冷却原子気体が拓く非平衡量子多体物理のフロンティア
Project/Area Number |
23K22423
|
Project/Area Number (Other) |
22H01152 (2022-2023)
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
|
Allocation Type | Multi-year Fund (2024) Single-year Grants (2022-2023) |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 13020:Semiconductors, optical properties of condensed matter and atomic physics-related
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上田 正仁 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (70271070)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2024)
|
Budget Amount *help |
¥17,160,000 (Direct Cost: ¥13,200,000、Indirect Cost: ¥3,960,000)
Fiscal Year 2025: ¥3,770,000 (Direct Cost: ¥2,900,000、Indirect Cost: ¥870,000)
Fiscal Year 2024: ¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2023: ¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2022: ¥5,070,000 (Direct Cost: ¥3,900,000、Indirect Cost: ¥1,170,000)
|
Keywords | 非平衡 / 量子多体系 / 冷却原子気体 / ハバード模型 / 深層学習 / Yang-Lee ゼロ / PT対称 / 臨界現象 / 深層ニューラルネットワーク / BCS模型 / Yang-Lee zero / 非ユニタリ臨界現象 / 強化学習 / レーザー冷却 / フィードバック制御 |
Outline of Research at the Start |
冷却原子気体は、超高真空中に閉じ込められた理想的な孤立量子多体系である。本研究ではこの特別な性質に着目して、レーザーなどを用いて外部から原子ロスやエネルギー散逸を系に導入することで発現する非平衡量子多体物理のフロンティアを開拓する。具体的には、孤立量子系に制御された散逸を導入することで非平衡な超流動状態の典型例であるYangのηペア超流動を実現する方法を提案し、非平衡ハバード模型の厳密解を求め、測定の反作用で発現する例外点由来の特異な量子臨界現象を解明し、冷却原子気体の熱緩和のメカニズムを解明する。さらに、深層強化学習を活用した非平衡量子多体系を冷却・安定化する方法を開発する。
|
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は当初目的に沿って、(1)Yang-Lee 臨界現象、(2)固有状態熱化仮説、および、(3)深層学習を統計力学の観点から理解する研究を行った。 (1)に関しては、光子を用いて1次元イジング模型の分配関数のゼロ点の分布と臨界現象を研究するための理論的基盤を提供した。量子―古典対応から虚数磁場下の1次元イジング模型はPT対称の0次元2準位量子系にマップできるが、これを光子の偏光に対応させ、コントロールされたロスを導入することで実現した。光子は膨大な数が実験的に活用できるために臨界現象に必要とされる統計精度を確保できる。我々は理論的基礎を提供し、これを実験グループと協力して実験的検証に成功した。 (2)に関しては、相互作用の局所性と少数多体性の条件を課したハミルトニアンに対して数値計算を行い、ランダム行列領域において得られた結果と同様な結果が成り立つことを示した。ランダム行列領域における証明は、非局所的でO(N)程度の多体性を含むため、この数値計算結果はそれ自体非自明なものである。さらに、物理量の少数多体性に着目し、対称性を持たない典型的な非可積分系において何体の物理量であればETHを満たすかを解析的に求めた。また、相互作用の局所性と少数多体性を取り入れた一般的なハミルトニアンに対して数値計算を行い、最近接相互作用する1次元スピン系において、スピンの数の2割程度の領域でETHが成立することを示した。 (3)に関しては、深層ニューラルネットワークにおいて学習過程が隠れ層の数に応じて次数の異なる相転移的振る舞いを示すことを理論的に明らかにした。以上の結果に加えて、BCS超電導モデルに対するYang-Lee のゼロ点分布を調べ、それがフェルミ面の不安定性を反映して半円上に分布していることを明らかにした。これはフルな円分布をするイジング模型とは質的に異なる結果である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は当初計画に沿っておおむね順調に進展してきたと判断している。 Yang-Lee臨界現象の研究は、量子古典対応により非ユニタリ量子臨界現象をエルミート量子系で実現できることを示した我々の研究成果(N. Matsumoto, et al. Phys. Rev. Res. 4, 033250 (2022))に興味を持った実験グループとの共同の成果である。ロスを伴う光子を用いることによって非ユニタリー臨界現象を測定できるだけでなく、分配関数やYang-Leeのゼロを観測できることは非常に興味深い発見であった。この研究成果は共同論文としてフィジカルレビューレターズ誌に公表予定である。Yang-LeeゼロをBCS超電導模型に適用する研究からはゼロ点は半円上に分布するという興味深い結果が得られた。深層ニューラルネットワークの研究は、ネットワークが学習を開始する際の振る舞いがエーレンフェストの相転移の次数でうまく分類できることは想定外の成果であった。深層学習の統計力学的観点からの研究はこの研究をもって一定の区切りがついたものと判断している。
|
Strategy for Future Research Activity |
最近冷却分子のボース・アインシュタイン凝縮が実験的に実現された。この系は、分子の化学反応に伴う散逸が不可避な系であり、本基盤(B)のメインな研究主題である冷却原子系における非平衡量子多体物理を実験に照らし合わして研究できる理想的な研究プラットフォームが実現できたと考えている。まずは、この散逸を伴う超流動を記述する基礎理論の構築を目指す。 固有状態熱化仮設(ETH)の研究に関しては、これまで系の熱化という観点からの研究が中心であったが、熱力学の第二法則の有用性は系から取り出せる仕事量の限界を与えてくれることにある。このことを鑑みて、冷却原子系で実現される孤立量子系から取り出せる仕事がETHとどのような関係があるのかは興味ある課題である。今後はこの問題にも取り組む。 さらに、非平衡開放量子系の研究が大きく進展するためには、再現性良く安定的に実現できる非平衡定常状態のクラスを増やすことが重要であると考えられる。そのような状態の探索を行うとともに、そこで実現される新規量子物理現象の発見を目指した研究を行う。また、この目的のためには、非平衡量子状態を観測して制御することが必須である。しかし、どのようなタイプの量子制御が許される・許されないかという一般的な研究はこれまでほとんどなされていない。熱平衡状態にあっては熱力学の第二法則がその役割を果たしているが、非平衡状態においてそのような分類が可能かどうかは大変興味深い課題である。この問題にも取り組む予定である。
|
Report
(2 results)
Research Products
(29 results)