Project/Area Number |
23KJ1324
|
Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 43040:Biophysics-related
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
菱田 温規 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
|
Budget Amount *help |
¥3,000,000 (Direct Cost: ¥3,000,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,000,000 (Direct Cost: ¥1,000,000)
|
Keywords | 理論生物学 / 代謝 / シグナル伝達 / 化学反応ネットワーク |
Outline of Research at the Start |
細胞内では複数の化学反応が同時に進行しており、それらは複雑な代謝システムを構成している。細胞が遺伝子発現等を通して代謝システムをどのように制御しているかを明らかにすることは、新薬の開発や細胞機能の進化に関する理解につながる生命科学における重要な課題である。数理的手法である構造感度解析を用いることで、代謝システムを制御するための単位構造を発見することができるが、従来の手法では理論的制約からデータベース上の多くの代謝システムが解析不可能であった。本研究では、従来理論を数理的に拡張することで、データーベース上の代謝システム全てに構造感度解析を適用し、制御のための単位構造を発見することを目指す。
|
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、生物が複雑な代謝全体を制御するメカニズムを明らかにするための数理手法の、理論的な構築を行った。 生物の生存に必要なエネルギー合成や細胞分裂などの機能は、細胞内で進行する数千の化学反応によって実現されている。それらの反応は反応物質を介してつながることで、複雑な化学反応ネットワークを形成している。このネットワークの構造は、進化やがん化の進行に伴い細胞が新たな反応を獲得する、もしくは欠損することで変化することが知られている。 化学反応からなるネットワークの制御メカニズムを解析する手法はすでに存在しているが、従来の手法を適用するためにはネットワークが安定な定常状態を持つ必要があった。しかし、生物のデータベースに登録されている代謝ネットワークの大部分は、反応情報の不足から一部の物質濃度が発散するなど、安定な定常状態を持たないため、従来理論は適用不可能であった。 本年度、我々は代謝ネットワークの構造変化が、細胞の代謝機能に与える影響を決定するための理論を開発した。この理論では、代謝ネットワークに新しい反応が1つ追加されることで、細胞の代謝調節機能にどのような変化が生じるかを決定する。この結果を用いることで、がん化の進行が代謝調節機能に与える影響や、がん細胞の増殖を抑えるための新たな薬剤標的の提案を行った。 さらに、この結果を利用することで、ネットワークが不安定な場合に、そのネットワークを安定化させるような反応の存在を予測することができる。すなわち、濃度が無限大に発散するなど生物学的に不自然な部分を特定し、その部分を制御可能にするような反応を予測すれば、その反応によってネットワークが安定化し、全体の制御メカニズムを明らかにすることができる。これらの結果は、国内外の学術集会、また査読付き国際誌にて発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、申請時に予定していた通り、従来の数理理論では解析できなかったネットワークに対しても適用可能な理論の構築を行った。具体的には、従来の理論が適用できない代謝ネットワークは、ネットワーク構造に基づく行列が逆行列を持たないことが明らかとなっていた。そこで、逆行列の代わりに疑似逆行列を計算することで、データベース上のすべてのネットワークに解析を行う計画であった。しかし、疑似逆行列を用いた方法では、反応活性化による物質の濃度変化が一意に定まらないため、大部分の物質濃度や反応速度が決定不可能となってしまうことが明らかになった。 この問題に対処するため、新たな方針として、ネットワーク解析を阻害している部分構造を特定し、新しい反応を追加してネットワークを安定化させるアプローチを目指した。実際、解析不可能となっているネットワークは反応が不足しているために、一部の物質濃度が無限大に発散するなど、生物学的に不自然な構造となっていることが数理解析によって分かった。さらに、ネットワークの構造から定まる指数に着目すると、解析不可能であるネットワークには指数が0より大きくなっている部分構造が存在し、この部分の物質濃度が発散していることが分かった。 今年度はネットワークの指数を減少させる反応の追加方法を特定する理論の構築を行い、査読付き国際誌に論文を投稿した。この理論を用いることで、従来解析不可能であったデータベース上の巨大なネットワークに対しても、ダイナミクスの解析が可能となったことを確認している。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で明らかとなった問題は、解析が不可能だったネットワークが含む、物質の濃度が無限大に発散するなどの生物学的に不自然な構造である。また、これらの構造は、物質数や反応数から導出される指数が正の値を取ることが判明した。この発見に基づき、今後の研究ではこれらの部分構造の指数を減少させ、ネットワーク全体の安定化を図るための反応を理論的に予測することを目指す。このためには、昨年度に出版した論文で開発した理論を用いて、部分構造の指数変化を実現するための反応を追加するアルゴリズムを開発する。 このアルゴリズムを活用して、安定化されたネットワークに対して感度解析を適用し、細胞が複雑な代謝ネットワークをどのように制御しているかのメカニズムを明らかにする。さらに、この分析をKEGGなどのデータベースに登録されているさまざまな生物のネットワークに適用することで、生物種間での代謝制御メカニズムを比較することが可能になる。例えば、好気代謝を行う生物と嫌気代謝を行う生物との間で、TCAサイクルなどの代謝パスウェイの制御の違いを明らかにできることが期待される。 これらの成果をもとに、未知の化学反応を予測するネットワーク解析技術とその生物学的応用に関する論文をまとめて、学術誌に投稿する予定である。
|