Project/Area Number |
23K18609
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
0101:Philosophy, art, and related fields
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
小口 康仁 学習院大学, 文学部, 助教 (30983457)
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Project Period (FY) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,080,000 (Direct Cost: ¥1,600,000、Indirect Cost: ¥480,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
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Keywords | 合戦絵 / 戦国 / 軍記 / 狩野派 / 近世 / 狩野晴川院養信 / 公用日記 |
Outline of Research at the Start |
本研究の目的は、近世絵画における戦国合戦図の位置づけを確立することを目指すものである。戦国合戦図は、文献史学や軍記文学の研究が重ねられてきた一方で、絵画史研究からはこれまで等閑視されてきた。 本研究は、江戸時代を通して計16点の作例をみる「長篠・長久手合戦図屏風」に着目し、①各作品の図様形成と、②絵画様式的位置づけを試みる。①は、分析に際し地形表現と人物表現に分け、前者では戦国合戦を描く絵図を、後者では群衆表現を描く作品を用いて図様形成の実態に迫る。②は、各写本の描写や筆致の比較から分類・整理し、系統を明確にする。このような基礎研究の積み重ねを経て、戦国合戦図の総体的研究に臨む足がかりとする。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近世絵画における戦国合戦図の位置づけを確立することを目的とする。これまで戦国合戦図は、文献史学から一次史料を補完する役割を求められることや、軍記文学から「軍記物語における名場面の絵画化」という観点で研究が積み重ねられてきた。その一方で絵画史研究からは、正系の絵師が関与する作例が少なく、亜流の絵師や絵図に近い特異な様式を有する作品があることから、これまで等閑視されてきたといえる。 本研究では、絵画様式研究の立場から戦国合戦図をとらえることに主眼を置きつつ、合戦図を発注した注文主の動機や社会的背景に迫る思想史研究にも跨った学際的研究を構想した。そのなかで主に初年度は、実地調査に臨む前段階として先行研究をはじめとする文献諸資料の収集と把握、次年度は作品調査の実施という計画を立てた。 初年度にあたる令和5年度は、諸資料に恵まれ、他の戦国合戦図と比べ制作経緯が明らかな東京国立博物館所蔵「長篠・長久手合戦図屏風下絵」を分析対象に据え、その制作過程を記す狩野晴川院養信筆『公用日記』の分析を行なった。奥絵師木挽町狩野家が幕府から命ぜられた御用の中で、「長篠・長久手図」の御用がどのように位置づけられていたのかに迫ったのである。狩野家のもとには様々な経路で多種多様な御用が下命されたが、なかでも本作の注文は「奥向」の御用であり、晴川院の祖父養川院惟信より少なくとも三世代にわたり制作が引き継がれた大掛かりな御用であった。また、「長篠・長久手図」の下命とほぼ同時期に「大坂冬の陣図」の制作も命ぜられていることから、「大坂冬の陣図」も合わせて考えていく必要があると認められた。 一方で絵画史の見地からは、制作に使用したとみられる模本類(東京国立博物館所蔵)の検証に着手し、「長篠・長久手合戦図屏風下絵」の図様の淵源を探る作業を通して、合戦図制作に参照された作例の傾向を導き出す作業を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和5年度は、作品の実見調査を実施する前に文献史資料の収集を行ない、基礎情報を整理した。当初の計画では、文献資料の収集を主にしつつも、作品調査も多少進める計画であった。しかし、近年文献史学・国文学・美術史学の三分野から行なわれてきた科研「戦国軍記・合戦図の史料学的研究」の報告書(2024年2月)の発行もあり、戦国合戦図に関わる最新の研究成果報告によってその動向を見極めること、そのうえで改めて現時点で問題となっている課題の所在を明確にする作業や、絵画史に限らず合戦史や軍記文学に関する先行研究を網羅的に収集し整理しようとする作業などが難航した。 また、戦国合戦図の制作背景には、「軍記物語における名場面の絵画化」や、戦場で武功をあげる家祖への「顕彰」という2つの要素がこれまで注目されてきたが、一方で「長久手合戦図」に着目すると、画面の中で羽柴軍に属した池田勝入・元助父子の表現も際立っており、発注者の「家」のみならず、画面に登場する定型化された武将とその子孫にも目を向ける必要があることを認識した。特に池田家については、徳川政権下においても存続していることから、池田家の立場から長久手合戦をとらえることによって、敗者の視点という新たな切り口を見出せると考えている。 このように文献調査においても、当初は注文主やその子孫を含めた「家の歴史」のみを念頭においていたが、調査を重ねた結果、勝者と敗者を問わず合戦図に登場する武将全体の「家」意識にも波及するテーマであることが認められ、調査対象の広範化に繋がった。これらは、作品の実見調査に臨むにあたり「観るべきポイント」を明確化するうえでも必須の作業であったが、以上の理由により、当初の計画より「やや遅れている」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、令和5年度に行なった文献資料収集を継続し、これに加えてその解析結果に基づき、順次所蔵先との打ち合わせを経て実見調査を実施する。 調査対象としては、1.絵図の調査、2.合戦場跡地の調査、3.美術作品(合戦図屏風)調査を考えている。そして、数ある戦国合戦図の中でも『甲陽軍鑑』に関わる「長篠・長久手合戦図」と「川中島合戦図」から順に進める。 まず絵図の調査では、東北大学附属図書館内狩野文庫が所蔵する甲州流軍学中興の祖・小幡景憲正系の弟子である杉山家に伝来した絵地図や文献資料を調査する。その中でも甲州流軍学に基づく合戦絵図は、軍記のテキストだけでは説明しにくい行軍や戦場の地形などの情報を得るのに恰好の資料であり、絵師が作画にあたって貴重な情報源としていたとみられる。 次に合戦場跡地の調査では、実際の戦場跡地に足を運び、絵図や屏風にみる地形や位置関係と照らし合わせる。この作業を通して、合戦図が画面に収めた構図、絵師の切り取り方とその意図に迫ることを試みる。 最後に美術作品(合戦図屏風)の調査では、「長篠・長久手合戦図屏風」を中心に、その写本16点を出来る限り調査し、それらの比較から同画題における系統分類を試み、写本関係の明確化を図る。また、戦国合戦図の現存作例が17世紀後半に多いことから、その時期に制作された「川中島合戦図屏風」などにも対象を広げ調査し、戦国合戦図隆盛期における画題を越えた様式比較を行なう。これらの調査にあたっては、作品資料の所蔵先の御意向を確認しつつ、入念に準備し調査に臨みたい。 以上の作業を通して、近世絵画における戦国合戦図の位置づけを確立する萌芽的研究を目指す。
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