Project/Area Number |
23K22259
|
Project/Area Number (Other) |
22H00988 (2022-2023)
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
|
Allocation Type | Multi-year Fund (2024) Single-year Grants (2022-2023) |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 09030:Childhood and nursery/pre-school education-related
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
野中 哲士 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (20520133)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山崎 寛恵 東京学芸大学, 教育学部, 特任准教授(Ⅰ種) (40718938)
西尾 千尋 甲南大学, 文学部, 講師 (50879939)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2024)
|
Budget Amount *help |
¥13,000,000 (Direct Cost: ¥10,000,000、Indirect Cost: ¥3,000,000)
Fiscal Year 2025: ¥2,860,000 (Direct Cost: ¥2,200,000、Indirect Cost: ¥660,000)
Fiscal Year 2024: ¥3,120,000 (Direct Cost: ¥2,400,000、Indirect Cost: ¥720,000)
Fiscal Year 2023: ¥3,120,000 (Direct Cost: ¥2,400,000、Indirect Cost: ¥720,000)
Fiscal Year 2022: ¥3,900,000 (Direct Cost: ¥3,000,000、Indirect Cost: ¥900,000)
|
Keywords | 発達カスケード / 発達システム / エージェンシー / eco-evo-devo / 表現型可塑性 / アフォーダンス / 探索 / 操作 / 身体性 / 環境 / 養育者ー乳児 |
Outline of Research at the Start |
私たち生物個体が生を開始してから,やがて死にいたるまでの変化の道程は,私たちの日常をとりかこむ独特の環境の構造や,その中で日々繰り返されているあたりまえの出来事と切り結ぶなかで,その場で動的に浮かび上がるものである。本研究では,出生直後から見られる乳児の手の動きに付随して日常場面において生起する養育者との注意の共有や環境の対象とのあいだに生じる関係について記述する。環境の対象と接触する乳児の手の所作を起点とし,みずからに注意を向ける他者や群生環境の規範にさらされる中で,乳児がどのような出来事に遭遇しており,またその経験がさらにどのような機会を乳児にもたらしているのかを実証的にドキュメントする。
|
Outline of Annual Research Achievements |
生物個体の一生という時間スケールで,個体のふるまいの変化を何がもたらすのかという問題は発達心理学の根幹をなす問いである。しかし,生物個体のふるまいの変化は,ひとつの原因がひとつの結果を引き起こすという単線的な因果関係にはあてはまらないことが多く,その理解はしばしば,変化をとらえる思考の枠組み自体を問い直す困難な作業を要求する。個体が示すふるまいの特徴や変化が,一見直接関係のないように見える異なる方面の発達的変化に波及する現象は「発達カスケード(developmental cascades)」と呼ばれる。本研究課題は,乳児が環境を「探索する手」の自発的動作が起点となり,発達の諸相に影響が及ぶ「発達カスケード」現象の統合的な理解を目指すものである。本年度は昨年度に引き続き,乳児の日常場面の縦断的観察を行い,私たちの日常をとりかこむ独特の群生環境のなかで,乳児の「探索する手」を起点として動的に浮かび上がってくる様々な出来事と,それらの出来事がもたらす乳児の経験と発達的変化の機会の具体像の記述,検討を進めた。観察と分析を進めることと並行して,International Conference on Perception and Action (ICPA),International Conference on Embodied Cognitive Science (ECogS),日本発達心理学会,日本質的心理学会の大会シンポジウム,『臨床心理学』誌をはじめとする学術雑誌への論文寄稿,『発達心理学』誌における「発達カスケード」特集の企画・編集など,多方面に成果を公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,研究課題を次の二つの方向に展開させた。第一の方向は,乳児の「探索する手の発達」をめぐる問題について,「探索する手の発達のまわりで起こっている日常経験の変化」をめぐる問題としてとらえなおすことで,乳児の発達について,発達のまわりの環境をふくみこんだシステムのダイナミクスとして検討する方向である。この第一の方向の主な成果としては,第35回日本発達心理学会における研究分担者企画によるラウンドテーブル「レイアウトから探る保育環境:園庭・保育室での遊び・運搬・片付けの視点から」,同じく第35回日本発達心理学会の大会企画シンポジウム「発達心理学者は発達にどうアプローチするのか」および第20回日本質的心理学会大会企画シンポジウム「制作論的転回? 同じ川は二度入れない、同じモノは二度作れない」における研究代表者による発達カスケードをめぐる理論的視座の話題提供,XXI International Conference on Perception and Action(ICPA 2023)における保育室環境の縦断観察研究の研究分担者による発表,学術雑誌『臨床心理学』誌上の「発達のプリズム」特集への乳児の「探索する手」を起点とする発達カスケードをめぐる論考の寄稿などが挙げられる。第二の方向は,異分野との連携である。第二の方向の主な成果としては,身体性認知科学の国際研究会であるInternational Conference on Embodied Cognitive Science (ECogS) 2023における,日常環境のなかで「自己」を知る機会をめぐる研究の発表,「日本ロボット学会誌」への発達をめぐる論考の寄稿などが挙げられる。これらの成果を通じて,探索する手が生み出すさまざまな経験と発達の結びつきをめぐる,学際的・国際的な研究交流を進めることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後,この研究課題をさらに学際的な方向へと推し進め,意欲的に異分野との連携を行うことを計画している。短期的あるいは長期的に,生物個体のなんらかの経験やふるまいの発達的変化が,一見無関係に見える他の発達的変化に影響するという事実は,乳児研究以外の領域でも,これまで数多く報告されている。経験によって非線形的にふるまいが変化する現象は,生物学における表現型可塑性をめぐる問題とも関連が深く,分野を超えてブレークスルーを要する研究課題となっている。今後,ロボティクスや生物学の分野との連携を深めつつ,適応的行動の発現における探索と経験の役割について,多分野に開かれた議論を行っていく。2024年12月に刊行予定の,『発達心理学研究』誌上では,本研究課題の研究代表者および研究分担者による企画で「発達カスケード」の特集号を編集しており,ロボット工学,脳科学など領域を越えた研究者に寄稿を依頼しており,学問領域を越えた学際的な議論の舞台を設けることを企図している。私たち生物個体が生を開始してから,やがて死にいたるまでの変化の道程は,私たちの日常をとりかこむ独特の環境の構造や,その中で日々繰り返されているあたりまえの出来事と切り結ぶなかで,その場で動的に浮かび上がってくるものである。生物個体の発達のこうした側面に焦点をあてるとき,発達の研究は,発達を起こす「筋書き」の研究ではなく,発達という時間スケールにおいて,生物個体と環境が出会うなかで動的に浮かび上がる「移ろいそのもの」の研究となる。と同時に,発達の研究は「発達が起こっているところ」の研究を広く包含する営みとならざるを得ないだろう。このような考えから,今後,本研究課題では,手の具体的な日常の所作をとりあげて,その変化が現れるところの日常環境に焦点をあてた観察および分析をさらに行っていく予定である。
|