Project/Area Number |
23KJ0486
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 16010:Astronomy-related
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西脇 公祐 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,600,000 (Direct Cost: ¥1,600,000)
Fiscal Year 2024: ¥600,000 (Direct Cost: ¥600,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
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Keywords | 銀河団 / マルチメッセンジャー天文学 / 宇宙線の起源 / 銀河団ガスの磁場 / 高エネルギーニュートリノ / フェルミ加速 / 電波天文学 |
Outline of Research at the Start |
宇宙線とは宇宙から地球に降り注ぐ電子など原子核などの微小な荷電粒子のことであり、その起源は物理学最大の未解決問題の一つである。宇宙線は、周囲の磁場や原子核と相互作用することで電磁波やニュートリノを放射する。これらの放射が宇宙線加速の証拠となりうるため、電磁波・ニュートリノ・宇宙線といった異種の観測が連携した「マルチメッセンジャー天文学」は宇宙線起源に迫る強力な研究手法となっている。本研究では特に銀河団という宇宙最大の天体に着目する。銀河団プラズマの性質などを考慮した理論モデルを構成し、そこから予想されるマルチメッセンジャー放射を観測と比較することで、銀河団が宇宙線の起源になりうるかを調べる。
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Outline of Annual Research Achievements |
当該年度に行った研究では、銀河団における非熱的な現象を解明することを目標として、銀河団中の宇宙線の注入・伝搬・再加速・放射に関する理論モデルを構築し、マルチメッセンジャーによる観測的制限を議論した。宇宙最大の天体である銀河団は、小さな銀河団(銀河群)同士の衝突合体によって形成された。その過程で、銀河団に乱流・磁場・宇宙線といった非熱的な成分が生じたと考えられているが、磁場増幅や宇宙線加速などの詳細な物理機構は不明である。銀河団は、高エネルギー宇宙線起源の有力候補の一つに数えられ、宇宙論と高エネルギー物理学が結びつく稀有な天体でありながらも、どれほどの宇宙線がどのように加速されるのか全くわかっていないのである。我々は唯一の観測的手がかりである宇宙線電子からの電波放射に着目して、宇宙線の電子・陽子両方の統一的な理論描像の確立を目指している。 我々は、衝突合体によって成長してゆく銀河団の中での宇宙線分布および宇宙線からの電磁波・ニュートリノ放射を計算する手法を開発した。乱流による宇宙線の「再加速」と、宇宙線陽子と銀河団ガスの衝突による「2次粒子生成」という2つの重要な物理過程を考慮した。我々の手法では、宇宙線の1次元的な空間分布を考慮した上で、衝突合体の歴史の異なる様々な銀河団について計算できる。そのため、電波放射の輝度分布や統計量などの観測量との詳細な比較が可能である。 このモデルを用いて、我々は電波ハローの様々な観測的性質を再現することに成功し、乱流加速や1次宇宙線の注入の効率を明らかにした。さらに宇宙線陽子からの高エネルギーガンマ線・ニュートリノ放射を予測し、将来の観測で宇宙線陽子の量を制限できることを示した。 報告者は上記の研究によって博士(理学)の学位を取得した。またこの研究に関連して、査読付き国際学術誌にて2編の論文が出版され、国際研究会で3件の発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
宇宙線分布を計算するコードの開発、電波放射の計算と観測の再現、マルチメッセンジャー放射の議論といった、一通りの研究を期間内に終えることができた。博士学位も遅れることなく取得するでき、当該年度の主要な目標は達せられたと言える。イタリアの研究者との共同研究も順調に進展し、無事論文の出版に至った。上記の研究に関する他の研究者との議論や研究発表などを通じて、新たな研究の可能性が見出されるなど、予想以上の進展もあった。 期間中に出版された論文の数は2編に止まった。これは本研究の内容が、宇宙線や乱流、高エネルギー放射の観測に関する非自明な内容多く含む都合上、一つの研究に割く時間が多くなるためである。該当年度の研究を順調に進めることができたのは、宇宙線研究所の共同利用計算機と特別研究員奨励費による計算資源・経済支援があったからである。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究によって、従来の「乱流再加速モデル」の理論的な問題点がいくつか明らかになった。中でも、再加速前の宇宙線の供給効率が低すぎるという点は、宇宙線の起源を解明するという大目標に直結する極めて重大な問題点である。この問題を解決することを今後の主要な目標とする。 上記の問題を解決する一つの可能性として、乱流強度と宇宙線加速に空間的な"ムラ"を考慮する、というものがある。もし乱流や放射が強い領域が偏在していれば、供給された多くの宇宙線のごく一部のみが放射に寄与するため、実行的な注入率が小さいことを説明できる。実際、強弱のムラのある乱流分布は、Nishiwaki+24で行ったMHDシミュレーションで確認されている。昨年度までに開発した空間1次元のモデルをアップデートし、乱流強度の分布を実効的に取り入れた計算を行う。 一方、宇宙線の主な注入源を峻別する上では、電波放射の形状と輝度分布を調べることが重要となるだろう。3次元宇宙論的電磁流体シミュレーションのポストプロセスで銀河団における宇宙線の注入・拡散の様子を調べ、注入源として衝撃波と活動銀河核のどちらが重要であるかを明らかにする。この研究はイタリアの共同研究者と協力して行う予定である。 最近、名古屋大学、国立天文台など銀河団のX線・電波観測を行なっているグループが、宇宙線加速に関連すると思われる興味深い現象を次々に報告している。これらのグループと積極的に連携し、「観測結果の理論的解釈」を通じて銀河団の宇宙線加速に迫る研究も進めている途中である。
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