Project/Area Number |
23KJ0526
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 01010:Philosophy and ethics-related
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
杉本 英太 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,000,000 (Direct Cost: ¥2,000,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
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Keywords | アリストテレス / 形而上学 / 存在論 |
Outline of Research at the Start |
アリストテレスは『形而上学』Γ巻(第4巻)において、「ある限りのあるものを考察する学知」(以下「存在論」と略称する)を構想し、またこの構想に接続する形で無矛盾律をはじめとする「公理」について論じている。しかし従来の研究は、存在論の構想を導入するΓ巻前半部と、諸公理を論じる後半部を切り離して検討しており、かつ各々のなかでも限定的な箇所・トピックに関心を集中させる傾向にあった。そのため、Γ巻の論理的統一性や、存在論構想の全体像はいまだ明瞭でない。本研究は、Γ巻全体の統一的解釈を通じてアリストテレス存在論の内実を解明し、当の構想を『形而上学』の大きな脈絡に位置づけ直す。
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Outline of Annual Research Achievements |
『形而上学』Γ巻の統一的解釈を目指しつつ、本年度は、その前半部(1-2章)の構成の検討を行った。当該箇所の読解に関して当初設定した目標は、(1)『分析論後書』で展開される知識論の、存在論構想への寄与の解明、(2)論証の論理的再構成、(3)『形而上学』の大局的文脈への位置づけの三点であった。このうち1に関しては、知識論と存在論の両者に共通する「自体的属性」概念に着目して読解を進めた結果、おおむね当初の想定通り、『形而上学』Β巻のアポリアに媒介される形で、知識論が存在論構想に積極的に寄与していることが明らかになった。この主題については、本年度に研究発表を行い、論文を投稿中である。2、3についても、1の作業を通じて展望が拓けてきており、一定の進捗を見た。ただし本格的に取り組むためには、当初予定していた作業に加えて、少なくとも『形而上学』Ι巻の記述との比較対照が必要であるように思われる。これについては、次年度での実施を予定している。 なお、前半部を精読する際の参照項として、イブン・ルシュド『『形而上学』大注解』の対応箇所を読解し、これに関する研究発表を行った。上記課題2を遂行する上で、Γ巻における「ある」と「一」の関係は鍵になると予想されるが、この作業はこの関係に関する哲学的な見通しの整理に役立った。以上のように、順序は前後させつつも、概ね当初の計画に沿って研究を実施した。ただし、新たに見えてきた解釈上の課題もあり、Γ巻前半部の論理構造を通観するには至らなかった。次年度においてはこの作業に引き続き取り組むとともに、公理論の検討、および存在論と公理論の関係の検討を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」に記載した通り、本年度の目標は『形而上学』Γ巻前半部の構成の検討であったが、そのサブゴールとして設定していた(1)知識論の存在論構想への寄与の解明、(2)論証の論理的再構成、(3) 『形而上学』の大局的文脈への位置づけの三点のうち、第一点については一定の成果を見たものの、第二・第三点の達成には至っていない。
その最大の原因は、『形而上学』Γ巻の簡潔な叙述について包括的な解釈を行う際、その叙述によって前提されていることが強く推定されるテクスト(『形而上学』Α、Β巻、『分析論後書』)だけでなく、その叙述が向かう方向性を示唆するテクスト(『形而上学』後続巻、とりわけΙ巻)との関連を検討する必要があることが明らかになったからである。言い換えれば、本年度の研究を通じて、上記サブゴールの第三点に第二点が強く依存していることが明らかになり、かつ第三点について当初の想定より広い範囲を確認する必要が生じた。このことは、当初の研究計画においては明確に見通せていなかった。
これにより、必要な作業が当初の見通しより多くなったため、本年度は上記の第二・第三点に関する成果を十分に発表することができず、進捗状況は「やや遅れている」と判断した。しかし、本年度の研究によって課題が明確になったため、これに基づき、来年度の研究は順調に進めることができると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」において触れた通り、前年度の検討課題であった『形而上学』Γ巻2章の論証の論理的再構成を、Ι巻との内容上の関連を踏まえて検討する。これにより、同章の鍵概念である「一」「ある」「帰一的」「自体的属性」の相互関係が把握でき、ひいては論証構造の明確化や『形而上学』の大局的文脈との位置づけも可能になると思われる。
また、Γ巻後半部(3章以降)の公理論の歴史的・哲学的検討も、並行して行う予定である。歴史的脈絡に関しては、その無矛盾律論における主要な論敵としての(プラトンを介した)プロタゴラスにひとまず焦点を絞り、明示的な対応の見られる『テアイテトス』、およびその他の対話篇におけるプロタゴラス批判との関係について検討を進める。また、内容の哲学的理解に関しては、当初の計画ではその存在論への含意の解明を目標としていたが、前半部の検討の結果、両者を当初想定していたレベルで結びつける試みは短絡の危険があると現在は判断している。むしろ、無矛盾律論自体の哲学的理解、および排中律批判などの後続の議論との関係の理解のためには、主張自体の論理形式の解明、とりわけ否定言明の論理的性質の解明が先決と思われる。したがって、この点に関する作業を進める。
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