Project/Area Number |
23KJ1159
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 29010:Applied physical properties-related
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松本 啓岐 京都大学, 化学研究所, 特別研究員(CPD)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2028-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
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Keywords | フォノン-マグノン結合 / 表面弾性波共振器 / 人工反強磁性体 |
Outline of Research at the Start |
固体表面を伝わる音波である表面弾性波を磁性体へ入射すると、磁性体中の電子スピンが媒質となるスピン波が生じる。それぞれの波を量子系としてみなし、フォノン(表面弾性波)とマグノン(スピン波)が結合した系とみなすとき、結合が強いほど二つの量子系で散逸なく情報を交換することが可能となる。本研究では、電子スピンが互い違いに揃ったフェリ磁性体において、散逸なく情報交換可能な強結合状態の実現を目指す。フェリ磁性体は合金の組成を変えることで磁性を制御でき、これによりフォノン-マグノン結合を大きくできることが期待される。実験で結合の組成依存性を調べ、結合の大きな組成で強結合状態を観測することを目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
強磁性体薄膜と非磁性体薄膜との多層積層構造である人工反強磁性体において、固体中の弾性波(フォノン)と、磁性を担う電子スピンの歳差運動の伝搬波であるスピン波(マグノン)の結合を調べた。くし型電極の外側に反射器を取り付けた表面弾性波共振器を作製し、導波路上にコバルト鉄ホウ素合金薄膜とルテニウム薄膜から成る人工反強磁性体を製膜した系について、表面弾性波の透過スペクトルの印加磁場依存性を調べた。その結果、スピン波の共鳴周波数が表面弾性波に一致する条件下において、フォノン-マグノン結合により表面弾性波スペクトルの透過ピーク振幅、中心周波数及び線幅(ピークの半値幅)が変化することが分かった。マグノンの周波数は外部磁場に依存するため、特定の磁場下で表面弾性波スペクトルが変化するのはフォノン-マグノン結合に由来するものであると言える。 フォノン-マグノン結合定数を組み込んだフォノン及びマグノンの運動方程式を連立して解き、実験結果からフォノン-マグノン結合定数を算出する手法を明らかにした。マグノンと結合していない本来のフォノンの線幅に対する、マグノンと結合したときのフォノンの線幅から、結合定数の大きさを定量的に算出できるとわかった。本研究では表面弾性波共振器に生じる多数の透過ピークに対してこの解析を行い、理論モデルが実験結果によくフィットすることを示した。これを基に人工反強磁性体の結合定数を算出した結果、強磁性体における先行研究の値と比べて同程度の値が得られた。今後、磁気弾性材料エンジニアリングや、より高い共鳴周波数をもつ表面弾性波共振器の作製によって、結合定数の増加及び強結合の実現が見込まれる。理論計算により、結合定数が周波数の増加に伴い増加すること、人工反強磁性体に生じる二つの異なるスピン波モードと表面弾性波の結合が外部磁場によって変調されることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は強磁性体薄膜と非磁性体薄膜との多層積層構造である人工反強磁性体を対象に研究を行い、結合方法の実験的な定量測定手法の確立した。また、表面弾性波の周波数や共振器の構造、磁気弾性結合定数などが結合定数へ与える影響を考察し、人工反強磁性体における強結合実現へ向けた考察を行った。 本研究は反強磁性的な磁気モーメントを有するフェリ磁性体において、固体中の弾性波(フォノン)と、磁性を担う電子スピンの歳差運動の伝搬波であるスピン波(マグノン)の間で強結合(結合定数がそれぞれの励起モードの散逸レートよりも大きい状態)を実現することを目指すものである。人工反強磁性体はフェリ磁性体の磁気構造を簡易化した物理モデルを使用して議論できる系であり、層間に生じる反強磁性結合の制御性が高いという特徴がある。そのため、人工反強磁性体におけるこれらの研究成果は、フェリ磁性体における研究を行う上での基礎を築いたと言えるため、本課題の進展において重要な役割を果たしたと考えられる。また、共振器などのデバイス作製工程に関しても、人工反強磁性体を用いた研究を経て多くの知見が得られており、これは今後のフェリ磁性体における研究に役立つものと言える。以上の理由から、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
圧電基板上への希土類フェリ磁性体の薄膜及び磁気特性(磁化、強磁性共鳴周波数、ギルバートダンピング定数、磁気弾性結合定数)の系統的な調査を行う。特に、ギルバートダンピング及び磁気弾性結合定数はフォノン-マグノン強結合を達成するうえで重要な物理量である。これらの値をフェリ磁性体の組成を変えながら調べ、結合定数がなるべく大きくかつダンピングがなるべく小さくなるような組成を見つける。 それと並行して、表面弾性波共振器の作製プロセスの改善を行い、より高い周波数の表面弾性波を励起できる表面弾性波共振器を作製する。結合定数はフォノン及びマグノンの周波数にも依存し、一般に周波数が高いほど結合定数も大きくなるため、表面弾性波共振器の周波数向上に努める。 また、酸化物フェリ磁性体であるイットリウム鉄ガーネット薄膜についても磁気特性の調査を行う。特に、ビスマス元素をドープすることでダンピング定数や磁気弾性結合定数がどのように変調されるかを調べる。ドープするビスマスの割合を変えながら系統的な調査を行うことで、ダンピング定数の増加を抑えたまま、フォノン-マグノン結合定数の増強を図る。 10ナノメートル以下のガーネット薄膜を作製し、微細加工と圧電体薄膜の製膜によって表面弾性波・バルク弾性波共振器を作製する。このデバイスについて散乱行列測定を行い、フォノン-マグノン結合定数を実験的に検出する。ビスマスドープ量の異なる試料に対して実験を行うことで、結合定数が大きくなるような試料を見つける。
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