Project/Area Number |
23K17097
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 80010:Area studies-related
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
汪 牧耘 東京大学, 東洋文化研究所, 特任研究員 (00968513)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
|
Budget Amount *help |
¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2024: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2023: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
|
Keywords | 国際開発研究 / 中国 / 知識生産 / 脱欧米中心主義 / 国際開発 / 開発学 / 言説分析 |
Outline of Research at the Start |
国際開発研究(international development studies)は、第二次世界大戦後の低開発地域の経済成長を促すために、欧米で発足した学問分野である。一方、21世紀に入ってから、中国は非欧米社会の代表格として、国内の急速な経済成長に伴い、国際開発という独自の開発経験や国家観を示す知識体系の構築にも力を入れている。本研究は、近年中国国内で起きた「国際開発研究ブーム」に着目し、その学術成果を中国の言語的・社会的文脈に基づいて分析する。それを通じて、先行研究の空白を埋め、学術世界の「欧米中心主義」への批判が表面化している今日において非欧米社会における知識生産の可能性を試論する。
|
Outline of Annual Research Achievements |
【具体的内容】① 文献調査:国際開発に携わる中国人研究者の経歴、専門分野、学術業績、講演記録等について、オンライン上の資料調査と国家図書館における文献収集を通じて体系的な整理を行った。② 現地調査: 北京大学、中国農業大学、上海対外経貿大学、復旦大学等の主要大学、国務院国際開発知識センター、商務部研究院、永続全球環境研究所、北京緑色金融与可持続発展研究院等の主要シンクタンク、並びにJICA中国事務所を訪問し、これらの機関に所属する研究者及び実務家計25名に対してインタビュー調査を実施した。③ 論文・書籍の執筆:中国の研究者らの著作物において、彼らが依拠する理論的枠組みや「開発」をめぐる主張を体系的に整理・分析した。その成果として、査読付き学術論文(2本)、共著本(1点)、単著(1点)を刊行した。また、本研究の副次的な研究成果について、複数の学会・研究会で研究発表を行った。 【意義】① 中国における国際開発研究の受容と展開過程を実証的に解明し、同分野の研究上の空白を埋めることができた。② 欧米中心主義に留まらない新たな開発論を構築する上での可能性と課題を実証的に示すことができた。 【重要性】西欧近代発展観への一種の反省から、非欧米社会における多様な発展パスの探求が喫緊の課題とされる中、中国の国際的プレゼンスが高まる状況で、その対外協力政策及び開発理念を内在的に理解することの重要性は増大している。本研究は以下の点で重要である。① 中国における国際開発研究の潮流を通時的に捉えるとともに、その知識生産環境や文脈的要因を考慮に入れた。② それにより、脱中心的な知の生産の現状と課題を明らかにし、より再帰的な学術的知識生産に寄与する基盤を提供した。③ 中国の言説と実態の両面から新たな開発研究の胎動を捉え、今後の国際開発協力や開発学理論の発展に向けて多様な知見を提供した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の調査は、概ね計画書通りにできており、その結果として以下の成果を発表した: ①論文「日本の開発学はどうなりうるか:中国人元留学生のオートエスノグラフィから覗くその未来」(『東洋文化』104号、227-248頁、2024年3月)、②論文「中国における国際開発研究の受容と展開:脱「欧米中心主義」の可能性の一考察」(『アジア経済』64巻3号、31-60頁、2023年9月)、③単著『中国開発学序説: 非欧米社会における学知の形成と展開』(法政大学出版局、2024年1月、ISBN: 4588645498)、④共著書『The Semantics of Development in Asia: Exploring 'Untranslatable' Ideas through Japan』(Springer、2024年7月、ISBN: 9819712149)※担当部分:第13章、終章(Soyeun Kimと共著) 以上のことから、今年度の調査・研究では、当初の計画に従って、中国の事例を補完し、「欧米・非欧米」の二項対立を前提としない新しい国際開発研究の可能性をある程度考察することができたと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
①現地調査を通じて、中国における国際開発研究が政治学や経済学などの隣接分野とある種の距離感を持ちつつも、相互に関係性を有することが明らかになった。しかし、国際開発研究コミュニティと他の研究コミュニティとの具体的な相互作用についてはなお解明が十分でない点が残された。 ② 中国側の国際開発をめぐる政策方針や新たな取り組みは瞬時に変化しており、中央政府による「グローバル開発倡議」の具体的な影響や、商務部が立ち上げた対話の新プラットフォームの実態と機能を今年度の調査では解明するに至らなかった。
今後の研究では、中国における国際開発研究の実態をより立体的に捉えることを試みる。具体的には、国際開発がどのような場で語られるのかという観点から、その場の違いによる知識生産のあり方の相違に着目する。なかでも、①大学の異なる専門分野における開発学の教育・研究、②シンクタンクによる対外援助・国際開発に関する分析と政策提言、③マスメディアにおける対外援助・国際開発の表象、④中央政府の対外援助・国際開発をめぐる発言や政策、という4つの場における国際開発の言説の(非)連続性を分析する。その際、知識社会学の理論や中国における学術生産に関する先行研究を広範に渉猟し、非欧米社会における国際開発研究の形成メカニズムの理念型を提示することを目指す。また、中国の特徴を際立たせるため、日本における国際開発研究との比較も視野に入れる。
|