Project/Area Number |
23K20485
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Project/Area Number (Other) |
21H00555 (2021-2023)
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Allocation Type | Multi-year Fund (2024) Single-year Grants (2021-2023) |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 03010:Historical studies in general-related
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
諫早 庸一 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 特任准教授 (90831397)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大貫 俊夫 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (30708095)
四日市 康博 立教大学, 文学部, 准教授 (40404082)
中塚 武 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (60242880)
宇野 伸浩 広島修道大学, 国際コミュニティ学部, 教授 (60310851)
西村 陽子 東洋大学, 文学部, 教授 (70455195)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2024)
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Budget Amount *help |
¥17,160,000 (Direct Cost: ¥13,200,000、Indirect Cost: ¥3,960,000)
Fiscal Year 2024: ¥2,860,000 (Direct Cost: ¥2,200,000、Indirect Cost: ¥660,000)
Fiscal Year 2023: ¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2022: ¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2021: ¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
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Keywords | 14世紀の危機 / モンゴル帝国 / 環境史 / 黒死病 / ユーラシア史 / 中世気候異常期 / 小氷期 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、「14世紀の危機」に焦点を当てるものである。「14世紀の危機」とは、「中世温暖期」から「小氷期」への移行期にあたる14世紀に起きたユーラシア規模での、1)気候変動、2)社会動乱、3)疫病流行、これら3つの複合要素から成り、ユーラシア史を不可逆的に転換させた「危機」を意味する。本研究では、気候の変動は人間社会にとって特に対応の難しい20年から70年ほどの周期で「危機」を最大化するという仮説に基づいて議論を進める。100年単位の生態系の長期遷移と、社会や気候の短期のリズムとのあいだにある中間時間を、気候データと文献データとの組み合わせによって危機のサイクルとして析出する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター2023年度夏期国際シンポジウム「崩壊の局面:アフロ・ユーラシアから「14世紀の危機」を思考する」を開催し、これまでの研究成果を国際学界で問うた。その結果として、「14世紀の危機」に関し、以下の5つの論点が浮かび上がった。1)地域的な多様性、2)時代的な多様性、3)史料の語り方の違い、4)危機の周期性、5)あらたな時代・勢力の胎動。まず1)に関して、「危機」は広大なアフロ・ユーラシア地域においては当然のことながら、各地において時間差をもって進行していた。各地の専門家たちとこのことを議論することで、その具体相が浮かび上がってきたのである。2)の論点にもなるが、概して「危機」は東から西へと進行していた。その西端にあたるヨーロッパにおいて黒死病によって「危機」が最大化する14世紀の中盤にはすでに、東方においてはモンゴル帝国が解体し、アフロ・ユーラシア全体をつないでいた交易網は寸断されていたのである。3)に関してはしかし、14世紀は「危機」の時代としてのみ語りうる時代ではないということが再確認された。14世紀前半においては依然としてアジア海域の交易は活況を呈しており、多くの史料がこのネットワーク上で活動する人々のダイナミズムを伝えている。4)は当プロジェクトの主眼でもある「危機」の周期性についての議論である。やはりユーラシアの多地域において、特に食糧危機のような災害は、それ以前に数年豊作が続いた時代の過適応の結果として生じていたことが、古気候データ・文献データの組み合わせから実証的に確認された。5)の論点に関しては、この「危機」のなかでむしろ勢力を拡大させた新興勢力に注目し、そこには人間の移動つまり人口動態が密接にかかわっていることが理解された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、国際会議の開催によってこれまでの研究成果を国際的に議論することが主眼であった。しかし、本年度の成果はそれだけに留まらず、次年度に計画していた成果の刊行も、例えば諫早による総括論文の刊行という形で行われた(諫早庸一「「14世紀の危機」の語り方:ヨーロッパ到来以前の黒死病」『思想』1200号 (2024年): 9-32頁)。さらに同論文が掲載されている『思想』1200号は「危機の世紀」の題を有する特集号であり、そのなかでは、15世紀や17世紀における環境危機との比較についても議論することができた。さらに、先述の国際会議の成果の刊行についても、登壇者の1人であったニコラ・ディ・コズモ(プリンストン高等研究所)と諫早の共著という形で出版計画が進んでいる(ニコラ・ディ・コズモ & 諫早庸一『気候変動・疫病・戦争:アフロ・ユーラシアにおける「14世紀の危機」』エディンバラ大学出版局, 2025年刊行予定)。こうした点が、本研究が当初の計画以上に進展しているとした理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
特に先に述べた5つの論点を踏まえ、最終年となる今年度は、それぞれのメンバーが下記のテーマに沿って研究成果を公表する。まずは諫早と中塚が、バグダード地域においては、1260年代末から80年代に関して顕著な寒冷化が見られることを文献および古気候データの組み合わせによって実証する。1280年代という時期は、モンゴル帝国の多地域が危機に見舞われる時代であり、政治危機の時期と全球規模での寒冷化の時期が重なっていることを示す。次に、大貫がおそらく過去2500年で最大規模のものであったとされるインドネシア・サマラス山の大噴火(1257年頃)に注目し、この火山噴火の影響はヨーロッパにおいてすら、1258年の冷夏と不作としてドイツ西部の史料にも確かに現れていることを示す。一方で宇野は東アジアに注目し、寒冷化が著しかったヨーロッパとは異なり、東アジアでは1290年から1320年まで一貫して平均気温が上がり続けることを示す。しかもこの地域において一般的に気温とは逆相関の関係にある降水量も、1320年代においては下降せず、この時期において大元ウルス(中国)領内では洪水と飢饉とが頻発していることが実証される。論点の1つとなった周期性については四日市が、ユーラシア規模にネットワークを開いた大元ウルスでは、季節移動を行う遊牧のサイクルとモンスーンに規定された海域のサイクルとが重なりあうことで、徴税や交易政策、使節派遣などに独自のリズムが生まれていたことを示す。最後に、西村はより時代を遡り、ウイグル帝国の崩壊をもたらした大旱魃が、8世紀から9世紀のウイグル・チベット・唐の三国鼎立期の東部ユーラシアにいかなる影響をもたらしたのか、そしてウイグル滅亡後の唐王朝で始まった大混乱といかなる関係を有しているのか、こうした問いについて検討を行う。
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