Project/Area Number |
23K13828
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 36020:Energy-related chemistry
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
田代 啓悟 成蹊大学, 理工学部, 助教 (00883109)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2025: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2024: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2023: ¥3,770,000 (Direct Cost: ¥2,900,000、Indirect Cost: ¥870,000)
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Keywords | 二酸化炭素濃縮 / 極性勾配 / 界面活性剤 / フォトクロミック分子 / カーボンニュートラル |
Outline of Research at the Start |
本研究ではより強い電子的相互作用を介して二酸化炭素を捕捉することを目指し、アミン部位を有するフォトクロミック分子に着目した。スピロピランは第3級アミン部位を持つフォトクロミック分子であり、二酸化炭素と非共有電子対を介して相互作用するが、光異性化により生じるメロシアニンは、非共有電子対が共役系に使用されるため、二酸化炭素を放出すると考えられる。しかし、これらの2状態間での極性の差が著しく大きく、ある1つの極性環境では両分子が共存できない。そこで、界面活性剤を用いて両分子が共存できる極性勾配反応場を構築し、スピロピランを用いた二酸化炭素濃縮システムを実現する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、これまで実例がないスピロピランを用いた光応答性の二酸化炭素(CO2)の吸脱着材料を創成することを目的とした。はじめにスピロピランがこれまで全くCO2吸脱着材料に使用されてこなかった背景を分子化学的に考察したところ、スピロピランは無極性である一方で、光異性化で生じるメロシアニンは双性イオンを持つ極性構造であり、光異性化に伴う極性変化が大きいことから、特定の極性環境では光異性化が進行しないことが要因であったと考えられた。そこで極性勾配を有する反応場を構築することでスピロピランとメロシアニンの光異性化を誘起することを戦略とした。この目的・戦略に対し、粘土鉱物であるモンモリロナイトの層間にカチオン界面活性剤であるへキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)を導入し、界面活性剤の自己組織化により生じる極性勾配を固体材料中に創成した。さらに、CTABが挿入された粘土層間にスピロピランを導入することもできた。粘土層間に構築された極性勾配反応場では、照射する光の波長に依存してスピロピランとメロシアニンが動的かつ可逆的に異性化し、スピロピランの状態ではCO2を捕捉する一方で、メロシアニンはCO2と相互作用しないことが明らかになった。また、密度汎関数理論に基づく量子化学計算によってスピロピランもしくはメロシアニンとCO2の相互作用エネルギーを算出することで、理論的に実験を補足することもできた。 本研究の戦略はこれまでの新たな物質を作るという観点とは異なり、「分子に最適な反応場を構築する」ものであり、これは機能性材料を創成する新たな戦略として大きな意義を持つ。本研究の内容はすでに学術論文(Chem. Commun. 2023, 59, 4304.)で出版されており、出版紙のBack Cover Artに採択された。また、国内の学会発表の1件では、優秀講演賞を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
粘土鉱物と界面活性剤を用いた超分子化学的アプローチにより、極性勾配をもつ反応場を構築することに成功し、そこに導入したスピロピランによりCO2を吸着させることに成功した。また、極性勾配に誘起されて光照射下でスピロピランとメロシアニンの異性化が動的に進行することも示した。紫外光を照射した際にスピロピランから異性化したメロシアニンはCO2を吸着せず、光照射によって CO2の吸脱着モードをスイッチングすることが可能になった。さらに、密度汎関数理論に基づく量子化学計算によってスピロピランは静電相互作用だけでなく、電子的相互作用により強くCO2を吸着することが実証された。一方で、メロシアニンはCO2との距離に依存せずエネルギー値が一定であったため、CO2と相互作用をしていないことが示唆された。これらの結果から、実験的および理論的の双方から、スピロピランがCO2 吸着モード、メロシアニンがCO2脱着モードであることを示した。本研究で見出したスピロピランを用いた光駆動型のCO2吸脱着は世界初の報告である。申請内容に関連する論文がすでに出版されており高い評価を得ることができ、Chemical Communication誌のBack Coverアートとして採用された。また、現段階で次のステージに進むことができている。国内外の学会で当該研究の発表を行ったところ概ね好評であった。そのうち1件では優秀講演賞を受賞した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、当該研究を実用していく上での課題は、高いCO2拡散性、高い光透過性をもつ材料の開発および動的なCO2吸脱着の実現である。前者に関してはすでにナノサイズの構成単位をもつ粘土鉱物を用いて実験を進めている。報告した研究では、粘土鉱物の層間に界面活性剤をインターカレーションすることで反応場を構築してきたが、本アプローチでは界面活性剤のミセルの周辺に粘土鉱物を配向させる手法により反応場を構築している。現段階では、界面活性剤ミセルの構造相転移にともなう高次構造が反映された反応場が構築されていることが明らかになっている。今後、界面活性剤の濃度、温度、イオン強度を変化させ、得られる反応場の高次構造を電子顕微鏡を用いて可視化するとともに、粘度測定等の手法により、界面活性剤ミセルの高次臨界ミセル濃度との相関を明らかにする。また、反応場に導入できるスピロピランの最大分子数を推定し、性能が高いCO2吸脱着材料の開発を目指す。同時に循環型の反応器を設計・構築し、スピロピランの光異性化率と光照射に伴うCO2の吸脱着要領の変化やCO2吸脱着速度の相関を明らかにする。同時に光照射に伴って化学構造を変化させるフォトクロミック分子ではなく、光照射寺の電子構造の変化のみを駆動用力としたCO2吸脱着材料の開発も試みている。この利点はフォトクロミック分子は化学平衡に縛られているのに対して、電子構造の変化で起こるCO2吸脱着モード変化は平衡の制約を受けないため、安定性に優れているところにある。これらの戦略をもとに世界に先駆けた研究を実施していきたい。
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