Project/Area Number |
23KJ0741
|
Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 44040:Morphology and anatomical structure-related
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
外山 侑穂 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
|
Budget Amount *help |
¥3,000,000 (Direct Cost: ¥3,000,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
|
Keywords | ソテツ / 受精 / 精子 / 顕微操作 / 走化性 |
Outline of Research at the Start |
陸上植物の受精機構は進化の過程で大きく多様化してきた。基部陸上植物のコケやシダは鞭毛を持った運動性の精子を用いて受精するのに対し、種子形質を持つ被子植物は花粉が伸ばす花粉管の中で形成された鞭毛がなく非運動性の精細胞が花粉管によって卵まで運ばれて受精する。しかしながら、このような受精機構の変遷がどのような過程で生じたのかは明らかでない。そこで、被子植物と同じく種子を持つ一方で、花粉管内で作られる鞭毛を持った運動性の精子を用いるソテツの受精機構に着目した。本研究ではソテツの特殊な受精機構の、未だ明らかでない分子生理的な仕組みを解き明かし、植物の受精機構の進化過程を分子レベルで解明することを目指す。
|
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、基部陸上植物のコケやシダと同様に受精において雄配偶子として鞭毛を持った精子を用いる一方で、被子植物と同様に胚珠で受精が起こり種子をつくる植物である裸子植物のソテツに焦点を当て、種子植物における精子が受精においてどのような機能を持つかを明らかにすることを軸に陸上植物の受精の進化過程を解明することを目指している。そこでソテツ単離精子を用いて精子誘引動態を観察する顕微操作解析法の開発を行い、精子が他の植物精子と同様に雌性配偶体に誘引される可能性が高いことを確認した。さらにこのような走化性がどのような分子機構によってもたらされるかを解析するため、精子を含めたソテツの6つの組織を用いて組織別トランスクリプトーム解析を行った。その結果、精子の全体的な遺伝子発現数は他の組織に比べて最も少なく、特に転写発現に関わる遺伝子の発現が抑制されていることがわかり、これは他の植物精子・精細胞でも同様の結果であった。一方で核クロマチン制御因子に関しては、植物精子・精細胞の核凝縮に関わることが言及されている精子特異的に発現するヒストンバリアントはソテツでは見つからなかった。また、ソテツの精子と精子を内包する花粉管を比べると花粉管特異的に発現する分子は極端に少なく、複雑な誘引機構を持つ被子植物の花粉管ほどの機能はソテツ花粉管では獲得されておらず、精子が受精過程において泳ぎ卵に到達する段階が不可欠であることがわかった。このように個別の遺伝子に着目すると各組織で保持されている遺伝子セットやその発現パターンはソテツ独自に確立されていることがわかった。ソテツ精子では、走化性という現象の点ではコケやシダの精子と同様であるが、走化性に関与する分子についてはソテツ特異的なものである可能性が示唆される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本列島の広範囲で数ヶ月にわたるフィールドワークを中心とし、1年の中で時期が非常に限られる受精という希少な現象に着目しながらも、コンスタントに実験・調査に取り組んでいる。研究室内では、研究室セミナーへの積極的な参加に加え2週間に一度指導教員とのディスカッションを行い、研究の議論を重ねている。本年度の学会発表については、口頭発表を1件、ポスター発表を3件行っており、そのうち2件ではポスター賞を受賞した。さらに口頭発表を行った日本植物学会第87回大会ではシンポジウムに登壇しており、活発な議論を行うことができた。また、研究室内で解決できないような課題に当たった際には能動的に他大学、他研究機関の研究者とディスカッションの場を求めることで、研究をより無駄なく進めることができている。その結果、本年度は一報の論文を筆頭著者かつ責任著者として国際的な学会誌に投稿することも達成した。現在は次の論文の投稿準備中であり、また令和6年度中に国際学会への参加も控えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、基部陸上植物のコケやシダの精子と同様に走化性を持つ可能性が高いソテツ精子において、どのような分子メカニズムでその走化性が達成されているかを明らかにするため、走化性のカウンターパートとなる雌性配偶体にも着目した解析を展開する。はじめに取り組む課題は、精子を誘引する分子を放出する雌の組織・細胞種を同定することである。現在までに、生きた雌性配偶組織に対して精子を与えてその挙動を解析するsemi-in vivo精子誘引実験系を作製している。この系を用い、卵細胞、あるいはそれに隣接して存在し細胞の位置関係から被子植物の助細胞と同様の機能を持つと推測されている頸細胞を、それぞれ破壊して精子の挙動の変化を観測し、そのどちらの細胞から精子誘引物質が供給されているかを同定する。また、卵細胞と頸細胞とそれを取り囲む雌性配偶体組織からは受精時に分泌液が放出され、その中に精子誘引物質が存在することが考えられる。そこで現在この分泌液のプロテオミクスとメタボロミクス解析を実施しており、実際に分泌された分子選別を行う。その結合相手となる可能性のある精子側の受容体の候補検討を行い、実際の走化性を生じさせる分子機構に迫る。これらの解析によって明らかになったメカニズムが、植物のどの分類群と相同性が高いかを議論することで、植物受精機構の進化過程について考察を深める。
|