Project/Area Number |
23K17143
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 80030:Gender studies-related
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
坂本 知壽子 立命館大学, 経営学部, 授業担当講師 (50943627)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,550,000 (Direct Cost: ¥3,500,000、Indirect Cost: ¥1,050,000)
Fiscal Year 2025: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2023: ¥2,600,000 (Direct Cost: ¥2,000,000、Indirect Cost: ¥600,000)
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Keywords | 飛騨の女工 / 製糸工場 / 他者の苦痛 / 送り出し地域と受け入れ地域 / ナラティブ / 記録と記憶 / 歴史認識と「新しい」解釈 / 解釈と再現の政治学 / 否認の政治学 / ナラティヴ |
Outline of Research at the Start |
本研究は明治時代に長野県の工場を目指し野麦峠を超えた飛騨の女工を対象とし飛騨という空間に暮らした人々の生活について残されているナラティヴ記録を再調査・検討し女工として暮らした娘たちの経験の実相と表象のされ方を分析する。日本の近代化を支えた製糸工場の元女工たちにインタビューをした『あゝ野麦峠』(山本茂美1968)は、女工研究の代表的な作品の一つである。一方『あゝ野麦峠』に書かれた女工たちの苦痛は事実ではないと「否認」する主張がある。本研究では、1)他者の苦痛に対する再現の(不)可能性、2)他者の苦痛に対する否認の政治学、3)歴史と地政学の交差点におけるナラティヴのとらえ直しに関する議論を試みる。
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Outline of Annual Research Achievements |
初年度となる2023年度の計画は、基盤づくりであったため、多くの研究実績を残すことは難しかった。 フィールドワークを重ねながら、情報や史料収集、現地の人々との関係作りに努めた。 本年度は、本研究の目標の一つである史料のデジタル化を進めるために多くの時間を要した。作業工程において合意形成に至らず、もう少し時間が必要である。 その一方で、フィールドワークを通して空間把握や、インタビューを通して多様なナラティブを収集することができた。現地で多くの協力を得ながら、現地調査は非常に順調に進んでいる。しかし高齢の方が多いため、他界される方も多く、インタビュー対象者を見つけることが容易ではない。紹介を受けた後には短期間で面会とインタビューを実施することが重要となっている。 実績としては、2023年8月に刊行された書籍(全泓奎編 『映画で読み取る東アジアの分断と格差』明石書店、2023年)において、分担執筆した原稿(「日本の娘たちの経験の同時代性と今日性」112-131頁)が収録された。限られた分量の中で、各執筆者たちが映画を三本ずつ紹介するという趣旨のため、本研究の内容を中心に深く書き込むことはできなかったが、製糸工場の女工に対する眼差しをめぐる議論について簡単に触れた。 また2023年12月に行われた研究会(朝鮮史研究会関西部会2023年12月例会)で研究発表を行い、その原稿(「植民地朝鮮女性がいた風景:日本軍『慰安婦』になった女性と、ならなかった女性」 )は2024年3月に発行された研究会の会報(『朝鮮史研究会会報』第234号 16-19頁、2024年)に収録された。こちらは本研究の後続研究として想定している内容で、植民地朝鮮の女性たちの「工場で働く」という言葉や行為が持つ意味について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度の目標は1)史料(飛騨)のデジタル化と読み込み、2)ナラティヴの整理、3)フィールドワークを通じた空間把握とインタビューや映像記録であった。 1)デジタル化作業は順調に進みつつあったが、作業を委託した大学教員による研究倫理に違反する行為が5月に発生し、史料を管理する関係者(行政)との信頼関係が揺らぎ、作業に支障が生じた。さらに行政側でも大きなデジタル化プロジェクトが立ち上がり、本研究で行うデジタル化作業との調整が必要となり、作業工程における合意形成が容易ではなかった。本年の計画はデジタル化作業を済ませ、分析や補足調査を行うことだったが、作業が中断し該当史料に関する研究活動も遅延している。行政側からも作業の意義には理解を得ており、2024年5月、新たな方向性を見出したので、合意が得られれば作業を再開できる見通しである。 一方、文献調査はおおむね順調に進んでいる。新しい史料の紹介や発見もあった。予定していた行政史料以外にもデジタル化の必要性を感じる古い史料もあり、管理者と相談しながら史料保存・保管と次世代への継承・教育に努める。 2)フィールドワークにおけるインタビューと、文献の中に埋もれている証言の掘り起こしを行った。当事者はもちろんのこと、当事者より伝え聞いた者も多くは他界しているか、病床に伏している中、紹介を通じてナラティブの収集を行うことができた。また明治時代に野麦峠を越えた女工の晩年の姿を記録した映像や写真、彼女たちが書いた当時の手紙など個人が所有する貴重な史料や資料の提供を受けた。また現地の資料室で地域の文献から多くの証言を入手した。 3)空間把握としては、現地で住宅地図や電話帳の提供および地域の案内も頻繁に受けており、現地調査の基盤を作ることができた。豪雪地帯であるため晩秋から4月下旬までは現地調査が困難で、現地の地形を把握し効率的に動くことが重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度に停滞していたデジタル化を進めたい。具体的には、新しく発見した史料のデジタル化を進めることと、停滞している行政史料についてはデジタル化の作業工程において合意形成に時間を要しているため、別の形での保存方法の提案に切り替えて、引き続き史料の保存と次世代への継承に真摯に向き合いたい。 文献調査は、送り出し地域である飛騨にある史料を引き続き調査するとともに、受け入れ地域であった岡谷および長野側の史料の読み込みを始めたい。 フィールドワークは、現地の女性ネットワークに入れるよう、訪問回数を増やしたい。 以上を夏までに行い、秋からは学会発表や論文執筆を行えるようにしたい。 2023年度は、作業委託者による倫理違反という想定外の問題が生じ、計画が中断し、再開のために時間を要したため、データの整理や分析なども十分に行えなかった。2024年度は早急に再開させ、遅れを取り戻したい。史料のフレームワークを整えながら、2023年度に入手した一次資料や二次資料の整理とマッピング作業を済ませたい。 2023年度はデジタル作業の停滞の影響で、学会発表や原稿執筆が計画通りに進まなかったが、2年目となる2024年度は積極的にアウトプットに努めたい。
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