Project/Area Number |
23K18840
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
0108:Sociology and related fields
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
佐藤 信吾 大妻女子大学, 社会情報学部, 講師 (50983285)
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Project Period (FY) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,860,000 (Direct Cost: ¥2,200,000、Indirect Cost: ¥660,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
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Keywords | 集合的記憶 / アジア・太平洋戦争 / ジャーナリズム / メディア実践 / アーカイブ行為 / デジタル・アーカイブ / メディア社会 / 生活世界 |
Outline of Research at the Start |
本研究では、人々の経験や実践の多くがマス・メディアやソーシャル・メディアを経由する現代社会において、メディア経験・実践による集合的記憶(過去の出来事に関する社会的に共有されたイメージ)の構築過程を明らかにする。 具体的には、人々のメディア経験・実践の多様性と多層性を分析するメディア論的な視点と集合的記憶論を理論的に接合したうえで、アジア・太平洋戦争の記憶の構築過程を実証的に分析する。戦後75年以上が経過した現在でも、アジア・太平洋戦争の記憶はさまざまなメディアを通じて構築されている。この構築過程を実証的に分析することが、本研究の実証的な課題である。
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Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は①アーカイブ行為論に基づくアジア・太平洋戦争の記憶の構築に関する研究と②メディア経験・実践論と記憶の社会学の接合に関する研究の二つの軸で研究を進めてきた。 ① アーカイブ行為論からアジア・太平洋戦争の記憶の構築に関する研究:アーカイブ行為論の理論的な視座をNHK戦争証言アーカイブの分析に応用し、アジア・太平洋戦争の記憶の構築過程におけるアーカイブ行為の意義と重要性を検討した。採択前の6月に国際学会(IAMHIST2023:モントリオール)で発表した内容と、そこで得たフィードバックをもとに分析を進め、とりわけアーカイブを使うという観点から検索や閲覧といった実践の可能性を論じた。検索や閲覧という実践は、アーカイブに規定されながらもアーカイブの中の「記憶の痕跡」に新たなつながりを与えていく。本年度はNHKの元記者やディレクターへの追加調査なども行った。またマニラでのフィールドワークを通じて、実際にアーカイブ化されている証言と現地の反応のギャップについても理解できた。この成果については、来年度の学会発表及び論文執筆を予定している。 ② メディア経験・実践論と記憶の社会学の接合に関する研究:これまで取り組んできたジャーナリズム実践論と記憶の社会学の架橋に加えて、2023年度はロジャー・シルバーストーンやニック・クドリーのメディア経験・実践論を集合的記憶論と接合する理論的な視座の提示を試みた。従来のメディア記憶論では、人々のメディア実践による記憶の構築という観点が後景化してきた。そこで、ピエール・ノラの「記憶の場」やポール・コナトンの記憶の社会学を記憶実践論として再評価し、一連の流れをメディア論への応用によって、メディア記憶論を発展させる方途を示した。この理論研究については、今後も研究を発展させていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は、アジア・太平洋戦争の記憶をメディア経験・実践論の観点から考察する研究計画を立てていたが、以下の二点について当初の計画以上の進展があった。 ① メディア実践の中でもアーカイブ行為に焦点を絞ることで、「戦後80年」が迫る現代社会を反映したアジア・太平洋戦争の記憶論の展開の可能性がひらけた。従来のアーカイブ行為論は、アーカイブを組み立てるアーキビストに着目したものが多かったが、本研究ではアーカイブを用いる人々が記憶を立ち上げていく過程に着目することで、アーカイブ論の射程を広げるとともに、デジタル・アーカイブが記憶の源泉となる現代社会を的確に捉えることが可能になった。またマニラでのフィールドワークを通じて、NHK戦争証言アーカイブスに保存されている語りにおいて不可視化されているマニラ市街戦の記憶についても検討を深められた。この研究成果は、2024年度4月に開催される国際学会(ASEN2024:エディンバラ)で発表することが決まっている。 ② 記憶の社会学を応用することでメディア経験・実践論に基づくメディア記憶論を理論的に発展させる研究は、計画通り概ね順調に遂行されている。記憶の社会学では、これまでメディア実践論をふまえた議論が展開されてこなかった。本年度は専門書の読解と研究会でのディスカッションを通じて、両者を接合する方法を検討してきた。具体的にはニック・クドリーの研究全体の検討を概ね終了し、さらにピエール・ノラとポール・コナトンの研究および両研究を論じた先行研究の検討を八割程度完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は2023年度の積み上げを学会発表を通じて国際的に発信すること、そして論文として公刊することを目標にする。 まずアーカイブ行為論からアジア・太平洋戦争の記憶の構築に関する研究については、4月のASEN2024(受理済)および11月の東アジア日本研究者協議会第8回国際学術大会(要旨提出済み)にて発表する。そこで得たフィードバックをもとに2024年度中に論文としてまとめ、学会誌(デジタル・アーカイブ学会もしくは日本社会学会)への投稿を目指す。この研究成果は、デジタル・アーカイブ論をアーカイブ行為という観点から再検討することとともに、アジア・太平洋戦争の記憶の構築をアーカイブと結びつけて論じることを可能にする。これは日本におけるアジア・太平洋戦争の記憶研究およびアーカイブ論の双方に学術的なインパクトがあると考える。 次にメディア経験・実践論と記憶の社会学の接合に関する研究については、理論的な検討を実証的なフィールドと結びつけて論文化することを目指す。具体的にはジャーナリストやアーキビスト、市民運動家へのインタビューを通じて、人々がどのようにメディア実践を行っているのかを実証的に明らかにする。そして2023年度に概ね完了した文献研究の成果と接合することで、メディア実践によるメディア記憶の構築過程をまとめた論文を"New Media and Society"(IAMCR)に投稿する予定である。メディア実践論はメディア論の中でも新しい議論であり、これを記憶の社会学と接合する視点は世界的に見ても少ない。この理論研究は日本だけでなく、世界的にも意義のあるアウトプットになると考えている。
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