Project/Area Number |
23K17361
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Research (Pioneering)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Medium-sized Section 32:Physical chemistry, functional solid state chemistry, and related fields
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
斉藤 真司 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 教授 (70262847)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2027-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥26,000,000 (Direct Cost: ¥20,000,000、Indirect Cost: ¥6,000,000)
Fiscal Year 2026: ¥5,330,000 (Direct Cost: ¥4,100,000、Indirect Cost: ¥1,230,000)
Fiscal Year 2025: ¥7,670,000 (Direct Cost: ¥5,900,000、Indirect Cost: ¥1,770,000)
Fiscal Year 2024: ¥8,840,000 (Direct Cost: ¥6,800,000、Indirect Cost: ¥2,040,000)
Fiscal Year 2023: ¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
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Keywords | 動的乱れ / 過冷却液体 / 構造変化ダイナミクス / 反応ダイナミクス / ジャンプダイナミクス / 水 / 液体 / 生体分子 |
Outline of Research at the Start |
本研究では、凝縮系における構造変化・反応と遅い運動の競合(動的乱れ)に関わる多様な分子運動や反応経路の知見の獲得に向けた解析手法の開拓・開発を進める。過冷却液体や生体分子の会合・解離およびイオンチャネル系の長時間の分子動力学計算を行い、確率過程論に基づく構造変化・反応イベントの時系列の特徴づけ、物理的解析および機械学習を活用した構造・反応状態の分類と複数の重要な反応座標の決定などを進め、凝縮系の構造変化・反応の背後に潜む分子運動・反応経路の解明、従来の反応速度論を越えたダイナミクスの理解に向けた解析手法の開拓・開発を進める。
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Outline of Annual Research Achievements |
遷移状態理論などの速度論では、反応は系で最も遅い時間スケールで進行すると仮定する。つまり、反応以外の系内の運動の影響は反応の時間スケールで平均化され、その結果、反応はマルコフ的に振る舞い、例えば、反応物の時間変化(C(t))は指数関数で表される。しかし、過冷却液体や生体分子などの様々な時間スケールの運動をもつ系では、反応と系内の遅い運動の競合により反応速度が時間とともに変動し、C(t)は非指数関数的振る舞いに変化する。この現象は「動的乱れ」と呼ばれ、その解明には集団平均による解析ではなく、一分子レベルでの反応イベントの解析が不可欠である。また、理論に基づく動的乱れの機構の解明には、分子動力学(MD)計算に基づき反応速度の揺動を生み出す系統的解析が必要となる。しかし、そのような解析手法の開発は遅れており、分子論的機構解明は進んでいない。 本研究の開始年度である本年度において、我々は液体状態から過冷却状態に至る水の構造変化ダイナミクスに関する解析を行った。過冷却液体は温度低下に伴い、顕著な構造変化を伴わないにもかかわらず、ダイナミクスの著しい遅延化を示すことが知られている。しかし、このような運動の遅延化の機構は未解明であり、物性物理学における長年の課題となっている。我々は、MDシミュレーションにより、温度低下に伴う動的乱れの出現が、水中のジャンプダイナミクスの遅延化・ポアソン統計からの逸脱を引き起こすことを明らかにした。さらに、動的乱れがどのような分子変位に由来するのかを明らかにし、温度がさらに低下するにつれて、水分子の運動の協同性が増加し、ジャンプ運動の競合する遅い変数が増加することも示した。また、水の解析に加え、フラジリティ(緩和時間の温度依存性)の異なるモデル系についても解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来の理論では、反応は素早く起こる環境揺らぎのもと、ポアソン過程に従いランダムに起こり、反応物濃度の時間変化は指数関数で表されると仮定されている。しかし、過冷却液体や生体分子などの様々な時間スケールの運動を持つ系においては、反応速度が時間とともに変動し、非指数関数的に振る舞う「動的乱れ」がみられる。動的乱れの解明には、集団平均ではなく、一分子レベルでの反応イベントの解析が必須であり、分子動力学(MD)計算による系統的な解析が求められる。しかし、理論・計算科学的研究における解析手法の開発は遅れている。そこで、本研究では動的乱れの解析手法の開拓に挑んでいる。 今年度、我々は液体状態から過冷却状態に至る水の構造変化ダイナミクスを中心に解析を進め、顕著な構造変化を伴わないダイナミクスの遅延化、およびその原因となる動的乱れを明らかにした。MDシミュレーションによって、温度低下に伴い、ジャンプダイナミクスがポアソン統計から逸脱すること、およびその逸脱がどのような分子変位に由来するかを解明した。これらの成果は、分子レベルでの動力学解析手法の開発に貢献するとともに、水の構造ダイナミクスにおける動的乱れの理解を深めるものである。この成果をもとに、我々はフラジリティの異なる系の構造ダイナミクスの動的乱れに関する解析も進めており、これらの研究を通して、さまざまな物質の運動の遅延化の普遍性と特異性の理解が可能となると期待される。さらに、今回の我々の取り組みは、動的乱れの理解という未解決の課題への新たなアプローチを提供し、物理化学・化学物理学など凝縮系ダイナミクスに関わる広範な科学分野に影響を及ぼす可能性がある。このように、本研究は計画通りに、かつ概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度、我々は液体状態から過冷却状態に至る様々な温度の水のダイナミクスに関するシミュレーションに基づく解析を行い、温度低下につれて現れる動的乱れとその分子論的起源の解明に成功した。過冷却液体の特徴として、顕著な構造変化を伴わないダイナミクスの著しい遅延化が知られているが、その原因の究明は物性物理学の分野における長年の問題であった。本研究は、この問題に対する一つの解答を提供するものと考えている。 しかし、物質によってエネルギー地形は大きく異なり、熱力学的性質も温度に依存して変化する。そこで、水とは異なるダイナミクスの温度依存性(フラジリティ)を持つ液体系―例えば、strong液体系としてネットワーク形成液体、fragile液体系としてレナード・ジョンズ二成分液体系―における温度低下に伴う運動の遅延化に関する分子機構の解析について計画している。このように、過冷却ダイナミクスにおける動的乱れの分子論的理解を深めるとともに、barrier crossingダイナミクス―例えば、生体分子への基質分子の会合・解離反応系や核形成過程―における動的乱れの影響に関する理論研究も展開していきたい。
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