Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
本研究では、赤外線サーモカメラで撮影した熱痕跡をもとに、ヒトが指で対象に触れた際の摩擦力を推定する手法の構築を目的とする。熱痕跡を見ることで、温度変化の形で現れた摩擦熱という摩擦力に直接相関した物理量を観察することができる。機械学習と物理モデルとを組み合わせることで、汎用性や高雑音耐性を備えた手法の構築を目指す。本手法では、非接触に摩擦力推定が実現できるため、従来手法では適用が困難だった場面での活用が期待できる。
本研究では非接触な方法での摩擦力計測手法の確立を目的とし、熱痕跡を利用した摩擦力推定手法の構築に取り組んだ。諸般の事情により、わずか半年で研究課題を中断することになっため、十分な成果を上げることはできなかったが、いくつか今後につながる示唆を得ることはできた。ここでは半年間の研究成果について記す。初年度は推定に用いる物理モデルの設計に取り組んだ。研究課題が採択される前の研究では、深層学習に基づいた画像処理的な手法により、接触時の摩擦力を推定していた。初年度は、本モデルに物理的制約を取り入れ、推定精度や汎用性が向上することを目的とした。結果として、手法の構築には至らなかったが、具体的な要因として次の二つの課題が挙げられた。(1)サーモカメラで撮影した熱動画像は非常にノイズが乗りやすいため、ノイズを軽減するような工夫あるいは適切なデータの前処理が必要である。対象表面の熱が伝導する様子をサーモカメラで撮影し、それをプログラムで解析した結果、各画素の揺らぎが大きく、数値シミュレーションとは乖離するような結果が得られた。解析前に適当な解像度での平滑化を行うことで、これを抑制することができた。(2)熱に関する支配方程式だけでは、拘束条件が不足していたため、新たな拘束条件の導入または機械学習モデルによる補助等の工夫が必要である。近年、未知の物性値ごとモデルの出力に加えるような手法も提案されており、そうした手法も踏まえ今後検討したい。