メルロ=ポンティにおける自然と文化の相互内属性についての研究
Project/Area Number |
23KJ0442
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 01010:Philosophy and ethics-related
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野々村 伊純 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,000,000 (Direct Cost: ¥2,000,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
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Keywords | メルロ=ポンティ / 現象学 / 言語行為 / 文化 / 人種差別の習慣 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、フランスの哲学者モーリス・メルロ=ポンティ(1908-1961)の思想について、人間にとっての自然という観点から一貫した解釈を提起し、その意義を明らかにすることを目的とする。具体的には、中期においてメルロ=ポンティが、言語活動を、文化的世界を形作るための〈実践〉として見出していること、また彼の後期の探求が〈自然〉を新たに捉え直す探究であることを解明する。これによって、文化的理念と〈自然〉が人間の生の中で協働している事態を捉えることを目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、20世紀フランスの哲学者、モーリス・メルロ=ポンティの思想を通じて、自然と文化の関係を哲学的に解明することを目的とする。2023年度は、言語行為・文化・人種差別の習慣に関する研究について、国際学会での発表、査読付き論文の執筆(二本掲載)、共訳書の出版という成果を挙げた。 メルロ=ポンティが捉える言語は、意味を指示し、他者に私的な思考を伝達するための記号ではなく、伝統的な公共体に参与することで現実が形作られる過程であり、この主張に哲学的な意義がある(野々村 2024)。また、2020年に公刊されたメルロ=ポンティの講義ノート『パロールの問題』(未邦訳)を読解し、研究を行った。そこで彼は、人々がコミュニケーションを取る言語的表現の場面(パロール)に着目し、知覚的世界における超越論的機能を論じている(野々村 2023)。パロールは、ソシュール言語学において、言語体系としてのラングと区別された言語活動の構成的側面としても知られるが、メルロ=ポンティの考えでは、ここに言語と自然の関係に関する根本的で新しい洞察があり、その内実を明らかにしたものを投稿した。以上のように、新資料の内容を詳細に明らかにした。また、父子関係といった自然的と思える人間の活動が、文化依存的であるという文化人類学の知見に関して、メルロ=ポンティは「自然の光」という観点からも論じている。この点に関して、国際学会International Merleau-Ponty Circleにおいて発表を行った。また、メルロ=ポンティの現象学は今日、人種差別の現象学における理論的基盤の一つとなっている。この分野の基本図書、Ngo (2017) The Habits of Racismを共訳して、『人種差別の習慣:人種化された身体の現象学』を出版し、人種差別に関する批判的現象学の最先端を日本に紹介するのに貢献した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、主に未邦訳の講義ノート『パロールの問題』および『制度化・受動性の問題』の読解および研究を行い、複数の成果を発表するとともに、来年度の学会発表・論文投稿のための準備を進めることができた。 『パロールの問題』講義では、人間の生活における言語のあり方が論じられているだけでなく、自然と文化の関係についても積極的に考察されていることが明らかになった。このことが示しているのは、メルロ=ポンティにとって現象学の役割が、素朴な偏見のうちに没入している独断的態度を脱して、生きられた世界へと向かうだけでなく、そうした独断的態度が人間にとっては自然なものとなっている事態の発生論的な解明も含まれているということである。この研究を通じて、人間の生のうちで文化と自然が結ぶ相互的関係を明らかにできるメルロ=ポンティ的現象学の意義が明確になったと考えている。こうした現象学の目的について明らかになった点をまとめ、研究成果として発表する予定である。 『制度化・受動性の問題』講義では、フッサールといった哲学者だけでなく、アナール学派のリュシアン・フェーヴルや初期レヴィ=ストロースといった歴史学・人類学が参照されている。この講義を正確に理解するために、多岐にわたる思想家および学者の一次資料と二次文献を収集・読解も行った。そこでメルロ=ポンティは、「知覚の歴史」と「歴史の知覚」という二つの観点から「知覚的世界の存在論」を論じていることが明らかとなった。このとき歴史は、特定のテロスへと至る出来事の必然的な継起ではなく、異なる時代、異なる文化へと開かれている様態を表現している。その際、〈制度化〉という概念でもって、知覚的世界における二重の歴史的性格が解明されている。以上の研究の一部を、日本メルロ=ポンティ・サークルにおいて「制度化における知覚の歴史/歴史の知覚」という題で報告する(発表決定済み)。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、主に『コレージュ・ド・フランス講義草稿1959‐1961』を読解し、そこで言及されているマルクスとデカルトの思想と突き合わせることで、後期の思想における自然と文化の相互内属性を解明する。そのため、労働的な実践を通じた人間的自然の成立に関するマルクスの一次資料、また関連する二次文献(特に、ルカーチの『歴史と階級意識』)を読解する。デカルトは『省察』において「自然の光」という概念を重視しながら、それとは別に「自然的傾向性」という概念を提示している。メルロ=ポンティは、コレージュ・ド・フランスの教授に立候補した際に準備された1952年の文書において、「自然の光」という概念が主題になると予告している(本研究者は、国際学会International Merleau-Ponty Circleにおいて、その予告の内実を明らかにした)。実際、『講義草稿1959‐1961』では、「自然の光」という概念が、「自然的傾向性」と対比される仕方で批判的に検討されている。注目すべきは、この講義ノートにおいて最終的に「自然の光」が再考されている点である。こうしたメルロ=ポンティの思想の変遷の内実を解明する。また、昨年度研究した「制度化」講義では、歴史的に形成される制度と動物性を関連させていることが判明した。これは、自然における象徴機能と、マルクスの労働およびデカルトの自然の光といった概念を新たに捉え直すための視座になると考えられる。2024年度の研究のうちには、こうした自然における象徴機能との関りも踏まえる。昨年度の研究成果については、日本メルロ=ポンティ・サークル、国際学会International Merleau-Ponty Circleなどで発表を行う。最終的には、『メルロ=ポンティ研究』、『現象学年報』、CHIASMI INTERNATIONALへの投稿を計画している。
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Report
(1 results)
Research Products
(5 results)