Project/Area Number |
23KJ1396
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 32010:Fundamental physical chemistry-related
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
薮 俊佑 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,700,000 (Direct Cost: ¥2,700,000)
Fiscal Year 2025: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2024: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2023: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
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Keywords | 光捕集アンテナ / 粗視化分子動力学法 / 励起エネルギー移動 |
Outline of Research at the Start |
光合成のための光を集めるシステムの構造は絶えず揺らいでおり、様々な波長を持つ光を吸収し伝達することができる。光合成システムのタンパク質は多数のアミノ酸を構成要素とする高分子であるため、構成要素1つ1つの局所的な揺らぎからタンパク質全体の大きな揺らぎまで、様々なスケールの揺らぎが含まれている。本研究では粗視化分子動力学法と呼ばれる効率的なシミュレーション技術を用いて、従来法で取り入れるのは難しかった大きな揺らぎを考慮することで、光合成システムの光の吸収と伝達の仕組みを明らかにする。
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Outline of Annual Research Achievements |
紅色細菌の光合成系では色素とタンパク質から構成されるコア光捕集アンテナLH1と多数の周辺光捕集アンテナLH2が反応中心の周囲に存在しており、反応中心への効率的な光エネルギー伝達を行っている。このような系では、色素とその近傍のタンパク質の相互作用に加えて、異なるアンテナのタンパク質間のより長い時間スケールの相互作用が働いている。 本研究では、多数のアンテナと反応中心から構成される光合成系全体におけるエネルギー移動の仕組みをシミュレーションによって解明する計算モデルを作ることを目的とする。このような計算モデルには2つの要件がある。要件1は、LH2単量体の光学特性を精度よく再現することである。要件2は、脂質二重膜の中に多数のLH2とLH1が共存する実際のクロマトフォア環境を模倣した大規模な系の運動を現実的なコストでシミュレートすることである。本年度は要件1を満たすことを目指して既存モデルの拡張および修正に取り組んだ。 要件1では計算モデルによりLH2の吸収スペクトルを再現することを目標とする。LH2の吸収スペクトルを良好な精度で再現するためには、熱運動で揺らいでいるLH2内の色素集合体の電子状態を良好な精度で記述できる必要である。LH2の色素集合体には16個の色素が重なったリング構造が含まれるため、色素集合体の励起状態を色素1つ1つの局所励起状態の和では扱うことができない。そこで、隣接色素間の電荷移動状態を考慮するように既存モデルを拡張した。拡張した現在のモデルで計算した吸収スペクトルは既存モデルと比較して精度を向上させたが、十分ではなかった。原因を解明するために色素内部の振動モードや色素周辺のアミノ酸環境に注目して解析を行った。その結果、現在のモデルではリング内の色素のアセチル基とトリプトファンとの水素結合の記述が正確ではないことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究実施計画では要件1として光捕集アンテナ単体の励起状態計算モデルを完成させ、要件2として光合成系における光捕集アンテナの集合体の運動を解析する粗視化モデルと連成させる予定であったが、要件1の実装途中で現在の計算モデルに予期していた以上の問題が発見されたため、要件2の実装に着手できなかった。要件1で発生した問題に対する原因の解明には量子化学計算と全原子分子動力学法を結びつけた計算スキームによる複数条件のサンプリングが伴うため、原因の解明のための計算時間が研究の遅れにつながった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に引き続いて現在の計算モデルが抱えている問題を解決して要件1を実装する。また、要件2において要件1の実装と独立している部分については要件1の実装と並行して速やかに着手する。具体的には、LH2やLH1とそれを取り巻く脂質膜環境をシミュレートするための適切な粗視化モデルを調査し必要に応じて作成する。タンパク質の粗視化モデルとしては水―脂質膜環境においてパラメータが最適化されているMartiniモデルを検討する。色素については本年度の研究によってアセチル基の取扱いの重要性が示されたため、繰り返し逆ボルツマン法などを用いて適切な全原子モデルから粗視化モデルを導出することを検討する。 要件1の実装が完了した後は、要件2の実装を進める。粗視化分子動力学法によってクロマトフォア環境におけるLH2やLH1の集合体の運動をシミュレートし、隣接光捕集アンテナ間のタンパク質の遅い運動の揺らぎや相関を調査するための基盤を構築する。光捕集アンテナのタンパク質の遅い運動とアンテナ間の励起エネルギー移動などの光学特性の関係を調査するために、粗視化分子動力学法でサンプリングされた多数の構造から出発して要件1で実装した励起状態計算モデルを適用する。ただし、計算コストが想定を上回る場合には機械学習の手法なども検討して高速化を図る。
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