Project/Area Number |
23K28310
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Project/Area Number (Other) |
23H03620 (2023)
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Allocation Type | Multi-year Fund (2024) Single-year Grants (2023) |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 80010:Area studies-related
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Research Institution | The Open University of Japan |
Principal Investigator |
玉田 芳史 放送大学, 京都学習センター, 特任教授 (90197567)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上田 知亮 東洋大学, 法学部, 准教授 (20402943)
中西 嘉宏 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 准教授 (80452366)
日下 渉 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80536590)
日向 伸介 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 准教授 (60753689)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2024)
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Budget Amount *help |
¥9,490,000 (Direct Cost: ¥7,300,000、Indirect Cost: ¥2,190,000)
Fiscal Year 2025: ¥3,380,000 (Direct Cost: ¥2,600,000、Indirect Cost: ¥780,000)
Fiscal Year 2024: ¥2,860,000 (Direct Cost: ¥2,200,000、Indirect Cost: ¥660,000)
Fiscal Year 2023: ¥3,250,000 (Direct Cost: ¥2,500,000、Indirect Cost: ¥750,000)
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Keywords | 脱民主化 / 権威主義体制 / 民主化 / 選挙 / 国政選挙 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、タイ、カンボジア、ミャンマーの東南アジア3カ国の脱民主化を分析する。民主化は1970年代以後世界各地で相次いだものの、20世紀末からは政治的自由や政治参加を制限する脱民主化が目立つようになった。この脱民主化では、民主主義を是とする国際的な潮流のゆえに選挙実施で民主主義を装うことが多い。それは「競争的権威主義」と呼ばれる。本研究ではそうした装いを捨てた「非競争的権威主義」の事例を東南アジアから3つ選び、自由で公正な選挙が放棄された経緯や論理の比較検討を行う。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ミャンマー、タイ、カンボジアの東南アジア3カ国の脱民主化を分析する。民主化は1970年代以後世界各地で相次いだものの、20世紀末からは政治的自由や政治参加を制限する脱民主化が目立つようになった。この脱民主化では、民主主義を是とする国際的な潮流のゆえに選挙実施で民主主義を装うことが多い。それは競争的権威主義と呼ばれる。本研究ではそうした装いを捨てた非競争的権威主義の事例を東南アジアから3つ選び、自由で公正な選挙が放棄された経緯や論理の比較検討を行う。 本研究では、現地調査と文献調査を組み合わせた比較検証に基づいて、次の3点の解明を目指す。1) 選挙放棄(脱民主化)の政治過程:①支配の主体に応じて、軍支配、党支配、個人支配に分類される権威主義体制の統治構造と、②過去の国政選挙とクーデタの特色、の2点に特に重点をおく。2) 選挙放棄の正当化:自由で公正な選挙を放棄する支配エリートはどのような大義名分を主張したのか。正当化言説はどのように変遷したのか、あるいは一貫していたのか。 3) 脱民主化への国民の反応:選挙放棄の正当化言説を国民がどのように受け止めているのか、賛同と批判の双方の論理や動機を解明する。 初年度の2023年度は、これら3点のうち選挙放棄の政治過程と正当化言説を主たる対象とした。具体的には、(1)当該国の現代政治史を振り返った。(2)脱民主化の主体が、軍隊、政党、個人のいずれなのかを確認した。(3)脱民主化の正当化言説を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の2023年度は、これら3点のうち選挙放棄の政治過程と正当化言説を主たる対象とした。対象とする3カ国をいずれも政治状況が大きく変化しつつあるため、注意深く観察と考察を続けている。 民主化や脱民主化の状況把握については、研究組織の内部でも意見に食い違いがあることが判明した。東南アジア地域において、マレーシアでは民主化が着実に進みつつあることで衆目が一致する。しかしながら、フィリピンとインドネシアについては、様々な問題点を指摘して民主主義の現状に疑問が提起されることもある。そこで、客観的な指標に基づいて、民主化の状況を位置づけるために、雑誌エコノミスト(Economist Intelligence)の民主主義指標(Democracy Index)を用いることにした。それによれば、民主主義の度合いは、タイは2006年と2014年の軍事クーデタで大きく低下し、カンボジアは2013年以降低下を続けており、ミャンマーは2015年に一度高まった民主主義度が2021年の軍事クーデタで最低へと下落した。 この指標によれば、一度導入した自由で公正な選挙をクーデタで放棄したミャンマー、選挙から自由さや公正さを払拭してしまったカンボジアは、民主主義度が低くなって、脱民主化の典型的な事例と言える。他方、タイは2014年クーデタから間を置いて、2019年と2023年に総選挙を実施しているため、民主主義度は比較的高い。しかし、これら2度の選挙は第一党に政権担当を許さないものであり、2023年総選挙の第一党MFPには君主制への不敬を根拠として解党処分判決が下されようとしている。これは司法機関に君主制からの自律性が欠如しているからであり、政治体制に重大な欠陥があることを意味している。MFP解党は、2019年選挙の第三党FFP解党処分と同様に、君主制改革論を勢いづけると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
政治体制の変動は、民主化にしても脱民主化にしても、一定方向の変化が持続するとは限らない。2021年に軍事クーデタが勃発して軍事政権が発足したミャンマーでは、ビルマ族や少数民族による根強い抵抗が続いており、タイ国境近くの主要都市ミヤワディーで政府軍の1個大隊が敗走するという事態が生じた。軍事政権にとっては危機である。カンボジアでは、野党の活動を厳しく制限することによって、総選挙での大勝を演出してきた与党人民党が、2023年にフン・センから息子のフン・マネットへの首相交代を実現した。人民党が安定した政権を維持できるのかどうかは定かではない。この両国では民主化への兆しの有無を注視する。 タイでは、国王を中心とする政治体制である「国体」を護持しようとする国体護持派が、タックシンに対抗するために、代議制民主主義を2006年から否定し続けてきた。軍隊は2度クーデタを成功させ、裁判所は総選挙無効や首相失職といった民主化に抗する判決を繰り返してきた。タックシンが批判されたのは、国王の権威や人気を相対化したからであった。タックシンは国体を脅かしても、国体の改革を唱えることはなかった。それに対して、2023年総選挙では国体の改革を唱える政党MFPが第一党になった。有権者の多くが国体護持派の脱民主化闘争に不満を抱いているからである。国体護持派はこの強敵に対処するため、仇敵タックシンと手を組んだ。タックシンは第一党MFPの政権獲得を阻止した上で、弱体化を試みている。用いる手法が自由で公正な選挙であるのかどうかが、民主化・脱民主化の行方を左右することになる。 国体護持派が虎視眈々と狙うMFP解党処分は、国体に対する有権者の反発を増幅することになり、国体にとっては不都合であり、長期的には民主化に追い風となる可能性を秘めている。それゆえ、解党裁判の動向を注視したい。
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