Project/Area Number |
23K17698
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Research (Exploratory)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Medium-sized Section 17:Earth and planetary science and related fields
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
遠藤 一佳 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (80251411)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒川 和晴 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 教授 (40453550)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥6,500,000 (Direct Cost: ¥5,000,000、Indirect Cost: ¥1,500,000)
Fiscal Year 2024: ¥3,250,000 (Direct Cost: ¥2,500,000、Indirect Cost: ¥750,000)
Fiscal Year 2023: ¥3,250,000 (Direct Cost: ¥2,500,000、Indirect Cost: ¥750,000)
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Keywords | 古代プロテオミクス / 化石タンパク質 / 分子化石 / 系統解析 / 貝殻基質タンパク質 / 軟体動物 / 小笠原諸島 / 分子古生物学 / 分子進化 / 質量分析 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、質量分析計によるプロテオーム解析を化石中に残されたペプチドに応用し、1)絶滅種の分子系統解析と、2)分子進化プロセスの直接的復元を行うことで、古代プロテオミクスという進化生物学の新しいジャンルの可能性を探る。ペプチド結合は、DNAのリン酸ジエステル結合より強固であるため、タンパク質は、DNAより長期間化石に保存される。また、DNAは細胞外に出ないが、タンパク質は細胞外に分泌されるものがあるため、貝殻等を含め、より広汎な化石にタンパク質は残されている。本研究により、これまで注目されていなかった化石タンパク質の中に、生物進化を探る上での大きな「宝の山」が眠っていることが示されるだろう。
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Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、小笠原諸島の絶滅種であるヒロベソカタマイマイ(Mandarina luhuana)に関連して、古代プロテオーム解析による系統推定と古代タンパク質の続成過程に関する研究を実施した。 系統推定の研究では、ヒロベソカタマイマイ(1400年前)とコガネカタマイマイ(M. aureola:現生種)の殻から貝殻基質タンパク質(SMP)を抽出し、EDTA不溶性画分と可溶性画分それぞれについて、タンデム質量分析によるアミノ酸配列解析を行った。現生巻貝の分類群Helicinaの遺伝子モデルに対しデータベース検索を行った結果、ヒロベソカタマイマイで508(アミノ酸残基数18,869)、コガネカタマイマイで476(同17,814)、両種共通で394(同12,601)のSMPが同定された。系統解析には、ヒダリマキマイマイ(Euhadra quaesita)と外群のコハクオナジマイマイ(Bradybaena pellucida)の既知のSMP配列を用いた。これらの種間でオーソログと考えられる合計15の配列群を同定し、それらの連結配列(1673アミノ酸)を用いて系統解析を行い、ヒロベソカタマイマイがヒダリマキマイマイよりもコガネカタマイマイに近縁であることを解明した。 続成過程の研究では、小笠原諸島南島における現地調査を実施し、ヒロベソカタマイマイの貝殻が多く堆積している砂丘堆積物の異なる層準から化石を採集した。そのうち14個体について加速器質量分析で放射性炭素年代を測定し、497-1572年BPという値を得た。標本が採取された層位と標本の年代が有意な相関を示すことから、化石を産出した砂丘堆積物が、津波や台風のような瞬発的な出来事ではなく、通常の堆積プロセスで生成されたことが示唆された。今後これら年代値の得られた化石個体の古代タンパク質のペプチド長や脱アミド化率を比較し、続成過程を推定する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ほぼ当初予定していた計画通り、研究を遂行することができ、無脊椎動物の化石から世界で初めてタンパク質のアミノ酸配列を同定し、さらにそれを用いて絶滅種の分子系統推定を行うことができた。研究成果は、英文の修士論文として2024年3月に東京大学に受理されており、現在国際誌への投稿準備中である。今後、化石タンパク質の続成過程に関する研究を継続し、さらに小笠原諸島で絶滅した他のマイマイ類や、さらには他の無脊椎動物の化石タンパク質の研究を展開していく礎が築かれたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
直近の課題として、497-1572年BPの範囲のそれぞれ異なる年代値が得られた14個体のカタマイマイの貝殻化石に残された古代タンパク質のペプチド長や脱アミド化率を比較し、この年代幅におけるタンパク質の続成過程の解明を目指す。また、小笠原諸島で絶滅した他のマイマイ類や、さらには他の無脊椎動物の化石タンパク質の研究を進める。具体的には房総半島の下総層群から得られている約30万年前の腕足動物シャミセンガイ(Lingula sp.)の殻体化石の分析を進める。シャミセンガイ類は現生種でも多くの隠蔽種が存在することが近年の研究で明らかになっており、形態のみで種の同定をすることが非常に困難である。殻体に含まれるタンパク質のアミノ酸配列を比較することで、現生種のみならず化石に残されたシャミセンガイについても種の同定や系統推定、生物地理学・古生物地理学的研究を展開することが期待される。さらに、化石タンパク質のアミノ酸配列を同定する上で大きな障壁となっているゲノム・トランスクリプトームデータの欠失に起因する遺伝子モデルの欠失の問題を解決したい。具体的には、祖先復元されたアミノ酸配列、塩基配列から分子進化をin silicoで起こさせ、生成確率の高い配列を順次生成させ、それらを遺伝子モデルとして化石ペプチドを同定する方法の開発を行う方針である。
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