Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
自然環境下において、植物ウイルス・植物・食害昆虫のような敵対関係を含む系が、崩壊せずに持続している場合があり、どのような相互作用がそのバランスを保っているのかを明らかにすることは重要である。本研究では、「カブモザイクウイルス(TuMV)感染が宿主植物ハクサンハタザオの遺伝子発現を変化させ、宿主へのアブラムシによる被害を軽減させている」との仮説の検証を行う。野外調査、室内操作実験、遺伝子機能解析を組み合わせた検証を行うことで、自然環境下で観察される現象とその要因を遺伝子レベルで解明する。
初年度は、「カブモザイクウイルス(TuMV)感染が宿主植物ハクサンハタザオの遺伝子発現を変化させ、宿主へのアブラムシによる被害を軽減させている」との仮説の検証のために、(1)野外調査による、ウイルス感染植物上でのアブラムシ数の調査(2)室内操作実験によるアブラムシ活動の観察(3)トランスクリプトーム解析を行った。(1)野外調査では、対象植物ハクサンハタザオ上でアブラムシが観察された4月中旬から6月にかけて週1回の頻度で兵庫県多可郡多可町門前にある調査地で行った。その結果、TuMV感染植物上でアブラムシ数が有意に少ない日が複数回あった。そこで(2)室内操作実験を行い、アブラムシ数の減少の要因として考えられる、移動の促進・アブラムシ産子数の増加のどちらにウイルスの感染は強く影響を与えるかについて検証を行った。その結果、ウイルス感染の有無はアブラムシの植物間の移動には影響せず、産子数の減少を有意に引き起こすことが明らかになった。さらに、どのような植物の変化がアブラムシの産子数の減少に寄与しているのかを明らかにするために(3)自然環境下から採取した葉のトランスクリプトーム解析を行った。TuMV感染の有無、アブラムシの存在の有無で4グループに分け、TuMVおよびアブラムシ両方存在しない時のトランスクリプトームとの比較解析を行った。その結果、TuMVおよびアブラムシ両方が同時に存在する個体で有意に発現変化する遺伝子数が、どちらか片方の存在下の個体に比べ多いことが明らかになった。また興味深いことに、これまでアブラムシの吸汁や産子数を増加または減少させると報告のある遺伝子の多くは、有意な発現変化が見られなかった。一方で、いくつかの一次・二次代謝物合成の経路全体で発現変動がみられ、ウイルス感染によるアブラムシ産子数の減少に新規の分子メカニズムが寄与していることが示唆された。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
当初の計画どおり、野外調査、室内実験、トランスクリプトーム解析を実施した。これまでの報告とは異なり、「カブモザイクウイルス(TuMV)感染が宿主植物ハクサンハタザオの遺伝子発現を変化させ、宿主へのアブラムシによる被害を軽減させている」という新規相互作用を明らかにできた。一方で、トランスクリプトーム解析では既知のメカニズムでは説明できない可能性が示された。ウイルス感染によるアブラムシ産子数の減少に新規の分子メカニズムをが示唆されたため、今後、因果関係を明らかにするための検証が必要である。また、これまでの研究成果の一部は、2つの国際学会と2つの国内学会にて報告することができた。これらの状況を加味し、2023年度はおおむね順調に研究を進展できたと判断した。
最終年度は、カブモザイクウイルス感染植物上でアブラムシ産子数が、どのような分子機構で起きているか因果関係を明らかにするための検証を行う。研究業績の概要欄に記したトランスクリプトーム解析の結果をもとに、カブモザイクウイルスに感染すると発現が高くなる遺伝子の中から、アブラムシ防御に関わることが予想される遺伝子を選抜した。その選抜した遺伝子について、ハクサンハタザオに近縁のモデル植物シロイヌナズナを使って検証をおこなう。現在、対象遺伝子にT-DNAが挿入されている変異体、35Sプロモーターで対象遺伝子を過剰発現させた変異体を取得している。これらの植物を用いて、室内でアブラムシ産子数の変化、また、アブラムシ産子数の減少によるウイルスの伝播率の変化を検証する。昨年度までの研究成果は、現在執筆中で5月中の投稿を目指す。全体の研究成果は3月に金沢で行われる日本植物生理学会年会において発表する予定である。
All 2023
All Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results, Open Access: 1 results) Presentation (5 results) (of which Int'l Joint Research: 2 results, Invited: 1 results)
Physiol. Plant.
Volume: 175 Issue: 4
10.1111/ppl.13957