Project/Area Number |
23K25790
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Project/Area Number (Other) |
23H01093 (2023)
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Allocation Type | Multi-year Fund (2024) Single-year Grants (2023) |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 13010:Mathematical physics and fundamental theory of condensed matter physics-related
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
桂 法称 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (80534594)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
初田 泰之 立教大学, 理学部, 准教授 (00581084)
伊與田 英輝 東海大学, 理学部, 講師 (50725851)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2024)
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Budget Amount *help |
¥18,590,000 (Direct Cost: ¥14,300,000、Indirect Cost: ¥4,290,000)
Fiscal Year 2026: ¥4,810,000 (Direct Cost: ¥3,700,000、Indirect Cost: ¥1,110,000)
Fiscal Year 2025: ¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2024: ¥4,030,000 (Direct Cost: ¥3,100,000、Indirect Cost: ¥930,000)
Fiscal Year 2023: ¥5,070,000 (Direct Cost: ¥3,900,000、Indirect Cost: ¥1,170,000)
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Keywords | 量子多体系 / 量子多体傷跡状態 / 量子可積分系 / 開放量子系 / ブラックホール / 固有状態熱化仮説 |
Outline of Research at the Start |
近年の実験技術の進展を背景に、量子多体系の主要な研究対象は、基底状態・平衡状態における相形成からダイナミクスや非平衡状態へとシフトしつつある。しかし、非平衡量子多体系の理論的理解は未だ発展途上にある。本研究の目的は、新たな数理的手法を開発し、量子多体系のダイナミクスに関する厳密な結果を確立することである。具体的には、1. 非エルゴード的な量子多体系のダイナミクス、2. 量子可積分系の動的相関関数・非線形応答の厳密な計算、3. 開放量子系のダイナミクスの解析、の3つのテーマに関する研究を進める。また、これらに留まらずブラックホールの解析や量子計算におけるノイズの問題などの学際的な研究も行う。
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Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の主な結果として、以下の3つが挙げられる。(1)量子多体傷跡状態をもつ模型の系統的な構成、(2)乱れのないSachdev-Ye-Kitaev(SYK)模型のダイナミクス、(3)局所物理量の期待値の緩和時間の評価。
(1)近年、非エルゴード的なダイナミクスを示す量子多体系の研究が盛んに行われている。特に、量子多体傷跡状態(QMBS)と呼ばれるクラスのエネルギー固有状態をもつ系が注目されているが、そのような系を系統的に構成する方法を2つ提案した。ひとつは可積分境界状態とよばれるものを利用する方法であり、もうひとつは制限スペクトル生成代数の方法に基づく方法である。最初の方法により、フラストレーションフリー系の基底状態がQMBSとして現れる模型を構成することができた。第二の方法では、スカラースピンカイラリティと呼ばれる項をベースに、複数個のQMBSをもつ模型を1, 2次元で構成することができた。さらに、それらのQMBSに起因して、ある種の初期状態は緩和せず、周期的に振動する振る舞いを示すことを明らかにした。 (2)ホログラフィー原理のトイモデルとして知られているSYK模型と呼ばれるフェルミオン模型で、結合が一様な場合を考えると実は可積分であることを発見した。そのことを利用して、この模型における各種の熱力学量や動的相関関数を計算し、元々のSYK模型との類似点や相違点を明らかにした。 (3)分担者の伊與田は、着目系と熱浴からなる系において、熱浴の初期状態がエネルギー固有状態の場合に、着目系の局所物理量の期待値の緩和時間について調べた。まず、ある種の非局所物理量について固有状態熱化仮説(ETH)が成り立つならば、緩和時間がミクロカノニカル分布のときのものに帰着することを示した。また、そのETHの数値的な検証を行い、熱浴のハミルトニアンが非可積分の場合に成り立つ傾向を暫定的に得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の大きなテーマは、1.非エルゴード的な量子多体系のダイナミクスの解析、2.量子可積分系の動的相関関数・非線形応答の厳密な計算、3.開放量子系のダイナミクスの解析、の3つである。
テーマ1については、今まで量子多体傷跡状態(QMBS)の文脈では着目されてこなかった可積分境界状態という概念を用いることで、QMBSをもつ量子スピン模型を原理的には無限に構成できることを示したものである。その他の手法と組み合わせることで、より広いクラスのQMBSをもつ模型が構成できる可能性も期待される。テーマ2については、当該年度は乱れのないSYK模型という相互作用項のみからなる模型が、意外にもフリーフェルミオン系と同様に解くことができることを明らかにした。また、その結果を非時間順序相関関数などの動的相関関数の計算に応用した。この結果にはプレプリント投稿時から様々な反響があり、今後も深めていく意義があると考えている。一方で、当初予定していた1次元量子可積分系の無限温度での動的相関関数や非線形応答についての研究には本質的な進展がなかった。テーマ3の開放量子系のダイナミクスについては、非エルミートなフェルミオン2次形式のジョルダン分解についての一般論を整備した。これは今後、2次形式に帰着する散逸系のダイナミクスを具体的に調べる際に基盤となる結果である。また分担者の初田は、ブラックホールの準固有振動モードを解析するにあたって、方程式に現れるパラメータに関する高次の摂動補正を系統的に取り扱う一般論を構築した。こちらもブラックホールの物理と散逸系の関係を今後調べる際に礎となることが期待される。
これらを踏まえて、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のそれぞれのテーマについて、以下のように研究を進める。
テーマ1「非エルゴード的な量子多体系のダイナミクス」:当該年度に発展させた可積分境界状態を利用した量子多体傷跡状態(QMBS)の構成法は、そのままの形では複数のQMBSをひとつの模型に埋め込むことが難しい。令和6年度は、別の境界状態を用いることで、複数のQMBSをもつ模型の系統的な構成を試みる。また高次元系への拡張にも取り組む。令和7年度以降は、(i) 熱的なエネルギー固有状態をもつ模型の系統的な構成、(ii) エニオンやパラフェルミオンなどの非自明な統計性をもつ粒子系における熱化の問題なども調べる。 テーマ2「量子可積分系の動的相関関数・非線形応答の厳密な計算」:1次元の強相関電子系の模型や近藤不純物を含む系における非線形Drude重みに関する研究を行い、非線形応答における相互作用の効果を調べる。また、S=1/2 Heisenbergスピン鎖やSU(N) スピン鎖などにおける動的相関関数をモーメント法により数値的に求め、そのような摂動展開の結果からリサージェンス理論などを援用して、長時間の振る舞いについての非摂動論的情報を抽出を試みる。 テーマ3「開放量子系のダイナミクスの解析」:粒子ロスのある冷却原子系など開放量子系のダイナミクスは、GKSL方程式でよく記述される。令和6年度は、定常状態やLiouvillianギャップの求まる可解なGKSK方程式の構成や解析を目指す。同時に、効率的な数値計算手法の開発を模索する。令和7年度には、GKSL方程式では記述できない、非マルコフ的なダイナミクスについても予備的な研究や情報収集を進め、令和8年度以降にその解析を試みる。以上と並行して、ブラックホールの準固有振動モードと散逸系の対応など分野融合的な研究にも着手する。
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