Project/Area Number |
23K13168
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 17020:Atmospheric and hydrospheric sciences-related
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
矢部 いつか 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (90961813)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,950,000 (Direct Cost: ¥1,500,000、Indirect Cost: ¥450,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
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Keywords | 日本海 / 対馬暖流 / 極前線 / 気象擾乱 / 近慣性内部波 / 栄養塩 / 水塊混合 |
Outline of Research at the Start |
栄養塩は、基礎生産者である植物プランクトンの増殖に必要不可欠な物質であり、食物網を通じて魚類の分布や漁場の形成に影響を与える。日本海における主な栄養塩の供給源は、対馬暖流の起源である黒潮水と日本海深層に分布する日本海固有水である。栄養塩が欠乏しがちな夏季以降の中・深層から有光層内への栄養塩供給プロセスについては理解が遅れている。本研究では、ぶりやスルメイカの漁場としても利用されている日本海南部に着目し、極前線・対馬暖流の前線構造を介した二次循環、渦構造と気象擾乱により生じる近慣性内部波の相互作用が水塊混合と栄養塩の供給を引き起こすという作業仮説に基づき、その真偽を調べる。
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Outline of Annual Research Achievements |
日本海内部の基礎生産を支える栄養塩の主な供給源は、対馬海峡から流入する黒潮水と日本海内部の中深層である。中深層からの栄養塩供給は、数値シミュレーションに基づき示されているものの、観測的研究は乏しくその供給量・供給プロセスに関する理解は進んでいない。本研究では、日本海内部に着目し、極前線・対馬暖流や関連する渦構造を介した水塊混合とそれに伴う栄養塩供給を明らかにすることを目的としている。 本年度は気象庁が定期的に実施している海洋気象観測データを用いて日本海内部の海域ごとの鉛直プロファイルを調べた。日本海北部は南部と比べて栄養塩が豊富であることが知られているものの、密度を鉛直軸とした硝酸塩プロファイルは全密度帯(23.6-27.2σθ)で北部よりも南部で高く、海盆規模の主な水塊混合プロセスである等密度面混合では北部から南部に栄養塩を供給しない。なお、黒潮が重要な栄養塩供給源であると言われる根拠である25.0σt付近の硝酸塩極大は、北部および南東部では見られない。黒潮由来の栄養塩は南西部で消費され、南東部ではその影響が小さくなっている、つまり南東部では日本海内部からの栄養塩の重要性が高まることが示唆された。 次に、佐渡島沖に設置した係留計で取得した1年間の流向・流速データを用いて水塊混合につながり得る近慣性内部波の挙動を調べた。夏から秋季には台風や前線などのイベント時に、冬季には頻繁に通過する低気圧が継続的に海洋内部にエネルギーを供給することがわかった。そのエネルギーは、夏季には数週間かけて海底付近まで到達するものの、冬季にはそのエネルギーの9割近くが水深500m以浅で減衰する。高温・高塩分の対馬暖流水と日本海深層に広く分布する低温な日本海固有水との間に形成する躍層構造が近慣性内部波の深層への伝播を妨げ、躍層付近での水塊混合につながることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、公開されている海面高度やクロロフィルなど人工衛星データと風向・風速、気圧などの気象データ、気象庁の海洋観測データを中心にデータ解析した。栄養塩枯渇期である夏から秋季に着目した10年を超える長期間のデータから、気象擾乱の通過時期のブルーム発生の有無と発生域が特定できた。なお、複数のイベントにおいてブルーム発生域は対馬暖流のフロント構造付近に捉えられており、一部期間の重なる海洋観測データからは中層からの供給とみられる局所的な栄養塩濃度の上昇もみられた。本研究で着目する等密度面を横切る水塊混合事例が捉えられた。 また、過年度までに取得済みの海洋観測データを用いた日本海南部の乱流散逸率の見積もりにも取り組んだ。対馬暖流フロントの躍層付近では乱流散逸率がO(10-7 W kg-1)、拡散係数にするとO(10-3 m2 s-1)の値となっていた。周囲よりも2-3桁大きな混合であり、パッチ状の局所的な混合ではあるものの複数年の観測データで捉えられていることから、継続的な鉛直混合と下層からの栄養塩供給が期待される。 2023年9月には調査航海に参加し、佐渡島から北西方向に向かう観測ラインにて硝酸塩センサーを搭載したCTD、XCTD、SADCPを用いて、対馬暖流と極前線を横切る水塊構造(水温、塩分、溶存酸素、クロロフィル、硝酸塩など)と流動構造(流向・流速)の横断観測を実施した。調査航海のスケジュールの都合上、乱流計による乱流エネルギー散逸率(水塊の混合強度)の直接観測を行うことはかなわなかったものの、今後は取得済みの観測データを使いパラメタリゼーションを用いた混合強度の推定に取り組む。 なお、2024年度の観測航海の実施に向けて、物理・化学・生物の研究者で協力して共同利用を通じた調査航海を申請したものの、不採択となった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に実施した日本海内部の海域別の栄養塩分布に関する知見を、対馬暖流の流路とそれ以外の領域に区別して追加解析を実施する。対馬暖流の流路は、人工衛星の海面高度データを用い、開発済みのアルゴリズムを使用して特定する。対馬暖流起源の栄養塩の分布とその影響範囲に関して研究成果を取りまとめる。 2024年6月には日本海で実施される調査航海に参加する機会を得た。極前線・対馬暖流横断面における海洋観測を実施する。具体的にはCTDを用いて水塊構造を、船底設置型ADCPを用いて流動観測を捉え、乱流観測に基づき水塊混合の指標である乱流エネルギー散逸率や鉛直拡散係数を算出する。 対馬暖流のフロント域における乱流エネルギー散逸率の観測データを蓄積し、同時に分析する栄養塩濃度の分布と組み合わせることで栄養塩フラックスの見積もりを行う。また、密度構造と流動データを組み合わせて極前線・対馬暖流フロントに形成される鉛直循環流の見積もりと水塊混合の推定を行う。対馬暖流は季節変動のみならず経年変動も大きいため、観測実施時に鉛直循環流が捉えられるか、栄養塩供給イベントと重なるかはわからない。しかしながら、長期的な海面高度データを用いて、対馬暖流フロントの変動および観測実施時の状況を把握することで、実測値を解釈する。 さらに、船底ADCPで計測した流向・流速データから水塊混合につながる近慣性内部波の空間構造から、極前線・対馬暖流フロント域における近慣性内部波の砕波を捉える。なお、明瞭な近慣性内部波のシグナルを観測するには直前に観測海域を気象擾乱が通過する必要があるため、必ずしも捉えることができるとは限らない。捉えられなかった場合には、気象擾乱が通過しない平常時の観測結果としてイベント発生時との比較対象となるデータの蓄積につなげる。また、過去に実施した同様のデータも目的となるイベント発生の特定に使用する。
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