに,貧困や親の育児放棄,家庭崩壊で僧院で育つ子どもも少なくない状況があり,福祉政策が行き届かないなかで僧院がその受け皿となっている状況が明らかになった. 一方,僧院や尼僧院では,伝統的な僧院教育では英語を教えないことから僧院で育った僧侶や尼僧らが英語能力がなく,英語化するブータンの現代社会の経済社会活動に参加できない状況も明らかになった.そこで現在,本研究では,僧院や尼僧院の僧侶や尼僧らも含めた活動として地域活動を発展させる取り組みを始めることにした.当初は,地域のコミュニティラーニングセンターを拠点とする予定であったが,伝統的な「寺」を中心とするつながりを再確認することでブータンらしい包摂の形を実現できるのではないかと思われる. 僧院教育をNFEと普通教育に連動させ、その包摂機能を評価した取り組みとして、当研究は、国際開発学会第34回全国大会にて発表し、優秀ポスター発表奨励賞を受賞した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の当研究の取り組みは,ブータンにおける状況の変化もあり,国内と国外の2本立てでいく予定である.国内では,僧院と尼僧院を積極的に巻き込んだ地域活動をおこなっていく.2024年3月のブータン現地調査で,地域活動に積極的な全国の僧院と尼僧院を15僧院訪れ,僧院と地域の人たちとの人間関係がいかに強いかを知った.今後は,村寺を中心とする地域活動の方向性と可能性をより確実に実践化する取り組みをする計画である. 国外では,当初予定していなかった事態として,ブータン人の大量の海外流出がおこったことから,地域活動の場を海外(特に移住者が多いオーストラリアとカナダ) に移し,海外でのブータン人のコミュニティ活動について調査を広げていく予定である.
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