中世イスラーム医学における聴覚障害:古代医学からの伝統に関する文献学的研究
Project/Area Number |
23KJ0806
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 01080:Sociology of science, history of science and technology-related
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
澤 裕章 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,600,000 (Direct Cost: ¥2,600,000)
Fiscal Year 2025: ¥800,000 (Direct Cost: ¥800,000)
Fiscal Year 2024: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2023: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
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Keywords | 中世イスラーム医学 / 聴覚障害 / ガレノス / 『アレクサンドリア集成』 / イブン・スィーナー / デジタル人文学 / 翻訳活動 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、中世イスラーム医学における障害者に対する認識を当時の文献研究から明らかにするものである。障害者をめぐっては、近年、インクルーシブ社会やSDGsの文脈で語られ、社会的な制度の整備など権利の保障が進んでいる。こうした障害者に対する認識が改善している一方で、歴史、特に中東における障害者観は明らかになっていない。日本だけでなく多様な障害者観を見つめなおすことで、日本における障害者理解が促進されることが期待される。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中世イスラーム医学における聴覚障害に対する認識を明らかにする。その際、重要な転換として、(1)ギリシア語からアラビア語への翻訳運動、(2)中世イスラーム医学の集大成としてのイブン・スィーナーと『医学典範』、(3)『医学典範』以後のイスラーム医学の発展が挙げられる。 2023年度は、主に(1)の翻訳活動に焦点を当て、古代医学の権威とされたガレノスが記した著作群の要約集である『アレクサンドリア集成』の中で言及された聴覚障害に関する知識がどのようにアラビア語圏に伝えられたかを扱った。具体的には、同著作群に含まれる『原因と症状について』に関して、正統と伝えられるテキストとは異なるテキストの翻訳者が伝承通りの人物であるかを、文献学的知見と翻訳的特徴の分析を通じて明らかにした。 また、これらの分析を行いながら、隣接する薬学分野においてより広くギリシア語で築かれた知識がアラビア語、さらにその他の言語圏でどのように発展したかについて、『医学典範』の影響を受けたペルシア語医学書『ホラズムシャーの貯蔵庫』を対象にした成果を挙げた。 さらに、近年注目が集まるデジタル人文学の分野との関連を念頭に置き、『医学典範』の一部をデジタルテキストの標準化を目指すTEI (Text Encoding Initiative)に準拠して記述することで、デジタル技術を用いた分析を行うための準備とその活用可能性について成果を挙げた。これにより、定性的な分析だけでなく定量的な分析を行う基礎を用意した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の想定通り、ギリシア語からアラビア語への翻訳活動に始まり、『医学典範』を象徴とするイスラーム医学の発展を通じて、その後の中東世界におけるイスラーム医学がどのように進展するのかという大局を示すことはできた。他方で、①主な文献を通読した結果、全体として聴覚障害に関する記述が少ないこと、②当初の計画では構想していなかった主題にも着手することになったことにより、計画した以上の進展を見せたとは言えない。しかし、これらは3年間の計画全体から見れば大きな問題にならないと考えている。それは以下の理由による。 A. 聴覚障害に関する記述が少ないことは予備調査でも確認していたことである。とはいえ、先行研究における状況に鑑みれば、それらの記述の相互関係を示すだけでも、十分に学術的価値がある。現に議論の素材は一定程度収集し終えており、成果として報告する準備を進めている。 B. TEIを始めとするデジタル人文学に関する知見は、本研究が目指すテキストから読み取れる認識の解明という課題に対して質的な観点以外にも量的観点からも分析ができるという点で相性がよく、そこで身に付けた知見や方法を通じて、従来とは異なる視点からもアプローチできるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画で示したように、2024年度は海外での研究調査を実施する予定である。主に欧州に存在する種々の医学文献の写本、特に『アレクサンドリア集成』の『原因と症状について』具体的には、ベルリン州立図書館とイスタンブル大学図書館所蔵のの写本を調査する予定である。これにより、議論の基盤となるテキストの校訂を進める。 他方で、進捗状況でも示した聴覚障害に関する記述を概観する成果を発表する予定である。また、記述の少なさを補うため、アラビア語史料に限定せず、後世のラテン語やペルシア語の医学文献との関連についても考察を進めたい。
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Report
(1 results)
Research Products
(3 results)