Project/Area Number |
23KJ0857
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 90110:Biomedical engineering-related
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
濱 理佳子 東京農工大学, 大学院工学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,000,000 (Direct Cost: ¥2,000,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
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Keywords | バイオマテリアル / 組織工学 / 創傷被覆材 / 皮膚再生 / ホーネットシルク / 立体構造 / 皮膚表皮層 / 全層皮膚欠損モデル |
Outline of Research at the Start |
裂傷や床ずれによる皮膚欠損の治療において、皮膚表皮層の再生は機能・美観の回復による患者のQOL維持に重要である。本研究では、スズメバチ由来シルク(ホーネットシルク)の示す上皮再生能力を応用した新規創傷被覆材の開発を目指す。 具体的には、繭を溶解して得た水溶液をキャスト、風乾して再生フィルムを作製し、繭中での立体構造を再形成させるための処理を行う。皮膚表皮層の再生誘導に対しより強く効果を示す作製方法・立体構造の再形成誘導条件を検討し、各再生フィルムの構造・物性の比較・考察から、皮膚表皮層の再生を誘導するメカニズムの解明を図る。
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Outline of Annual Research Achievements |
皮膚組織は表皮・真皮層に大別され、さらに表皮層は緻密な多層構造をとる。裂傷から床ずれ・糖尿病性の潰瘍まで多様なサイズ・深さの損傷を生じるが、広く深い欠損においては治癒の進行を誘導するため、創傷被覆材が使用される。黄色スズメバチが産生するホーネットシルクタンパクは爪の修復効果を示すことからネイルローションとして利用されている。爪が硬化した皮膚表皮層にあたることから、本研究では皮膚表皮層の治癒誘導への応用に向け、治癒を担う細胞に適した材料構造・物理化学特性を探り、プロトタイプの開発までを目標としている。 初年度には、タンパク質の立体構造が異なるホーネットシルクフィルム材料の作製条件の検討と、材料の物理化学特性評価、細胞応答評価を実施した。まず、医療応用に向けた再生材料開発研究が盛んな家蚕シルクフィブロインなどの既報を参考に、スズメバチの繭(まゆ)を精製・溶液化し、均一な薄膜再生フィルムを作製した。この溶液化過程において、繭中でのホーネットシルクタンパク質の高次構造(コイルドコイル構造)はランダムコイルへと解きほぐされてしまう。また、コイルドコイル構造は、分子間相互作用によりαヘリックス構造が捻じれて絡み合った高次構造である。そのため、繭中でのコイルドコイル構造を再形成、ないし、部分的に再形成されたαヘリックス構造からなる再生フィルムの作製条件を検討した。続いて、皮膚関連細胞を再生フィルム上で培養したところ、再生フィルムの立体構造の違い(コイルドコイル・αヘリックス構造)に応じて細胞増殖性が変化することが示された。さらに、ラットの全層皮膚欠損モデルにおいても、立体構造の違いを反映するように皮膚表皮層の再生と成熟度合いが変化することが示唆された。これらの結果に反して、再生フィルム表面の親水性、粗さには顕著な差は示されず、細胞応答に強く影響する材料物性が他にあることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、支配的な立体構造が異なる再生ホーネットシルクフィルムの作製条件を検討し、材料の立体構造解析と物理化学特性評価、細胞応答・組織再生誘導能の評価までを行った。ホーネットシルクの繭(まゆ)から均一な薄膜再生フィルムを作製するためには、スズメバチの巣に含まれる夾雑物を除去し、繭中でとるコイルドコイル構造を解きほぐし、溶液化する成形加工が必要である。このコイルドコイル構造は、αヘリックス構造が分子間相互作用によって形成する。そのため、再生フィルムに誘導可能な立体構造としては、解きほぐされたままのランダムコイル、αヘリックス構造、コイルドコイル構造と段階的に再形成されたものが考えられた。溶液化と再生フィルムのキャスト・風乾条件の検討の結果、溶媒選択によって支配的な立体構造が変化することを確認することができた。 続いて、細胞応答を変化させる立体構造の要件を探り、そのうえで実際に細胞が認識する材料の物理化学特性について寄与が大きいものを探ることとした。細胞応答については、in vitroにおける皮膚関連細胞の増殖性、ラット全層皮膚欠損モデルでの皮膚表皮層の再生・成熟度合いが立体構造の違いに影響されることが示された。さらに、一般に細胞応答へ影響を与える要因である材料表面の親水性と粗さを評価したところ、立体構造の違いによらず同程度であることが示された。すなわち、細胞応答により強く影響を与える材料物性の要素が他にあることが示唆され、次年度の検討項目を絞り込むことができた。 以上のように、再生フィルムの作製条件の広範な検討を経て、立体構造の異なる作製条件の確立を達成し、この材料の立体構造の違いが細胞応答と組織再生に影響を与えることを確認することができた。さらに国際学会を含む計4回の研究成果の発信を行い、筆頭論文を投稿準備中である。以上の理由により、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の研究は、特別研究員(PD)の受け入れ機関において本課題を並行して継続する。計画としては、初年度に確立した再生ホーネットシルクフィルム材料の作製条件に従い作製した再生フィルムを用い、細胞応答により強く影響を与える材料の物理化学特性の探索から行う。そのうえで、細胞が材料を認識する経路を遺伝子・タンパク質発現の変化から定量的に検討することで、皮膚表皮層の再生誘導に適した材料物性の調節を材料の立体構造制御から行うことを目指す。 具体的には、初年度に行った再生フィルム表面の親水性、粗さ(気中条件)は、再生フィルムの支配的な立体構造の違いに大きく影響されないことを確認している。そのため、これら以外に細胞がより強く認識している材料の物理化学特性を探るため、より詳細な解析を行う。タンパク質の立体構造は、含水により膨潤することで劇的に変化するため、水中条件下での材料表面の粗さ、硬さの評価を水中AFM測定から行う。さらに、支配的な立体構造によって、同じ一次構造からなる材料であっても立体構造(αヘリックス構造、コイルドコイル構造)の外側に位置するアミノ酸残基が異なることから、材料の電荷が変化する。よって、電荷の違いを受けた細胞培養培地中に含まれる血清タンパクの吸着叢の変化を電位測定、各種血清タンパクの吸着量から調査する。続いて、これらの物理化学特性を細胞が認識し、皮膚組織の再生に関する増殖・遊走・分化の挙動をどのように変化させたのかを明らかにすることで、より成熟した皮膚組織再生に適した細胞挙動を誘導しうる材料物性の調節へとつなげることを目指す。具体的には、細胞が接着している基材の粗さ・硬さを認識するメカノトランスダクション経路、材料表面へ吸着した血清タンパクを介した接着斑・細胞内骨格の再編成を免疫染色、RT-PCR測定、ウェスタンブロッティングから定量的に評価する。
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