Project/Area Number |
23K25375
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Project/Area Number (Other) |
23H00678 (2023)
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Allocation Type | Multi-year Fund (2024) Single-year Grants (2023) |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 03030:History of Asia and Africa-related
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
小沼 孝博 東北学院大学, 文学部, 教授 (30509378)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
多賀 良寛 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 准教授 (20963391)
小倉 智史 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (40768438)
小林 亮介 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (50730678)
秋山 徹 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (90704809)
登利谷 正人 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 講師 (90711755)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2024)
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Budget Amount *help |
¥18,330,000 (Direct Cost: ¥14,100,000、Indirect Cost: ¥4,230,000)
Fiscal Year 2026: ¥5,070,000 (Direct Cost: ¥3,900,000、Indirect Cost: ¥1,170,000)
Fiscal Year 2025: ¥4,290,000 (Direct Cost: ¥3,300,000、Indirect Cost: ¥990,000)
Fiscal Year 2024: ¥4,420,000 (Direct Cost: ¥3,400,000、Indirect Cost: ¥1,020,000)
Fiscal Year 2023: ¥4,550,000 (Direct Cost: ¥3,500,000、Indirect Cost: ¥1,050,000)
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Keywords | アジア / 山岳地域 / 峠 / 交通 / 近世・近代移行期 / 山岳地帯 / 境界 / 国境 / クルグズ / パキスタン / ヒマラヤ |
Outline of Research at the Start |
アジア内陸部の山岳地域は、隔絶された地理条件や文化の異質性から「辺境」視される嫌いがあり、また史料的な制約も相俟って、かつては歴史学の研究対象に選定されることは稀であった。しかし近年では、研究環境の改善や隣接分野の調査研究の進展もあり、多様な世界が重なりあう「境域」として関心が払われるようになった。このような潮流をふまえ、本研究では、近世・近代移行期におけるアジア山岳地域の地域社会像を、峠の交通と維持管理への関与のあり方、及びそれらに関連する制度・慣例・技術に着目して解明する。また峠の通行者、周辺の集落・集団、国家や宗教などの各アクターが取り結んでいた諸関係について地域間比較を行う。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の実施1年目にあたる今年度は、まず基礎情報の共有を欠いたまま個別研究に没入することを避けるため、8月までにオンライン研究会を3回開催し、メンバー全員が報告をおこない、各フィールドの事情や研究プランの共有を図った。また、以下のような共同・個別の海外調査を実施し、今後の研究の基礎となる資料・情報の集積に努めた。 小沼と秋山は8月にクルグズ共和国に出張し、カシュガルから北方へ伸びる交通路の調査を実施し、隊商宿等の史跡を踏査した。登利谷はパキスタンに2度出張し、9月にスワート渓谷からバフレイン渓谷に至る交通路を、2月にペシャーワルからアフガニスタン国境への交通路を調査し、ハイバル峠の現状も確認した。小倉は3月にはインドのカシミールで、ヒマラヤ周辺の交通路に関する史料調査を実施した。3月に小沼・小林・多賀はベトナム西北部のラオカイ・サパに出張し、山岳地域と中越国境の交通事情について共同調査を実施し、また多賀はハノイの公文書館・図書館で文献史料の調査に従事し、阮朝の宮廷文書コレクションに残されたハイヴァン峠関連史料を収集した。 これら現地調査で収集した史料・情報の一部は、研究課題実施の1年目ではあったが、国内外の学会や講演会における報告、及び論文・図書で活用し、具体的な成果として公表できた。例えば、小林による単著『近代チベット政治外交史:清朝崩壊にともなう政治的地位と境界』の第一章では、18世紀に四川省・チベットの境界地点として寧静山(リンチェン峠)が選択されていく経緯と、この峠を境として構築された東・西の政治体制の相違を論じている。アウトリーチという面では、小倉が高い国際的な発信力を示した一方で、小沼が民間の国際交流団体との共催講演会で、小林がカルチャーセンターで、登利谷が世界史セミナーでそれぞれ報告し、一般・学生に向けても情報の発信ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
年度前半に研究会を集中的に実施したことにより、本研究の核となるアイデアと問題関心、そして研究対象地域の事情(共通性と差異)について、スムーズに共有を図ることができた。8月以降は、研究会を故意的に実施せず、メンバーがそれぞれの関心に応じて研究を進め、海外調査を通じて資史料の収集や交通路の調査に時間を割き、「基礎体力」作りに注力できた。 例えば秋山は、5月の研究会で行なった口頭報告に基づき、8月にクルグズ共和国で実施し、そこでの地形観察を踏まえ、雑誌論文(研究ノート)「「山岳遊牧民」の実像を求めて:クルグズ近代史における地形ファクター」を執筆した。この論考において秋山は、19世紀から20世紀初頭にかけて、クルグズ遊牧民がロシアという大国の進出という状況に対峙するなかで、平野部と山岳地帯の境界領域を掌握した頭目が覇権を握ったことを示し、クルグズ遊牧民についてまわる「山岳民」というステレオタイプを再考している。これは、本研究課題の遂行が具体的な成果に結びついていることを示すものである。 また、本研究課題では申請時に、国際的な情報発信(国際学会での発表、外国語論文の執筆など)と並んで、一般向けのアウトリーチを重視することを目標に据えていたが、これらについても十分に達成することができた。 以上より、「当初の計画以上に進展している」という自己点検による評価を下した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、峠を共通テーマとし、山岳各地域の個別事例の検討と具体像の把握から開始されるものであり、今後も継続して、主に海外における史料収集とその分析を通じて基礎情報の集積に努める。その一環として、共同で実施するフィールド調査を通じて各地域の峠の交通・信仰に関わる歴史的痕跡(城塞、関所、駅站、宿場、商館、寺院)の情報を収集し、峠の利用と維持管理に関わる制度・慣習・技術などの把握を行い、かつ各々の領域にフィードバックさせて課題の再発見につなげていく。 また本研究課題は、多様なレベルの社会集団を対象とするが、国家レベルにおいては、峠の掌握と地域支配の関連性において、社会秩序の形成・再編・崩壊がいかにして展開したかを検討する。在地レベルにおいては、世俗支配者・宗教指導者・周辺住民等が峠への関与を通じてどのような関係を構築していたかを解明する。その際、極めて重厚な蓄積を有する日本の事例を参照すべく、日本史学や民俗学を専門とする研究者との連携を図りながら、それらの視点と手法を積極的に吸収し、活用していく。このような作業を通じて浮き彫りにしたそれぞれの地域性を比較対照し、山岳地域の政治・社会構造の総合的な把握に基づくモデル化を進める。 以上に加え、近世・近代移行期を中心に扱う本研究課題では、国境の出現、鉄道の敷設、外国商品の流入といった近代的変容が、峠の交通・交易のあり方、伝統的な社会関係や在来知に与えたインパクトを、近世からの連続面を重視して再考し、国境・領土紛争の遠因を地域の文脈で捉え直す。この点も踏まえ、上述した共同で実施するフィールド調査は、インド、パキスタン、タジキスタンなどを予定している。
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