Project/Area Number |
23KJ0071
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 45040:Ecology and environment-related
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
江指 万里 北海道大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,000,000 (Direct Cost: ¥3,000,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
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Keywords | オオコノハズク / 分散 / 形態 / 繁殖生態 / 遺伝構造 / GPSデータロガー / 協同繁殖 / 共同繁殖 |
Outline of Research at the Start |
鳥類における繁殖形式の一種である共同繁殖が生じる背景として、渡りに関連する形態形質および分散能力との関連を解明することを目的とする。本研究では、オオコノハズクという、共同繁殖が認められる集団と、一夫一妻制のつがい繁殖を行う2集団が国内で確認されている種に着目する。2集団がどの程度遺伝的に分岐しているのかを確かめた上で、それぞれの集団の個体の形態形質を詳細に記録することで長距離の移動能力を定量化し、衛星追跡ロガーを用いて実際の渡り・分散の違いを確かめる。これらにより、2集団の繁殖形式の違いが、形態形質および分散能力とどのように関連しているかを考察し、鳥類における共同繁殖の進化の推進力を議論する。
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Outline of Annual Research Achievements |
沖縄島および北海道東部で本種の繁殖期におけるフィールド調査を実施し、一腹卵数や巣立ち雛数の記録を行った。雛を含む合計114個体の捕獲・標識を行い、その結果、沖縄島の一部の巣では、メス1羽とオス2羽が同じ巣に出入りして繁殖に参加する共同繁殖が確認された一方、北海道東部の個体群ではすべてがつがい繁殖であった。これは、本研究課題の発端となった予備研究に一致する結果であり、同種内で共同繁殖がある個体群とない個体群を比較するという研究計画の前提に沿うものである。 北海道東部では、2019年に雛の状態で足環標識された個体の再捕獲により、出生地分散の距離のデータを入手することができた。また、2021年に予備研究として成鳥に装着したGPSデータロガーの回収に成功し、成鳥は長距離の渡りを行っておらず、冬季に短距離の移動はあるものの北海道内に留まっていることが明らかになった。どちらも現在は1例のみの記録であるが、北海道の個体群の生態および移動を理解する上での重要な基礎情報である。 繁殖期以外では、2024年度の調査に向けて、本州及び北海道南部にて巣箱の設置や捕獲調査を実施した。 フィールド調査で得られた血液サンプルからDNA抽出を行い、ミトコンドリアCOI遺伝子の配列情報とMIG-seq法によって得られたSNP情報を用いて集団間の遺伝的距離及び家族内の血縁関係の推定を行った。沖縄島の個体群のみがクレードを形成し、沖縄島以外から得られたサンプル内には明確な構造は見られなかった。また、共同繁殖巣においては、雛の父性が2羽のオス親に分かれている例を確認した。 沖縄島と北海道東部の個体群の形態形質の比較として、各計測部位の比較を行うとともに、ランドマーク法を用いて翼の形状の違いの評価を行った。その結果、サンプル数は少ないものの、北海道東部の個体群の方が尖った形状を持つことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の遂行には、共同繁殖の個体群とつがい繁殖の個体群の間での、「1.形態」、「2.遺伝構造」、「3.渡り・分散行動」の比較が必要である。1に関しては、集団間で体サイズや翼の形状に違いがあることを示すことができ、「個体群の分散・渡り能力と形態には関連がある」という仮説に沿う結果を得られている。ただし、予想に反して北海道東部の個体群は長距離の渡りは行っていなかったため、確実な渡り個体群のサンプルを今後加えることで更なる検証を行う。 日本国内の遺伝構造は、ミトコンドリア遺伝子および核遺伝子を用いた系統解析を実施することができた。沖縄島の個体群が明確に遺伝的に異なることを示す十分なデータを得られた。3に関しては、調査初年度の成果は見込んでいなかったが、予備調査で行っていたGPSデータロガーを用いた調査や標識調査の成果により、北海道東部の個体群の移動に関する基礎情報を得ることができた。渡り及び分散行動の追跡に関しては、2024年度に本格的に実施する予定であり、それに向けた重要な予備情報となった。 また、本研究課題の大前提である沖縄島の共同繁殖に関しても、フィールド調査にて引き続き共同繁殖を確認することに成功し、DNAのSNP情報を用いた血縁関係の推定にも成功している。 さらに、当初の計画には含んでいなかったものの、本州で今後繁殖調査及び捕獲調査ができる体制を整えた。これにより、国内のより多くの個体群の詳細な比較が可能になる。 以上の成果より、まだデータ数は少ないものの本研究を支える基礎データの採取および予備解析が着実に進んでいること、また、2024年度以降の研究内容の見通しが立っていることから、総合的におおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度も、引き続き沖縄島と北海道東部、および2023年に予備調査を行った本州の調査地で繁殖調査を行い、遺伝子データと形態データの蓄積を行う。また、沖縄島では、巣立ち直前の幼鳥にGPSデータロガーを装着することで、出生地分散のルートおよび距離の推定に着手する。本ロガーは、個体に接近できれば再捕獲なしでデータ吸出しが可能なため、幼鳥が分散を行う秋以降に沖縄島を訪れ、データの回収を試みる。当初は北海道東部の幼鳥も同様に追跡する予定であったが、標識調査から出生地分散のデータが得られたことや、沖縄島と異なり分散距離が長いことが予想されデータの回収が困難であることから、実施するのは現実的でないと判断した。その代わり、北海道東部の個体群が長距離の渡りを行っていないことが明らかになっているため、確実に渡りを行っている個体群のデータを取るために、北海道南部にて渡り途中の個体にArgosロガーを装着する。本ロガーは衛星を介して位置情報が送信されるため、再捕獲が出来なくても、越冬地と繁殖地、およびその移動ルートを明らかにすることができる。北海道南部を通過する本個体群は、北海道東部とは異なる生活史を持つ可能性が高いため、比較対象としての個体群として今後扱っていく。 以上の内容から、当初計画していた2集団の比較から拡張して、沖縄島(留鳥・共同繁殖)・北海道東部(留鳥・つがい繁殖)・北海道南部(渡り性)・本州(生態不明)の比較を行う。繁殖生態にかかわるデータはフィールド調査で引き続き取得し、形態及び遺伝子情報は、自らのフィールド調査で得られたデータに加え、博物館標本なども活用してサンプル数を増やす。 DNAを用いて集団構造を明らかにした上で、各集団の繁殖生態の違いが、形態形質および分散能力とどのように関連しているのかを議論し、特に沖縄島において共同繁殖がどのような背景で生じたのかを考察する。
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