Project/Area Number |
23K19164
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
0304:Architecture, building engineering, and related fields
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
小島 陽子 日本大学, 理工学部, 助教 (30548095)
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Project Period (FY) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,730,000 (Direct Cost: ¥2,100,000、Indirect Cost: ¥630,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
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Keywords | クメール / 基壇 / 版築 / 排水 / 互層 / 保存 / アンコール / 排水性 |
Outline of Research at the Start |
アンコール遺跡を持続的に保存するには、遺構の変位の主要因子である雨水の排水不全と基壇沈下のメカニズムの解明が求められている。これまで遺跡における排水路の排水能力と基壇沈下の関係を定量的に示した。課題として残された基壇内部に浸入した雨水が版築に及ぼす影響に焦点をあて、遺跡を持続的に保存するための方策を検討することが本研究全体の目的である。 本研究期間では1)アンコール・ワット西参道の版築調査から土の密度・締固め度等を確認し、2)その結果を参考にした室内試験から排水性および沈下特性の評価を行い、基壇沈下の要因について明らかにする。3)古代の版築技術の考察を行い、成果を修復現場へ還元することを目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
古都アンコールを中心に展開するクメール宗教建築は、土を層状に突き固めた版築を石やレンガで被覆した基壇上に、石やレンガを空積みした建物をのせる。遺構の中には、上部構造が大きく変位し、倒壊の恐れがあるものも多い。このような変位の要因は、各遺構で各々多様な因子が複合的に作用するとみられるが、その主要な因子として、雨水の排水不全による基壇沈下について議論がなされてきた。しかし、版築に関わる資料は少なく、基壇内部に浸入した雨水の影響に関しては不明な点が多い。 本研究は、基壇内部に浸入した雨水が版築に及ぼす影響に焦点をあて、クメール宗教建築の版築技術の一端を明らかにすることを目指し、以下の課題に取り組んでいる。 【課題1】解体修復工事が行われているアンコール・ワット西参道の版築の土質調査から、粒度・密度・締固め度などを確認する。【課題2】課題1の結果を参考にした室内試験から基壇内部の版築の排水性および沈下特性の評価を行い、基壇沈下の要因について明らかにする。【課題3】古代の版築技術の考察を行い、これらの成果を修復現場へ還元することを目指す。 本年は、まず、アンコール・ワット西参道における版築の土質調査を行った。解体工事時に作成された土層図をもとにサンプリングした各層の土について、粒度・密度・締固め度の確認を行った。結果、砂地業層に礫分が混じるラテライトチップの薄層が狭在する構成が明らかとなった。礫分を含む薄層を狭在する事例は、アンコールの他の遺構でも報告されている。また、このような粒径の異なる土を交互に締固めた構造について、排水効果および強度が期待されることが、宋代の『営造方式』に記されている。 そこで、版築の互層の透水性を評価するためカラム装置を用いた透水試験を計画し、その試験の有効性を確認するため文献から判明した模擬土を用いた室内試験を実施した。その結果、カラム試験の有効性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で示した課題1と課題2について、以下のように研究が進んでいる。 【課題1】現地調査を1回実施し、アンコール・ワット西参道における版築のサンプリング土について土質調査を行った。その結果、砂地業層に礫分が混じるラテライトチップの薄層が狭在する構成が明らかとなったが、各層の粒度・密度・締固め度については、15層のうち主要な一部の層での確認に留まった。今後、現地調査を重ねて、全ての層の確認を行いたい。 【課題2】課題1の結果から、砂地業層に礫分が混じるラテライトチップの薄層が狭在し、ラテライトチップ層が石材の目地に接する傾向があることが明らかとなった。このような粒径の異なる土を交互に締固めた構造について、排水効果および強度が期待されることが、宋代の『営造方式』に記されている。 これらより、版築の排水性について、雨水の一部が石の目地から滲み出ると想定し、版築内の雨水浸透にラテライトチップ層の狭在及び目地への接触が与える効果について検証するカラム試験の計画を立てた。まずカラム試験の有効性を確認するため、文献から判明した模擬土を用いた室内試験を実施した。試料は、ベトナム産ラテライト粘土と三河産珪砂、軽量骨材である。文献を参考に版築土の粒度分布を再現した模擬砂質土と模擬ラテライトチップを準備した。型枠材はアクリル製(φ200mm、h420mm)とし、側部と下部に水を通す隙間を設けた。下から模擬砂質土層、模擬ラテライトチップ層、模擬砂質土層とし、それぞれ最適含水比となるよう加水調整を行い突固めた。試験方法は、試験体の上面に継続的に水を供給し、経過時間ごとの側部および底部からの排水量を計測した。その結果、作製された模擬ラテライトチップ層は十分に側部方向への排水性能を有しており、また下層にそれほど水を浸透させない層であることを再現することができ、カラム試験の有効性が確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、次の通りである。 1)現地調査を実施し、アンコール・ワット西参道における版築のサンプリング土の土質調査を継続し、各層の粒度・密度・締固め度などを明らかにする。 2)西参道における版築各層の土質調査で明らかにした粒度・密度・締固め度などを参照して、室内試験に使用する模擬砂質土と模擬ラテライトチップ層を作製する。 3)模擬砂質土と模擬ラテライトチップ層の要素試験を実施し、各層の透水係数を把握する。その上で、本年度より層数を増やしたカラム試験の本試験を実施し、版築内の雨水浸透にラテライトチップ層の狭在及び目地への接触が与える効果について検証する。 4)版築の互層構造の静的強度試験を実施する。以上より、互層構造が排水効果および強度に与える影響を明らかにし、古代の版築技術の考察を行う。さらに、これらの成果を修復現場へ還元することを目指す。
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