Project/Area Number |
23KJ1043
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 45040:Ecology and environment-related
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
石原 凌 信州大学, 理学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,550,000 (Direct Cost: ¥3,500,000、Indirect Cost: ¥1,050,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
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Keywords | 性選択 / 代替交尾戦略 / 雄間闘争 / 地域個体群 |
Outline of Research at the Start |
雄の性的形質の発達には形態的・行動的な個体差が存在し、遺伝的要因や環境要因によって生じる。しかし、雄の代替交尾戦術を含む交尾戦略の系統進化について、遺伝・環境要因にまで踏み込んだ総合的な研究例はほとんどない。 シリアゲムシ科昆虫の雄は交尾前・交尾中に雌に餌を与える婚姻贈呈行動を行うことで知られ、婚姻贈呈の形態など交尾戦術には多様性があり、さらに地域で適した交尾戦術が異なることが分かっている。本研究は、交尾戦術の進化に影響を及ぼしている遺伝・環境要因について日本産シリアゲムシの種間・個体群間で比較・検討することにより、多様でユニークな繁殖形質の進化・多様化プロセスの究明やその遺伝的基盤を探る。
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Outline of Annual Research Achievements |
生物においては、体サイズや武器形質、そして求愛ダンスといった形態や行動 (性的形質)の発達には個体差が存在する。性的形質の個体差は、遺伝的要因や、個体群密度、餌資源量、捕食圧などといった環境要因によっても生じることが明らかとなっている。しかし、これまでの研究は室内実験によるものが主であり、雄の交尾戦略の系統進化について遺伝・環境要因にまで踏み込んだ総合的な研究例はほとんどない。研究代表者のこれまでの研究では、複数の代替交尾戦術が確認されているヤマトシリアゲ Panorpa japonicaにおいて、雄が採用する代替交尾戦術のパターンが、異なる2個体群間で差異が生じていることを確認した。また、シリアゲムシ類は分散能力が低いことから、他の日本産種においても異なる地域個体群内で交尾戦略の変異が生じている可能性も考えられる。そこで本研究は、繁殖戦略の進化における性的対立の強さと遺伝・環境要因の関連性、そして交尾戦略の進化による種分化の初期要因について明らかにすることを目的とし、日本産シリアゲムシ類の交尾戦術の進化に影響を及ぼしている遺伝・環境要因について種間・個体群間で比較・検討する。 2023年度では、日本産シリアゲムシ類の繁殖行動を日本各地で観察し、その行動形質を記録する野外観察及びサンプリング、そして室内にて行動観察実験を行う。また、国内産シリアゲムシ種の特定遺伝子領域の塩基配列情報に加え、ゲノムワイドな一塩基多型解析 (MIG-seq、GRAS-Di法)により頑健な分子系統解析を実施する。既に累代飼育法を確立している種で累代飼育を実施しながら、特定の繁殖行動を行う系統を維持し、特定の交尾戦術を採用した個体の繁殖行動時に発現していたRNA(機能遺伝子)を抽出しておくなど、特定の交尾行動を司る遺伝的基盤の究明が可能となるような、RNA-seqのための解析試料を確保する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2023年度では、ヤマトシリアゲP. japonicaの徳島、神戸、鳥取、松本、弘前の各個体群を対象に、代替交尾戦術のパターンに地理的な連続性が存在するか検証すると同時に、各地域個体群の種内系統と代替交尾戦術パターンの関係性について調査を行った。野外観察実験および室内実験の結果、各地域個体群間で代替交尾戦術の変異に地理的な連続性は検出されなかった。野外観察を実施した各地点で、個体群密度の調査を行った結果、雄の代替交尾戦術に影響を与えている直接的な要因は、個体群密度及び餌場での雌との遭遇頻度に個体群間で差が確認された。各調査地点で得られたサンプルを用いて、ミトコンドリアDNA COI領域について分子系統解析を実施した結果、各地域個体群間の遺伝的距離は地理的距離や代替交尾戦術頻度を反映しておらず、また各地域個体群が長期にわたって安定的に維持されている可能性が示された。このことから、ヤマトシリアゲで観察された代替交尾戦術パターンの地理的変異は各地域内の微小な環境の差異によって、個体群密度や餌場での雌との遭遇頻度に差異が生じていることに起因している可能性が考えられた。また本年度では、プライアシリアゲ P. pryeri,キシタトゲシリアゲ P. fulvicaudariaなどの累代飼育に着手し、このうちプライアシリアゲでは累代飼育に成功し、実際に室内実験による行動観察実験を行うことに成功した。 これらのことから、各シリアゲムシ類の行動データの収集においては十分な進捗が得られているといえる。しかし分子系統解析では、COI領域を除くその他の遺伝領域の解析については当初の計画よりも遅れが生じている。遺伝解析用サンプルの確保は順調であるため、分子系統解析自体は可能である。今後、行動観察と並行して、複数の遺伝領域の解析を急ぎ推し進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度以降では、遺伝系統と代替交尾戦術頻度の関係性の詳細を明らかにするために、調査範囲を九州や四国西部など岡山県以西まで拡大し、代替交尾戦術パターンの把握することや、代替交尾戦術パターンの変異の維持メカニズム解明を目的とした室内実験、核DNAなどより多くのDNA領域を用いた網羅的で且つ詳細な遺伝系統解析を実施することを予定している。室内実験では、ヤマトシリアゲの代替交尾戦術が各個体の繁殖成功率にどのように寄与しているのかについて、交尾持続時間や交尾頻度を各代替交尾戦術で比較を行う。また、個体密度の操作や捕食者への暴露など、累代飼育個体を使用した室内環境操作実験も実施する予定である。 日本産シリアゲムシ科昆虫の遺伝子解析用サンプルの収集に関しては、代表的な種の遺伝子サンプルはすでに確保済みであり、今後、ミトコンドリアDNAや核DNAなど遺伝子解析を推し進める予定である。
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