Project/Area Number |
23K18870
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
:Education and related fields
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
名倉 昌巳 奈良教育大学, 理科教育講座, 特任准教授 (00980814)
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Project Period (FY) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,860,000 (Direct Cost: ¥2,200,000、Indirect Cost: ¥660,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
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Keywords | 科学的生物概念 / 生物学上の誤概念 / 世代を超えた方向性のない変化 / 目的や価値判断のない変化 / 自発的概念変化 / 教授にもとづく概念変化 / ラーニング・プログレッションズ / 素朴理論 / 誤概念 / パフォーマンス評価 / カリキュラム開発 / 生物の共通性と多様性 |
Outline of Research at the Start |
生物学上の概念は擬人化されて解釈され,ダーウィニズムは社会進化論として曲解され,社会変革の論拠として援用されることがある。遺伝子診断や操作が可能となった現在,劣った遺伝子は淘汰すべきとする優生思想や遺伝決定論の一端が垣間見える。他方,学校教育では生物学上の誤概念の払拭が困難であることが,先行研究によって指摘されてきた。科学的生物概念の形成を促すカリキュラムの開発が急務となる。 本研究は,生物学上の誤概念を科学的生物概念へ変換し得るカリキュラムを校種横断的に開発し,その中核に真正の評価として知られるパフォーマンス評価を設定し,生物概念形成に有効な評価中心のカリキュラムを提言する試みである。
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Outline of Annual Research Achievements |
令和5年9月~10月には,中学校第1学年「生命」領域(生物の観察と分類の仕方)と,「地球」領域(地層の重なりと過去の様子)の2単元にわたる授業実践結果から,生物学上の誤概念を科学的生物概念に修正するカリキュラムの在り方を検討した。研究の方法は,この2単元における質問紙調査結果を時系列で統計的に分析したところ,継続的な学習指導の必要性が浮かび上がった。さらに,「進化は方向性のない変化」であるという要素を,単元計画に組み込む必要性が示唆された。この成果は,令和5年12月の日本理科教育学会近畿支部大会において,「『ダーウィンの名言』に見られる生物学上の誤概念を科学的生物概念に変換する生命カリキュラム」と題して発表を行った。 この令和5年12月の発表に先立ち,11月~12月にかけては,パフォーマンス評価を中心とした上記同様の2単元を大学生にも実施し,同様の時系列での統計的分析と,パフォーマンス課題の回答結果による質的分析を行った。この大学生の分析結果と先の中学生の分析結果を比較したところ,大学生でも特定の生物学上の誤概念(獲得形質の遺伝)が一定程度残るばかりでなく,学習前から誤概念を保持していることも明らかになった。 令和6年1月~3月には,新たに認知発達心理学上の「自発的概念変化」と「教授に基づく概念変化」を結びつけることによって,一連の調査結果を「目的や価値判断のない変化」という観点から分析した。すなわち,「生気論的因果」「擬人的な説明」「目的論的説明」などの枠組みで分類したところ,中学生~大学生に至る経年的な生物教育が,科学的進化概念の形成においては,現状の中等教育カリキュラムが誤概念修正に寄与していないことが示唆された。この成果は令和6年3月に,日本理科教育学会第73回全国大会において,「誤概念修正を加味した早期『生命』領域カリキュラムの必要性」と題して,研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画である中学校第2学年「細胞」単元における授業計画の設計とその授業実践,さらにその授業評価と分析,加えて海外の初等から高等教育までの教科書調査に関する文献研究などは,ほとんど進展していない状況であった。 しかしながら,上記の「研究実績の概要」で述べたように,科学的生物概念の獲得に至るプロセスばかりではなく,誤概念の修正の視点からカリキュラムを検討し直し,令和5年12月における日本理科教育学会近畿支部大会の研究発表に結実している。 その後,令和6年1月~3月には,認知発達学上の概念変化研究の知見である「自発的概念変化」と,主に教育学上のアプローチである「教授にもとづく概念変化」という2つの観点から,先の「研究実績の概要」で述べた4つの調査結果(中学生・大学生・生命・地球)を統合し,新たな知見を紡ぎ出すことをめざす研究を開始した。この成果の一部は,R6年3月の日本理科教育学会第73回全国大会において研究発表を行った。 今後,このような認知心理学上の概念変化研究に基づく視点からのアプローチは,教育学上の概念変化研究における新たな潮流といわれて久しい「ラーニング・プログレッションズ」を包括した研究成果につながる可能性がある。なぜならば,本研究のめざすところは,小学生から大学生までの長期の発達過程における生物学上の概念変化に着目したものであるからである。換言すれば,このような研究方針の調整は,当初の研究目的である「校種横断的なカリキュラム」の開発に極めて接近する研究アプローチであり、新たな成果を生み出す可能性を秘めているからである。 以上のように,今後の研究推進にかかる諸般の事情を勘案した上で,「おおむね順調に進展している」という判断を下した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は本研究の主目的である「校種横断的なカリキュラム」モデルを構築するために,小学生から大学生までに,どのようなカリキュラム構成すれば生物学上の誤概念の修正に資するかを研究の中心に据えて調査研究を継続していくつもりである。すなわち,各学年ごとの生物教育カリキュラムにどのような要素を加味することが効果的であるかを検討しながら,初等から高等教育に至るまでのラーニング・プログレッションズの立場から,校種横断的に生命カリキュラムを構築していく作業が中心となる。 具体的には,初等教育においては,小学校低学年~高学年までの「自発的概念変化」による先行研究の知見,中等~高等教育までの「教授にもとづく概念変化」による先行研究の知見,並びに筆者のこれまの中学生(1・2・3年)と大学生(1・2・3年)による実践研究から得られた知見などを踏まえて,データマイニングしながら「生命」カリキュラムに必須な項目を抽出していく作業を行っていくことが考えられる。特に,認知発達心理学上の知見では,「光合成」や「ダーウィン進化」などの科学的概念装置の獲得には,「教授にもとづく概念変化」による知識の再体制化が必要であるといわれている。そのため,「教授にもとづく概念変化」を主にした「生命」カリキュラムに必須な項目を幾つかピックアップする作業も必要になる。その抽出項目に基づき,新たな授業計画を設計したり,質問紙調査を開発したりすることも同時並行で行い,生物学上の誤概念の修正の効果を実践検証することも目論んでいる。 さらに,以上の先行研究における知見,過去の実践結果のデータマイニングによる知見,新たな授業実践研究による知見を総合し,そこから得られた成果を学術論文にまとめることが最終成果となる。このように最終成果を広く世間に公開することによって,我が国の理科教育の発展に寄与するという目標実現にもつながっていくであろう。
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