Project/Area Number |
23K17681
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Research (Exploratory)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Medium-sized Section 14:Plasma science and related fields
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Research Institution | National Institutes for Quantum Science and Technology |
Principal Investigator |
河裾 厚男 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先進ビーム利用施設部, 上席研究員 (20354946)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
崔 旭鎮 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (70916147)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥6,370,000 (Direct Cost: ¥4,900,000、Indirect Cost: ¥1,470,000)
Fiscal Year 2025: ¥2,210,000 (Direct Cost: ¥1,700,000、Indirect Cost: ¥510,000)
Fiscal Year 2024: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2023: ¥3,250,000 (Direct Cost: ¥2,500,000、Indirect Cost: ¥750,000)
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Keywords | ホモキラリティ / スピン偏極陽電子 / 弱い相互作用 / 鏡像異性体 / 放射線分解 |
Outline of Research at the Start |
分子の鏡像異性体間のエネルギー差は、電磁相互作用に基づく限りゼロになると考えられる。ところが、RNA・DNA中の糖は例外なくD異性体、タンパク質中のアミノ酸はL異性体のみである(ホモキラリティ)。これは、宇宙が示す非対称性―ビッグバンで等量できた物質と反物質のうち、反物質だけが消えてしまった(物質優勢宇宙)―に類似している。このため、物質優勢宇宙がホモキラリティの原因ではないかとの仮説が提唱されている。スピン偏極「陽電子」ビームは、この仮説検証の有望な手段であると考えられている。そこで本研究では、研究代表者等が独自開発したスピン偏極陽電子ビームを用いることで、このホモキラリティの謎を探る。
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Outline of Annual Research Achievements |
本課題の目的は、スピン偏極陽電子と基板上に固定された分子の衝突に伴うポジトロニウム(Ps)生成を観測することで、生体分子のホモキラリティの謎に迫ることである。この場合、分子に衝突する陽電子の運動エネルギーを分子のイオン化エネルギーからPsの結合エネルギー(6.8 eV)を差し引いたものと同程度(分子により異なるが概ね10 eV程度)にすることが重要である。また、分子膜の不均一性によるPs生成確率のバラつきを抑制するためには、陽電子を膜面上でスキャンして平均化することが望ましい。2023年度はこれらの測定要件を満たすシステムを構築した。試料については、ポリエチレンナフタレート/チタン(Ti)5nm上に蒸着した金(Au)50nm層にパルミトイルリシンをLangmuir-Blodgett(LB)法で配向させた膜を用いた(累積圧は40 mN/m)。着目するリシンは、奇数層の場合は基板側に配向し、偶数層の場合は真空側に配向する。Psは最表面と真空の界面で生ずるので、偶数層の膜が本命である。キラリティのない場合として、同一バッチで作製した二つの金蒸着膜でのPs生成確率を比較したところ、非対称度は±1.4×10^-3となった。次に、同一バッチで作製した二つの金蒸着膜のそれぞれにL体とD体のパルミトイルリシンを製膜して比較した。その結果、1層膜に対するL/D非対称度は+2.2×10^-4となり、金蒸着膜と同程度かそれ以下であった。一方、4層膜に対するL/D非対称度は最大で-2×10^-2となり、合計3回の測定で符号は再現した。そこで、L体とD体が混合したラセミ体とアキラルのステアリン酸を検証したところ、複数回の測定で符号がランダムであった。ただし、最大の非対称度が1×10^-2程度であることから、上の4層膜に対するL/D非対称度が試料間の違いによる可能性を完全に排除できなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
鏡像異性体によるPs生成確率の非対称度を検証するためには、まず陽電子のエネルギーをPs生成の閾値程度に低くしなければならない。また非対称度自体が非常に小さいことが予想されるため、測定の統計精度と安定性を極力高めることが重要である。2023年度に構築したシステムにより、陽電子エネルギーを数 eVで制御して分子膜に照射できるようなったことに加えて、陽電子のスキャニングにより統計誤差を8×10^-4程度まで抑えることができ、さらに分子膜面内の不均一性を補償することができた。統計精度のさらなる向上は、単純に測定時間の倍増で実現できるとの見通しを得た。LB法を用いることで、高配向の分子膜試料が作製できるようになった。キラリティのない金蒸着着膜、ラセミ体のパルミトイルリシンそしてステアリン酸を用いた測定では、Ps生成確率の非対称度は極めて小さいか、符号がランダムになるという結果が得られた一方で、L体とD体のパルミトイルリシン間では、それらを上回るPs生成確率の非対称度が得られた。もし上の結果が正ければ、スピン偏極陽電子と鏡像異性体間でのPs生成確率の非対称度を初めて実証したものとなり、生体分子のホモキラリティが、スピン偏極電子による放射線分解の鏡像異性体間の違いによる可能性が高まる。ただし、これまでのところ、Ps生成確率が分子膜の表面状態に依存している可能性も排除できないため、さらになる実験が求められる。しかしながら、その課題も明らかになった。一つには、同一の試料に対して、陽電子のスピン偏極方向を反転する方法の確立である。もう一つは、分子膜自体を測定用の真空チャンバー内から出すことなく、L体/D体/ラセミ体を逐次製膜し測定する方法の確立である。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように、鏡像異性体によるPs生成確率の非対称度がある可能性が垣間見えたものの、確定的な結果を得るには分子膜の表面状態の制御に課題があることが判明した。そこで2024年度は、次に述べるアプローチを試みる。一つには、極力均一な膜表面の実現である。これまでは、二つの金蒸着膜の上にLB法でL体とD体の分子膜を作った後に、それらを大気中で搬送し測定チャンバーに装荷して測定していた。二つの金蒸着膜は同一バッチではあっても異なる可能性がある。また大気中の分子が搬送中に表面に吸着することが考えられる。そこで、測定チャンバー内において、真空を破ることなく同一の基板上にL体とD体を逐次蒸着し測定を繰り返す方法が考えられる。2023年度はリシンしか扱わなかったが、より大きなPs生成確率の非対称度が期待される重元素を含むキラル分子(例えばチロシンなど)を用いることも考えられる。そして今一つは、陽電子のスピン偏極方向を反転することで、L体とD体のどちらか一方の分子膜の測定で非対称度を決定する方法の確立である。これには、陽電子スピンを回転させるスピンローテータを開発する必要がある。具体的には、陽電子ビームに対して磁場と電場を同時印可するセクションをビームラインに設ける。この方法は原理的には単純であるが、正方向と負方向のスピン回転で陽電子ビーム軌道が対称に保たれるかが課題である。ビームシミュレーションを行い最適な電場・磁場の形状寸法を割り出した後に、装置の製作を試みたいと考えている。
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