日本における移動生活者が有する場所感覚の地理学的研究
Project/Area Number |
23KJ0380
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 04020:Human geography-related
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
住吉 康大 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2024: ¥500,000 (Direct Cost: ¥500,000)
Fiscal Year 2023: ¥500,000 (Direct Cost: ¥500,000)
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Keywords | 定額住み放題サービス / 移動生活 / 地方創生 / ライフスタイル / 日記調査 / 場所感覚 |
Outline of Research at the Start |
近年、COVID-19の流行でリモートワークが普及したこともあり、働く場所の制約は小さくなっている。さらに、地方創生などの動きとも関係し、都市を離れて暮らしたいと考える人々も多い。これらの背景から、「アドレスホッパー」などと呼ばれる、各地を移動しながら暮らすという生活に注目が集まっている。本研究では、そのような生活の中で様々な地域がどのように認識され相互に影響を与えるのか、実際に移動しながら暮らす人々の日記などを参考に考察する。
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Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,昨年度に実施した,定額住み放題サービスの利用者を対象とした日記調査及びインタビュー調査によって得られたデータの整理と分析を中心に研究を進行した.その過程において,新たに以下2点についての調査研究を実施した. 第一に,日記調査自体が日本の地理学分野において用いられる機会の少なかった新規性の高い調査手法であるため,先行する英語圏での研究成果を中心としたレビューを行い,可能性と課題,分析方法の指針について考察した.この成果は地理思想を専門とする研究者の集まる学会において発表し,議論を深めた.そのほか,正式な学会ではないものの,観光学や社会学などの隣接分野で移住や移動の研究を行う研究者と勉強会を組織し,定期的な意見交換や共同での研究プロジェクトを推進した.第二に,単純に移動生活を求める人々の主体性のみを評価するのではなく,特に地方圏への人口移動政策と関連して移動生活への誘導が行われてきた日本独自の状況を整理し,社会・経済的な文脈の中で捉え直す必要があると考え,1980年代以降の国土政策を中心とした政策の分析と,主要な全国紙における言説の分析を新たに実施した.これにより,30年以上の長期にわたり,他の政策課題と自在に組み合わされる形で具体策が伴わない状態のままに推進されてきた移動生活が,2010年代に入って,新たな事業を展開する商機として,あるいは個人のワークライフバランスや自己実現を重んじる消費文化と結びついて,徐々に普及するようになり,コロナ禍という大きな外的要因によって急激に広まったことが明らかになった.本研究の調査設計自体も事業者との協力の下で実現したことを踏まえると,このようなポジショナリティの確認は研究全体の意義を再考する上で重要な作業であった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の主要な調査である,日本の移動生活者に対する日記調査の結果を収集し,分析する過程において,当初の想定を上回るような,非常に多岐にわたる,各個人の経験やライフスタイル全般に係る意見,場所や他者に対する感情や考え方などの情報が得られた.これを踏まえ,計画時点で本研究の中心的な目標であった「移動生活者が有する場所感覚の解明」だけに議論の焦点を絞り込むことは,むしろ調査の成果が有する多様な意義を矮小化する可能性があると判断し,研究全体の枠組みを再検討する必要が生じた. 具体的には,移動生活を試行するに至った個人の主体性を無批判に認めるのではなく,政府や政策,労働市場や住宅市場,消費文化や規範意識,自然環境や土地条件など,多様な構造との相互作用の中で意思決定過程を考察する必要がある.また,単に場所感覚を明らかにするだけでなく,個々人のライフコース全体の中で,移動生活を実践し,様々な場所を経験したことがどのように意味づけられるのかについて明らかにすることも重要であると考えた. それに伴い,人文地理学に限定されない,広範囲にわたる知見を収集し,整理・検討することに時間を要した.また,同様の関心を持つ研究の成果が特に英語圏で相次いで発表されたため,都度本研究の新規性や貢献を見直す必要が生じたことも影響し,予定より進捗がやや遅れている.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は研究成果を論文または書籍等の形態で発表し,他の研究者との議論を踏まえて本研究が明らかにした事項と残された課題,そしてさらなる研究の可能性を精査する.また,国際学会で発表することにより,本研究の事例と海外事例を比較対照し,異同を明らかにする. また,コロナ禍が終息し,移動生活を取り巻く社会・経済的な状況にも大きな変化が生じていることを踏まえ,改めて定額住み放題サービスとその利用者の位置づけを検討する.さらに,これまではオンラインでの就業によって移動生活を可能にしている人々に調査対象を限定してきたため,視野を広げる.具体的には,移動した先の場で働く形態,中でも仲介サービスを利用して,観光的な関心を持ちながら,農業や観光業へと労働力として参入する人々を議論の射程に収める.これらを複合することで,移動によって広がる旅と日常,あるいは余暇と労働の中間領域における包括的な研究へと発展させる.特に,同じ地域や施設に滞在していても,現地での労働という関与を含むか否かによって,形成される場所感覚に差異が生じる可能性に注目したい.具体的な手法は検討中であるが,2024年度中には何らかのパイロット調査を実施したいと考えている.
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Report
(1 results)
Research Products
(2 results)